35 ガール・ミーツ・ボーイ&ガール

前世の親友・今川薫のパラレル体は女性だった。


男女比は1対12。それなら前世の男子の大半が女子になっていて当たり前だった。


重ねて言うが、勇太は今頃になって気付いた。


それはともかく、前世の薫と同じ感じで短時間で仲良くなれた。


それにルナとカオルは柔道を通じて面識があった。


インターハイが終わるまでは、カオルは普段以上の柔道漬け。その後にみんなで遊びに行こうと約束した。



そろそろフードコートから引き上げようとしたときだ。


「ユウ兄ちゃん」


「あれ、梓。どうした」


ネットでカオルを見た梓が来た。勇太がルナ、自分に続いて早くも3人目の女を釣ってしまったと思っている。


早すぎるし、焦ってしまった。


そして、なんだかカオルが気になって足を運んだ。


梓も子供時代、勇太のところに遊びに行って何度かカオルに会ったことがある。あのカオルなのか確かめたかった。


梓はカオルのところに一直線に向かった。


「私、ユウ兄ちゃんの従妹の・・。あの、やっぱ・・カオルちゃん?」


「あれれ、おめえって梓だよな・・」


礼儀正しい梓らしくもなく、いきなりカオルに疑問を投げかけた。



そういえば、と勇太は思い出している。


前世では今川薫と梓は仲が良かった。というか、それ以上に進展しそうだった。


男の兄弟しかいなかった薫は、勇太の妹の梓を可愛がっていた。


梓はブラコン気味で勇太にくっついていたが、勇太が中3になる頃には心境が変化した。


『カオルちゃんってカッコよくなってきたよねー』と言い出した。


前世の薫と梓は5学年違った。薫が中3のとき梓は小4。


そのくらいの年齢だと5学年差は大きすぎる。当時は薫も勇太も笑って聞き流していた。


しかし梓の気持ちは揺らぐどころか、強くなっていった。


やがて勇太が病気で倒れた。美少女に育った梓が、薫を引っ張って病室に来るようになった。


まだ病気の詳細を知らされていなかった梓は、勇太が元気になったら、またみんなで出かけようと笑った。


高校、大学でも柔道を続けていた薫の試合や練習を梓は見に行っていた。


薫の仲間に梓との関係を聞かれたとき、梓自身が彼女と紹介したと勇太は聞いた。


勇太の最期が近付き、薫に目配せしたとき、薫が目に涙を浮かべながら言ってくれた。


『梓のことは、命がけで守るから任せておけ』


体は辛くても、勇太は嬉しかった。



今、パラレル梓はパラレルカオルと目があった。そして不思議な感覚に包まれている。


ここに来たのは嫉妬心から。


昨日、勇太がカオルと再会したことを教えてくれた。


その出会いは勇太とルナの時のように、自分が理解できない特別なものだと感じた。


正直に言えば悔しかった。


勇太とルナの始まりはドラマチックに映った。勇太が瀕死の重症を負った直後、ルナの冤罪を晴らした。


あのときと同じように、自分には分からない深い繋がりを勇太とカオルに感じた。


焦りからここに来てしまった。



けれど梓は今、なんのためここに来たのか忘れてしまった。


カオルだけが視界に入っている。胸がドキドキしている。


「・・カオルちゃん、格好良くなった・・よね」


「梓、すげえ綺麗になってる」


カオルも梓に見とれてしまった。そして梓の方がカオルに近付いて手を握った。


ガール・ミーツ・ガール。


この世界ではよくある光景。


その上、2人の至近距離に人気急上昇の勇太までいる。



ガール・ミーツ・ボーイ&ガール


カオルがモテているように見える。


勇太は人気急上昇中。


梓も美少女で元カノが茶薔薇学園にもいる。まずまず目立つ存在である。


対してカオルは頭ボサボサ。男子なんて高校生になってまともに話したことがない。彼女もいたことがない。


なのに、いきなりエロカワ男子・勇太と美少女・梓に挟まれている。


桜塚部長が呟いた。「カオルの裏切り者」



カオルは柔道をやる人間の間では有名人。まったくモテないことも、意外とみんな知っている。


だからこそ、驚かれている。


見つめ合うカオルと梓。


「カオルちゃん、連絡先教えて・・」

「おう・・」


いきなり甘い雰囲気を醸し出した2人に、一緒に来た35人が驚いている。


平常運転なのは、勇太とルナだけ。


勇太は、この世界でもカオルと梓は相思相愛になるのかな~と、呑気なことを考えている。



ルナはカオルが現れたことで、勇太の嫁候補が増えてくれたと思っている。


地味で静かな場所を好むルナ。どこに行っても注目される現状に慣れていける気がしない。


ルナの目標は勇太の10人目の嫁。これで自分の順位が梓、カオル、自分で3番目に下がってくれたと思っている。


勇太には最低でも7人は嫁を増やしてもらい、自分を目立たなくして欲しいと願っている。


純愛? それはなんのことでしょうか。


◆◆

後日、カオルたち茶薔薇柔道部は個人戦と団体戦の両方でインターハイ切符をかけた決戦がある。


このあたりは勇太の前世とは異なる。


晴れてインターハイ切符を手にすると、8月2日から本戦に挑む。


もちろん勇太、ルナ、梓も応援に行く。


出会いから10日後、勇太は上機嫌だ。


会いたかったパラレルカオルに会えた上に、短期間でカオル、梓、ルナが仲良くなった。


梓が小まめに2人と連絡を取り合っている。


そして今日も勇太は、強烈なルーティーンをこなしている。


6月15日の土曜日は、午前2時から看護師の希望者を募ってカラオケボックス。


女神印の声を響かせ騒ぎになった。


午前5時から夜勤明けの看護師軍団も合流してファミレスに行ったあと、7時からルナ、梓、中学生軍団と河川敷グラウンドでランニング。帰宅して梓、ルナ、葉子と朝ご飯。


午前9時半からリーフカフェの手伝いをして、午後8時からルナとデート。カフェにはパラ高生、練習帰りのカオルらも来てくれた。


とにかく女の子が喜んでくれるので、女神印の回復力を活用して動き回っている。


この日、ルナとはいいムードになりすぎた。見つめ合っているうちに、そんな雰囲気になった。


そのまま勇太の部屋に行って、2度目のちょめちょめ。日曜の朝4時まで励んでしまった。



朝食を取り、遠慮されたがルナを家に送った。日曜9時から出勤。勇太は最高の気分でリーフカフェに向かった。


しかし、カフェから噴水をはさんで向かい側にあるコーヒーチェーン店が勇太対策を立てていることを知った。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る