31 突然ですが柔道の時間です

いきなりスポ魂である。


勇太は前世ルナに想いも残しているが、次元レベルで離れてしまった。


だから目の前のパラレルルナを幸せにするとこが大事だと思う。


勇太は柔道部所属。もう6月も間近でパラレル高校がある地域でもインターハイ予選が始まる。


柔道部7人の中で、なにげに勇太が一番弱い。


勇太も個人戦と団体戦の両方にエントリーしてある。


水曜日。


例によって体育館の隅に畳を敷いて部活スタート。勇太目当ての入部希望者がいるが、インターハイ予選前だから時子部長が全員断っている。


勇太は入部して短期間でも、真剣に柔道をやっている。


ただ見学者は増加傾向にある。


普段は1日に20時間くらいフル活動できる体力チートの勇太は、基礎体力も上がっている。


それでも来週から始まる予選大会には、実力ではレギュラーでは入れない。技術が足りない。


基礎スペックが平凡なのは女神との約束通り。夜中に練習するギターもうまくならないが、すごく楽しんでいる。


今日は1年生トリオのマルミ、タマミ、キヨミに技を習った。


この3人も初段で来年は2段検定を受ける実力者。


身長155センチ54キロ。図ったように同じ。顔も可愛い系のショート。黙っているときは、勇太は3人の区別がつかない。


前世の誰かに似ている気がするけど、今のところは思い出せない。


3人は体重が標準より重くても、筋肉がきれいに付いて体型はすっきりしている。


最初はマルミ。「私は投げ技を教えます。体重は重めですが、心は乙女っす」


「いや、マルミちゃん。太って見えない。むしろ綺麗だよ」


「あ、えへ」。なにげに破壊力が磨かれてきた勇太だ。


笑っているが、組んでみると茶薔薇の強豪達と変わらないくらい重圧が。4回投げられた。


2番手はタマミ。「得意の足技をお教えします。ごつくてすみません」


「肩のラインがきれいだし、可愛いって」

「ふわっ、初めて言われました・・」


喜んだタマミだが、柔道では容赦ない。勇太は足技で頭がふらつくまで転ばされまくった。


キヨミが最後。「・・じゃんけんに勝ったから、寝技教えるね」

「遠慮なくきてね、キヨミちゃん」


体育館の中が、先週同様にざわついた。


キヨミは足技で相手を崩し、そこから寝技に移行する方法を教えてくれた。


熱血指導に勇太も真剣に応じた。本気でやったらキヨミの圧勝だった。


問題はキヨミの次の指導で起こった。


勇太が技をかける側に回ってキヨミを押さえ込んだ。


その時、手順を間違えた勇太の左腕が、キヨミを仰向けにして股間に通ってしまった。


胴着のズボン、パンツをわしづかみにして、中指がケツの割れ目に食い込んでいる。


そしてキヨミの上から体重をかけた。


横四方に見えないこともないけれど変な形。それでも勇太は真剣。


「え、え?勇太先輩・・」

「キヨミちゃん、これでいいの?」


「・・ばっちり」。ウソでアル。


神聖な部活中であると思いつつ、勇太の感触を堪能してしまった。


こんな一幕はあるが、切磋琢磨している。


「勇太、お前も団体戦の初戦に出ろ。先鋒だ」

「え」


部活の終わり際、時子部長の提案に驚いた。


「大会は勝ち抜き戦なんだよ。初戦の相手校は白帯3人に初段が2人だ。おめえが負けても、アタイらが挽回するよ」


「おお、ぜひお願いします」


中堅、副将、大将の3番手、4番手、5番手はルナ、田町先輩と時子部長の3年生で固定。勇太と1年生を含めた4人で先鋒、次鋒を回していく作戦だ。


「まあ、同地区に茶薔薇学園がいるから、地区2位がギリギリかな」


「桜塚部長のとこか。勝つのは厳しいのか、ルナ」

「まあね、全国区2人に、インターハイ経験者が3人いるもん」


「うわあ、前の合同稽古でも歯が立たなかったもんな。この前の練習のとき、全国区の2人いたのかな」

「合同練習のときは2人とも近くの大学に稽古に行ってたから、まだ勇太は会ってないよ」


「まあ、勇太も柔道部に正式入部してくれたしベスト尽くそうぜ」


みんなのかけ声で、練習再開。


勇太の練習にも熱が入る。純粋に柔道の試合に出られるという楽しみがある。


◆◆◆


大会当日。そこまで人気がない柔道地区予選なのに、会場の原礼留市民体育館は大変な騒ぎになっている。


パラ高柔道部のせいだ。


茶薔薇学園とパラ高の合同練習風景がネットに流れ、勇太の半裸が映りまくった。


女子達が今大会のパラ高柔道部をチェックすると、勇太がエントリーされているではないか。


平日なのに、300人もの女子生徒が勇太を見にきた。これがエントリーした21校の柔道部員と混じって、人だらけ。


勇太は、またも勘違いして余裕の表情だ。


茶薔薇を含む有力3校には、発奮材料とするため学校側に頼まれた男子生徒が応援に来ている。その3人が、みんな高身長のハンサム。


彼らが女子に囲まれているので、自分は周囲に飛び交う黄色い声援とは無関係と思っている。


「おおう、すげえ熱気だな、ルナ」


「あんたのせいや・・」。さすがにルナだけでなく、時子部長ら全員がツッこんだ。



さて試合である。パラ高先鋒の勇太が見回す限り、男子選手はいない。


敵は原西高。敵校の先鋒ヤマオ選手が、戦う前からガッツポーズしていた。


勝敗ルールは勝ち抜き戦。引き分けは両方とも次の試合から抜ける形式である。


敵校の次鋒選手が、仲間の先鋒ヤマオに向かって「負けろー。アタイにも男子と試合させろー」と叫んでいる。


マナー違反だが、女の子たちは誰もとがめなかった。


初めて男子と柔道をするチャンスが目の前にある女子達からしたら仕方ない。


そんな注目の一戦であっても、勇太は意外に平常心。


転生して1ヶ月近くが経過して人に見られるのも慣れてきた。


ほどよく緊張感を持って、試合に臨んでいる。


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