11 ルナのための嘘

前世で坂元勇太、花木ルナが親しくなったきっかけは、1学年下で勇太の幼馴染みの山根純子。


同じ合気道道場に通っていた勇太と純子。


勇太が中2の春、道場の帰りに純子が足をひねった。


たまたま通りかかったのが中1から勇太とクラスメイトだったルナ。


勇太が純子をおぶって、ルナが2人の荷物を持った。


純子を送った帰り、勇太とルナは初めて2人だけで話した。


ルナがとても嬉しそうだった。


話してみると勇太の予想以上に、ルナは明るかった。


そして波長が合った。


地味な2人は、小高い丘の不人気な公園、神社の境内、目立たない場所で自分達だけの言葉を紡いだ。


1年10か月後、2人は正式に付き合い始めた。


純子はすでに、ルナを勇太と同じように慕うようになっていた。2人で純子のところに行った。


『まだ付き合ってなかったのかよ』とあきれながらも、祝福してくれた。


そんな前世を勇太は思い出した。


その純子とルナがこの世界では双子。そして陽と陰の存在になっている。



午後9時。


閉店したリーフカフェの前、テラス席を作る場所。壁を背にして勇太とルナは2人で並んだ。


明るい噴水前に行こうと勇太が提案したが、少しでも落ち着けるとこがいいと、ルナが言った。


勇太はルナらしいと思った。そして、彼女はあのルナじゃない、パラレルルナだと頭を振った。



「ありがとう坂元君、付き合ってくれて」


「いや、俺も花木さんと話したかった」


「ふふ。昨日、助けてくれたとき・・。あのときの言ってくれた言葉で、分からないこと・・あったの」


「なにかな?」


「わ、私達って・・、どこかで・・会ったことあるのかな・・」


昨日は前世ルナに別れを告げたつもり。


だけど、このルナに愛の告白めいたことを言ってしまった。


ルナは不安そうで、だけど期待したような目をしている。


無理もないと、勇太は思う。


梓に聞いたパラレルルナは、昨日の冤罪といい、ろくな目にあっていない。それも1度や2度じゃない。


心の拠り所が必要だと思った。自分なら、なれる気がする。


ルナと別人でも突き放せない。


だから、彼女のために嘘を言う。


中身は変える。女神絡みの真実が何よりも嘘臭い。


「俺ら、過去に会ってるよ」


「そうなんだ!」


ルナの表情が、いきなり明るくなった。そして、勇太が知っているルナの顔になり、勇太はドキッとした。


「俺は太って根暗だったし、そっちは認識してなかったと思うよ」


「え~、けれど、あんな風に男の子から言ってもらえるくらいの出会いでしょ」


「あ~、忘れてるんだ」


「ごめ~ん」


「ひでえな~。じゃあ学校に一緒に行ったりしながら思い出してよ。まずLIME交換」


「え、は、はい」

「ははは。緊張しないでよ。俺、モテないし。イケメンじゃないんだし」


「う~ん、昨日から考えてるのに、坂元君のこと思いだせな~い」


ルナが頭をぶん、と振った。ボブカットの髪の毛が揺れるのを見て、勇太の胸がトクン、と鳴った。


「私って馬鹿だな~」


ぼそっ。「・・ルナだ」


「坂元君って、なんで・・」


ルナは、いつも言葉を探していた。


「う~ん、何て言うか」


顎に手を当てて、目を上の方に向けてた。


「あ!いや~、違うな~」


右手の人差し指で、ピンクの唇を触る。


勇太は、にやけてしまった。次も予測がつく。


「あ、そうだ」


右手で左手の手のひらをポンと叩いて、いい言葉、浮かびました。


「改心したんだね。家のお店の手伝いするし、優しくなってるし、すごいね」


結局は、ストレートなのだ。


「サンキュー、ルナ。お前って、相変わらず俺を褒めてくれるんだな」


「ただ、思ったこと言っただけだよ」


「そんでも嬉しい。ルナって、人のいいとこ探す天才だよな」


「へへへ、なんか初めて、そんな風に言ってもらえた」


「え~、みんな見る目ねえなあ~」


「え、褒められると嬉しい・・あれ?」



「・・あっ」


「あれれ・・ルナって」


「ごめん花木さん、名前で呼んじゃった」



まるで、前世でルナと付き合う前、仲を深めていったときのようだ。


つい、勇太は気安く返事してしまった。しくじったと思った。


もう2度と味わえないと思っていた空気に、つい気が緩んでしまった。


「あ、あの、坂元君が不快でないならルナで」


「じゃ、じゃあさ、こっちも勇太で頼む」



少し潤んだ目でルナが勇太を見つめている。


「あ、この感じって・・」


勇太は、この顔を思い出した。


前世の中2、初めて勇太とルナが2人だけで話した日の目だ。


なぜ、そんな顔をしたか、ルナがあとで教えてくれた。


ルナに友人はいたが、本当に噛み合う人がいなくて悩んでいた。


そんな時期だった。


それが中2の春、勇太と出会って解消された。


そして、他の人間との人間関係も、彼を通してスムーズになった。


初めて勇太と話し込んだルナは感じた。


『見つけられた』


前世ルナは、真っ赤な顔で教えてくれた。


そして勇太以外にモテたりした。


だから、勇太は病気で絶望したとき、ルナが孤独になる心配はないと思って別れを告げた。


パラレルルナは勇太から見ると、前世ルナに根本的な部分が似すぎている。


今、勇太は、パラレルルナが寂しそうな理由が分かった気がする。


前世ルナにとっての、前世勇太に当たる人物を見つけられていなかった。


ルナの孤独感を感じ取ってしまった。


ルナに拒絶されなければ、一緒にいようと思っている。



パラレルルナも、気持ちは同じだ。


勇太の近くにいたい。


しかしルナは、それは難しいと考えている。


この勇太を見つけてしまった。彼女もまた、心が大きく動き出している。


しかし勇太は遠い存在になる気がする。顔は普通でも、エロ可愛くてモテる要素だらけ。


ここは1対12の世界。


暗がりで話していたのに、男子の声に人が集まりだしている。


勇太と自分に、交互に視線を送っている女性も多くいる。


地味子と呼ばれる自分を相手にしてくれる理由は初回特典。


頭を打って気持ちが変化した勇太が、最初に助けた相手だからだろう。


美女が勇太の周りに増えた頃には、自分なんて見向きもしないだろう。


だから、気持ちの歯止めが利く今のうちに離れるしかない。



そしてルナが悲しそうに目を伏せた。


勇太は、ルナのことだけは敏感だった。こんな目をしたルナを見逃さなかった。


「勇太君、私、帰る・・え・・」

言い終わる前に、勇太がルナの手をつかんだ。


ルナは驚いた。


勇太が、潤んだ目で自分を見つめている。


「ルナ、今のルナは幸せなのか?」

「え、大丈夫だよ」


ルナは目をそらした。口ごもっている。


嘘が下手なとこまで、ルナは共通している。


勇太はルナを引き寄せた。


そして抱き締めた。



勇太は感極まってしまった。


このルナを幸せにしても、泣かせたルナには気持ちは届かない。


だけど、目の前のルナを放っておけない。


腕の中に、もう触れ合えないと思っていたルナがいる。




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