10 そして月明かりの中にルナ

勇太はカフェに戻った。


現在は午後7時。



従妹の梓と友人カリンの仲が、自分のせいで壊れることはなさそうだ。


しかし、勇太はちょっと気が重くなっていた。


カリンに話しかけてきた女子3人。パラレル勇太の記憶を辿ると、見事に謝るべき対象だった。


慌てて謝った。パラレル勇太、意外とやらかしとるのうと思った。


それより驚きなのは、その女子3人で付き合っていることだった。


男女比1対12の世界。重婚は女子だけの複数婚にも適用される。


子供が欲しければ、精子提供システムで作る。平成時代から、そんなものも普通になった。


女子が数人共同で数人の子供を育てたりする。そのときに、子供の戸籍と生活を守るため重婚が必要になる。



この世界の女子、男性経験ありが3割程度。1度でも女性経験ありの人が8割越え。


ただし、前世界の勇太が知る男女比1対1ときの純粋な同性愛者は少ない。


男子でもイケるバイセクシャルに近い女性が大半。


現に、さっき会った3人の女子も、エロ可愛い勇太を見て欲情している。


勇太自身は、男子が少ないから見られていただけだと思っている。



勇太は、前世と瓜二つの人物とは関わるとき慎重になるべきと考えた。


カリンには、昔の感覚で馴れ馴れしくしてしまった。


この調子で記憶を共有していない人と話すと、頭がおかしな人間だと思われてしまう。


さらに、元の体質がアンチツンデレ気味。


言葉の裏にあるものを理解するのも不得意だった。


逆に闘病中に人に励まされ、好意的な言葉に素直に感謝できる。


バランスが取れているつもりで、偏っている。


ちなみにカリンの言葉は、まっすぐ受け取った。



前世では、素直に気持ちを言葉にしてくれた花木ルナが好きだった。


言葉に詰まることも何度もあった。


不器用でも、色んなことを伝えあった頃が懐かしくなった。


午後8時の閉店までの1時間は、葉子母さんの指示で勇太はバックヤードの整理。


勇太自身は、店内でできることはない。そう思って裏方仕事をした。


葉子の思いは違っている。


勇太を閉店間際に店に出すと、再び客が殺到して店が閉められないと思った。


やるなら人を増やしてからだ。


いきなり痩せて、愛想もいい。さらにエロ可愛い新生勇太の集客力を恐れている。


現に、勇太が1度店を離れて戻って来ただけで店内がざわついた。



閉店と同時に疲れ切った葉子母さんと梓は家に帰った。代わりに勇太が働く。


疲れた原因は昨日からの自分だから、当たり前と思っている。


売り上げの計算など事務系は社員のサキがやってくれた。なにげに葉子母さんの彼女だ。


勇太はアルバイトのマリアと店内外の清掃を行う。


女神印の回復スキルがあるので、フルパワーを出した。


8時30分。意外に順調。


店内のモップがけが終わった。あとは店外のテラス席の備品を店内に入れれば完了だ。


最後のテーブルを店内に入れようとしたときだ。


月明かりの中に人影が浮かんだ。



「・・あの」


「あ、すいません、今日はもう閉店で・・」


言葉が止まった。


「ルナ・・」


「やっぱり、坂元君なんだね。ネットで見て、そうかなって・・」


不安そうな目をしている。


「ごめんね。助けてもらったのに、お礼も言ってなかった」


「俺も気絶したし、病室にも来てくれてたんだろ。そもそもルナ・・花木さんは悪くないんだし」


「どうもありがとう、坂元君。お陰で助かりました」


「こちらこそ、助けようとしてくれのに、ご迷惑をおかけしました」


「ふふっ」

「ははは」


ルナは勇太に手作りクッキーを渡した。


「あ、気持ち悪かったら捨ててもいいから。じゃあ」


「待って!」


「え?」



勇太は、ルナの学校生活が充実しているなら関わらないと決めていた。


だけど、そうでもなかった。


パラレル勇太の記憶、さっき梓に聞いた話を合わせて分かった。


ルナには双子の妹がいる。


身長168センチの手足が長い美女で、名前は純子。


勇太はモロに、この人物に心当たりがある。


前世ではひとつは年下の幼馴染みで、名前は山根純子だった。


今回は花木純子だ。


両親はどちらもフランス人とのハーフで、従兄妹同士。顔も夫婦そろって似ている。


純子は、母親そっくり。なのにルナは誰にも似ていない。


身長155センチの丸顔で、1人だけ胸が大きい。


純子はパラ高でも有名なモテ女。


だから、双子のルナが地味子として目立つのだ。


純子は、男女比1対12の世界で3人の男子とセックスしている。


女性経験も30人を越えている。


前世でルナや勇太と歩いていた純子のイメージとかけ離れすぎている。


梓がキラキラした目で教えてくれた。


「純子さん、パラ高のセックスクイーンって呼ばれてるの」


性への肯定感が強い、この世界。純子は女子のヒエラルキーでも上位の存在だそうだ。


勇太は、ちょいと待てと言いたかった。


勇太は梓に、前世の妹と同じ顔をしてセッ●スと明言しないでくれと言いたい。



それはともかく・・


ルナは、純子絡みで何度も嫌な目を見ている。


現に1日前に冤罪をかけられたが、ルナに純子を紹介してもらえなかった女子の逆恨み。


純子に近付きたい男子にも利用された。


さらに男子に嘘告までされている。


別人だと思っても、本当に好きだったルナと同じ顔と雰囲気。


「花木さん、もう少し時間あるかな?」


「え、私なんかと一緒にいたら迷惑がかかるよ」


「こっちは冴えない男だし、誰も注目してないよ」


ルナは、勇太は自覚がないと思った。


いきなり痩せてカフェ店員に大変身。だからネットで勇太を見つけた。


勇太は、別のことを考えている。


前世では、ルナと純子、両方の親に会っていた。


前世のルナの母親は、ふくよかでルナに似た丸顔だった。


美男美女は、どうみても純子の両親。その2人から、純子とルナの双子が生まれている。


女神のイタズラを疑いながら、閉店作業を再開した。





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