6 女神印の健康体、すごくない?

現在の勇太。身長は170センチ。理想の体重は恐らく61キロから64キロの間。


今世では筋肉を多めに付けるつもりだから、最終的に66キロを考えている。


今朝計ったら84キロ。腹は、つかめるくらいにぶよぶよ。


何もかもダメすぎる。


ルナに会うため、月曜日には学校に行きたい。


そのとき、あまりにも不摂生な自分は嫌だ。せめて1か月以内には普通の体型になりたい。


とにかく勇太は前向き。


絶望を知っているから、気持ちの切り替えは自分でも早くなったと思う。


「違うルナだって分かってるけど、せめて友達になりたい・・」


家を出る前に叔母葉子と梓に傷を見てもらったら、くっきり痕が残っている。


自宅は郊外にあり、最終目的地の叔母が経営するカフェまで5キロ。カフェは近郊では一番大きな駅の近くにある。


まずランニングをしたあと、散歩しながら時間をかけて行く。


5月でも日差しが強い日。昼間に走り続けるのは普通ならまずい。


だけど勇太は女神印の健康スキルが、普通でないと確信している。


昨夜、ルナの冤罪を晴らしに行って倒れたあと、回復力がおかしかった。


間違いなく頭の傷が開いていたのに、30分ほどの気絶時間に傷が塞がっていた。


そのあとは、ぴったり1時間の睡眠3回で、完全に治っている。


おかげで看護師キミカと仲良くなる時間が取れた。


「ふうっ。やっぱりここだった」


勇太は、パラレル勇太の記憶を辿って河川敷の運動場に来ていた。ここにはランニングコースがある。


1周が600メートル。


パラレルな勇太と梓が卒業した中学の、お揃いのジャージを着た女子15人の集団がいた。


「すいません。邪魔にならないようにするので、一緒に走らせてもらっていいですか」


「え」「男子?」「あ、は、はい」


混ぜてもらって走り出した。


女子達は驚いた。


まだ転生2日目の勇太は分かっていないが、男子がスケベな女子と混じって走ることはめったにない。


ここは男女比1対12の世界なのだ。


肥満体とはいえ、男子が腰を低くして一緒に走っていいかと聞いて来た。


自分から勇太と名乗った。


屈託のない笑顔だ。


頭にバンダナを巻いて、大きな着替え入りのリュックを背負っている。上下は黒いジャージ。


女の子達はバレー部。今日は体力作りの日でグラウンドに来ている。


いきなり勇太が走り出した。女子達は驚いた。肥満体でドタドタなのだ。


全開で100メートルも走らないうちに失速。そしてコース外で寝転んだ。


早くも大汗をかいている。息も荒い。


目をつぶって眠ったように静かになった。これで終了ムード。


格好よくないが惜しい。男子と一緒に走る機会など、めったにない。


残念に思いながら1周回ってくると、勇太が立ち上がっていた。


そして言った。「暑ちいい」


おもむろにジャージの上を脱いだ。下はブルーのタンクトップ1枚。


ワキ毛、首もとがモロ見え。一同はのどを鳴らした。


この世界の女子がめったに見ることがない光景だ。


勇太は、またも全力で走った。結果は同じ。ところが今度は、1分ほどで再び立ち上がった。


3回、4回、5回と同じ作業を繰り返す勇太。全力で走る距離がどんどん伸びている。


1時間が経過した。


女子達は休憩しても、勇太は走り続けている。かなりのスピードで1周。なんと600メートルだ。


そして走るフォームが良くなっている。


女子15人は、勇太を凝視している。


実は勇太の体は軽いチート。女神印の健康体とは新陳代謝の異常促進。それをノーリスクで使える。


勇太はあとで知ることになるが、1時間の睡眠で16時間の全力操業が可能という破格な性能。


無欲な勇太へのお詫びに、女神がプレゼントしていた。


さらに1時間。勇太は水分補給するだけで、走り続けている。


「ねえ、あの勇太さんだっけ、ちょっと体力すごくない」

「それより、体型が最初と変わってない?」


「なんか、カッコいいような・・」


現在の体重は73キロ。2時間で11キロと脅威のダイエットに成功した。


最初にタンクトップになったときは腹がピチピチだったのに、今は違う。体型は柔道などのパワー運動部系。


それより女子達が、非常に気になることがある。


タンクトップがゆるゆるなのだ。


女子達が固まって座っている横に、勇太が寝転んだ。


ものすごい汗だ。そしておへそが出ている。写メした。


10分寝て、ぱっと起きた。


タオルを出すのが面倒になった勇太が、タンクトップの裾で顔の汗を拭いている。


女子達から、モロに乳首が見えている。


録画している子もいる。ちなみに、ある理由から、これはアリなのだ。


勇太は視線に気付いた。

「ごめんね、汗臭くて。水を飲んだら走りに行くから」


「お、お兄さん、高校生ですか」


由香という子が思い切って声をかけると、勇太は快く応じた。


話してみると、勇太の従妹の梓は由香の先輩で顔見知りだった。


前世が享年21歳の勇太からすれば、可愛い梓と同じ感じだ。


今後もトレーニングに付き合ってくれるという由香に連絡先を聞いた。


ただし、勇太は忘れている。ここは女子がスケベな世界なのだ。


男子の無防備な姿。


勇太には、前世の中学で良くあった光景。


しかし目の前の女子中学生にとっては衝撃的な光景。


勇太の汗の匂いは濃いめのフェロモン。そこも女神が細工したのは、言うまでもない。


勇太が去ったあと・・・


「由香、LIME交換したよね。私達にも教えて」


「わ、私も、あのエロイお兄さんと仲良くなりたい」

「あんなに優しい感じの男の人って初めて会った」


「お兄さんをグループLIMEに誘ってよ」


この世界でイケメンはモテる。


だけど、モブ顔でも強烈にモテる可能性がある。そのことを勇太は考えていない。

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