5 まずは金の問題を解決しよう

勇太はパラレルワールドに来て24時間も経過していない。


心の中で「なぜ」と問うている。解決しないといけない問題がある。


新天地に転移したはずなのに、開放感がなさすぎる。


またも問題を思い出した。それもパラレルな自分のせいで。


いや、自分のせいのようでいて、自分には責任がない気もする。



ただ分かっているのは、勇太自身が逃けたら、梓や葉子が嫌な目をみるということ。


次の問題は金である。これを片付けないと、安心して暮らせない。


家は一軒屋。4LDKで庭は広め。


まず1階にある自分の部屋を確認して、すぐにリビングに戻った。


「葉子叔母さん、俺の生活費って、どうなってるの」


勇太は、パラレル勇太の記憶を探った。


実母の死因は交通事故で、少なくない保険金がパラレル勇太に入っている。


また、中1から1回5万円もらえる精子提供を続けている。これが月4~6回で最低20万円。それだけで4年間で1000万円くらいになる計算だ。


そこはいい。


その金銭を引き出した記憶がない。


つまり、勇太は叔母に寄生している。


金がなくて引き取られたのなら仕方ない。だが、普通の社会人並に収入がある。


いい靴をはいている。服も上等。そしてパソコンやゲームも買った。部屋にあるのも確認した。


梓のご飯を食べず、勝手に出前を取りまくった。高校に入るときも色々な物を揃えている。


金は叔母に貸してもらっていることになっている。パラレル勇太の記憶では、踏み倒す気だった。


根本的なものが人としてダメだ。


「あのね勇太君、そこは気にしなくていいのよ・・」


嘘である。勇太自身が目利きではないが、梓の持ち物は大したものがない。


叔母のカフェで、どのくいらい収入があるかパラレル勇太は関心がなかった。


だけど、梓の持ち物が明らかに勇太より落ちる。



種馬として男が貴重というだけで、パラレル勇太の買い物で家計を圧迫して、梓に我慢をさせていた。


パラレル勇太に怒りが沸いてきた。だけど、殴る相手もいない。


「葉子叔母さん、そこは正直にお願いします。まだ信じられなくても俺も改心したし」


「だけど・・」


「梓が俺の犠牲になるのはダメだよ」

「私はいいから、ユウ兄ちゃん」



「ダメだ!」


思わず勇太は、怒鳴ってしまった。


「すまん。だけど梓、お前は俺の大事な妹なんだ」


勇太と似ていなくて、目がぱっちりしていて可愛い。


「ここ1年だけじゃない。何年も俺が梓に迷惑をかけてきたのは事実だ。遅いかも知れないけど、お詫びがしたい。ホントにごめん」

「ユウ兄ちゃん」


すると叔母は話し出した。


内容は色々とあったが、今の問題は近くに大型チェーンのコーヒー店ができたこと。


カフェの経営に少し陰りが出ているとか。


かなり良くない状況だ。そんなときに叔母の金で散財していた、パラレル勇太をクズだと思っている。


勇太は、試しにスマホでピッとしてみた。


できた。


何ができたかというと、自己の口座に500万円ほど残して、全額を叔母の口座に振り込んだ。


500万円残したのは、梓の物を揃えたり、ちょっとした備え。


叔母葉子に、こんなのは相談しても受け取ってもらえない。スピード勝負だ。


システムが前の世界と微妙に違ってて良かったと思った。


「え、勇太君ダメだよ、こんなの」


「葉子叔母さん、いや、これからは葉子母さんと呼ばせてもらう。家族なんだから、こんなの当たり前だよ」


「・・勇太君」

「ユウ兄ちゃん」


「それで、今までのこと、本当にごめんなさい」


「分かったわ。必要最小限のお金だけ使わせてもらう。あとは進学するときに返すからね」


勇太は、カフェの手伝いをしようと思った。希少な男という立場を利用して何か考えたい。


「母さん、俺って痩せたら、カフェで働けるかな」

「え、男の子が接客業をやるの?」


「どうだろ。ハンサムでもないし、役に立たないかな。けど皿洗いくらい手伝うよ」


「今の勇太君なら歓迎されると思うわよ」


「ええ~、身内だからって、そこまで言わなくていいよ」


勇太が笑うと、つられて葉子と梓も笑った。


勇太は分かっていない。この世界、接客業に従事する男性はごく少数。少なくとも原礼留市内にはいない。


女性看護師の5人と一晩で仲良くなった。


前世界の病気を経て、今の勇太は人の好意に敏感になった。


前世界の感覚で普通に接したが、この世界の男子としては優しすぎるレベルだ。


レアものなのだ。


パラレル勇太が低レベルすぎて、そのあたりの知識が皆無。だから自分の価値を知らない。


それと、勇太はひとつの夢をかなえるつもりだ。


「梓、これから時間あるかな」

「え~と、今日は午後から、お母さんのカフェでアルバイトがあるの。どうしたの」


「梓の服を買いに行こうかと思って」


そうなのだ。前世の勇太は高3になる前に満足に歩けなくなった。最後に梓と出掛けたとき、まだ梓は中学生だった。


高校生になり、美しく育った妹と一緒に出かけてみたいのだ。


「バイトのあとは空いてるよ!」


「おう、そんなに慌てなくていいよ。付き合ってくれるなら、よろしくね」


梓、すでに4年も勇太と一緒に暮らしているが、一緒に出かけるのは初である。


思わず食いついた。


◆◆

今日は叔母の葉子と従妹の梓が正午からカフェに出勤。


葉子の帰りは夜9時。梓は4時に終わる。


「俺は、さっそく歩いたりしてダイエットするよ」


「そうだ、ユウ兄ちゃん、あとでカフェに来ない?」


「そうだな。いいんなら午後3時くらいに行くよ」


現在は、午前9時。


叔母が用意してくれた食事を摂って、勇太はジャージででかけた。



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