第31話 暴露
翌日の放課後、僕は楓さん、
「陽ちゃん、大事な話ってなに?鳳至さんと馬庭先生もいるってことはラブコメ研についての話じゃないよね?」
「このメンツってことは、超能力絡みの話っしょ?カミセンはいないけど」
「ここに三人を呼び出したのは、馬庭先生の力を使って、僕が本当に好きなのは楓さんだけであるということを証明してもらうためです」
馬庭先生にはここまでの道中で、要件を説明してある。「力を乱用すべきでない」みたいな感じで断られる可能性も考えていたが、むしろ先生の方は乗り気だ。
「では、私に見えている島田くんの心について、二人に伝えればいいのですね?」
「ええ、それでお願いします」
馬庭先生が前に進み出て、話しはじめようとしたところで、鳳至が手を上げた。
「ちょっと待った!マニセンには実は読心能力なんかなくて、島田っちに都合のいいことだけ言う可能性だってあるっしょ?島田っちが頼んだって時点で、島田っちの味方だろうし」
鳳至は馬庭先生を信用していない様子だ。
「どうやら私の能力を疑っているようですね。では、お二人に見せてあげましょう」
馬庭先生は鳳至に歩み寄ると、耳元に口を当てて、小声でなにやら吹き込んだ。
鳳至の顔がかあっと赤くなる。
「マニセン、なんで突然性癖の話なんかするんすか⁉」
「心を読めるという証明には、他の人には言えないような内容を使った方が信じてもらいやすくなりますからね」
「くっ…… 能力が本当なのは分かりました。疑ってすいません」
鳳至が馬庭先生に向かって頭を下げる。
「分かったのならいいのですよ」
馬庭先生は聖母のように慈悲深い笑みを浮かべると、楓さんの方に身体を向けた。
「ついでに、厚東さんの方にも私の能力を見せてあげましょう」
「いえ、私はいいですって。先生の能力を疑ったことなんかありませんし」
「遠慮しなくていいのですよ」
馬庭先生が今度は楓さんの耳元で囁く。
楓さんもまた、耳まで真っ赤になった。
楓さんの性癖か。ちょっと気にならんでもない。
「では、お二人に私の能力を実感してもらったところで、島田くんの心を読んでお二人に伝えるとしましょう」
「忖度なしでお願いします」
「島田くん、本当にいいのですね。かなり恥ずかしい思いをすることになると思いますが」
「大丈夫です」
本音を言えば恥ずかしい思いはしたくない。さっき馬庭先生が二人に吹き込んだ内容からして、僕の性癖も開示されることになるだろう。でも、僕が恥ずかしい思いを一時的に我慢すれば、楓さんへの愛を証明できて、世界を救えるのだ。
「では行きますよ。島田陽くんが好きな人は厚東楓さん。恋愛として好きな人は他に見えないですね。もちろん、交際経験も他になし。何千人もの男の子の心を見てきたけど、ここまで一途な子もなかなかいません。むしろ女性経験がなさすぎてかわいそうに思えるレベルですが、男子校純粋培養ですし、仕方ありませんね」
よしっ!なんかディスられた気もするが、僕の楓さんへの愛はこれで証明された。楓さんの方を見ると、キュンとしたような顔をしている。
馬庭先生の話はさらに続く。
「それから童貞ですね。大学生の時、男友達から飛田新地に誘われ、『好きな女以外に童貞を捧げたくない。愛のないセックスはしない』と断ったことがあります」
ここに来て、いかにも童貞って感じのエピソードが開示されてしまった。
「ここまで貫いてるとさすがに尊敬するわー」
鳳至がちょっと引いてる。
「厚東さんを愛しすぎているがゆえに、厚東さんをおかずにすることに罪悪感を覚えていますね。では代わりになにで抜いてるのかというと、DLs〇teで買った逆レものの漫画で、タイトルは…… 」
「ストップ!先生、そこでストップです」
恥ずかしい話はこれでもう充分だろう。というか、いくら心の中を見せるとは言っても、教師から生徒への話で出してはいけない単語がちょくちょく混じっていた。下ネタ大好きセクハラおじさんでもここまで直球なことはなかなか言わないだろう。
「正直、ここまで暴露されるとは思いませんでした」
「だから恥ずかしい思いをすることになると警告したでしょう?」
まあでもこれくらいの方が忖度なしだと信じてもらえるから結果的にはいいような気がする。というか、そうとでも思いこまなきゃやってられない。
僕の尊厳と引き換えに世界は救われたのだ。
童貞エピソードはともかく、DL〇iteの購入履歴をバラされるとは思いもしなかった。
ツイッターを通して色々知られているとはいえ、楓さんにはドン引きされたに違いない。
これで「変態は無理」とフラれたらすべては水の泡だ。ゴミを見るような目で見られて、口を利いてもらえなくなる程度ならまだマシだろう。
そう思いつつ楓さんの方を見ると、なぜかキラキラとした目で僕を見ていた。
「そういうのが好きってことは、そういう願望があるってコト?」
ドン引きされるのとどっちがマシな反応なのだろうか。というか、性癖に関してはアカウントを知られた時点でバレているようなものか。
「そうだ。島田くんだけ性癖を開示されるのもかわいそうですし、お二人の性癖も島田くんに伝えて差し上げましょう」
僕の様子を見かねたのか、馬庭先生が変な気を回してきた。それ、誰も幸せにならないやつでは?
「鳳至小百合さんの性癖はTF。マイナーな性癖ですが、人間が動物に変身する様子に性的興奮を覚えるもので、鳳至さんが特に好きな動物は狼と狐ですね。ケモナーと一緒くたにすると戦争の火種を産むので気を付けましょう」
うーん、業が深そうな性癖だ。というか、なんで性癖について説明してるんですか。
性癖をバラされた鳳至はというと、開き直っていた。
「その通り、あたしは普通の人間には興味がないの。島田っちに獣耳や尻尾が生えたり、手が肉球になったりするなら別だけどね」
なんだろう、フラグみたいなこと言うのやめてもらっていいですか。
どうか、改変能力を使って人間を動物にするなんてことをこいつが思いつかないようにと願うばかりだ。
「というか、それって、最初から陽ちゃんには気がなかったってこと?」
驚いたように楓さんが聞く。
「そうよ。あたし、恋愛っていうのがイマイチ理解できないのよね。男の子を見ても、付き合いたいって思わないし。動物にするならこれだなとは思ったりするんだけど」
ヤンデレよりこえーよ、それ。『高野聖』に出てくる女か?
「そもそもライバルでもなんでもなかったってことね。安心したわ」
いや、それでいいのかよ。
「厚東楓さんの性癖はおねショタ。特にお姉さん上位で、ショタが女装させられるものが好み。内心、島田くんにも女装してもらいたいと思っていますね」
馬庭先生は続いて爆弾を投下した。TFの後だと一般性癖のように思えてしまうから恐ろしい。しれっと、楓さんのヤバい願望が開示されたぞ?
「ねえ、陽ちゃん。世界の危機を救うためなら、恥ずかしいことでもしてくれるんだよね?」
こっちも性癖を暴露されて開き直ってやがる!
「というか、楓さん。僕のことをそんな目で見てたんですか!」
「タイムリープしてからずっと見てるよ。高校時代の陽ちゃんがあまりに好みにドンピシャなショタだったから」
「ショタ言うなし。一つ年下なだけでしょ」
「私の性癖聞いて、嫌いになった?」
「嫌いにはなりませんよ。むしろ自分の性癖をドン引きされて嫌われないかが心配でした」
「ならよかった。私たちの性癖には共通する点も多いし、そっちに関しても楽しんでいこうね?」
「いや、それはちょっと…… 」
「ほんと、二人とも仲いいねー。マジで爆発四散してほしいくらいだわ」
鳳至が冷ややかな目で見てくる。
爆発なあ。鳳至が挑発したせいで、世界が丸ごと吹っ飛ぶところだったんだから勘弁してほしい。
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