第30話 新たな危機

 一〇一号室へ行くと、大先生は深刻な顔をして、奥のソファに腰かけていた。

「島田、なんで呼び出されたかは分かるわな?」

鳳至ふげしのことですよね」

「そうや、あいつは演技がうまいんで、わしとしても正体を見破るのが遅れてしまったが、厚東ことう楓と同じ改変能力者や。世界への脅威という点では、厚東にはるか及ばんが、それでも人間を何人か殺傷するくらいの力はあるぞ」

「それってかなりまずいんじゃないですかね」

「そうやな。例えるなら、この学校には現在、ツァーリ・ボンバと手榴弾が一発ずつあるようなもんや」

 世界終末時計の針が一気に進みそうだな、それ。水爆と爆弾に例えられる女子高生、ナニモンだよ。

「このまま放っておくと、間違いなく世界は滅ぶ。そこでお前の出番や。お前の役目はただ一つ、厚東楓に悔いのない充実した学生生活を送らせること」

「楓さんの方だけでいいんですか?」

「二人とも改変能力を持っている以上、鳳至小百合についても気にした方がええのは事実や。せやけど、お前一人に二人の機嫌を同時に取らせようとしたら、その瞬間に世界は滅亡へ一直線や。まさか、お前が二人に分裂するわけにもいかんしなあ。身体を真っ二つに切ったら再生して二人になったりせんやろ?」

「プラナリアじゃあるまいし。あるわけないですよ」

「もっとも厚東楓が、『島田が二人おれば』と思いさえすれば、可能性としてはありえるんやけどな。二人おるから一人は鳳至に気前よくあげるという判断をするとも思えん」

 いや、二等分の島田陽、理論上は可能性あるのかよ。改変能力なんでもありだな。

「そういうわけで、お前はとにかく世界への脅威度が高い厚東楓を優先せえ。あいつのメンタルを安定させるためなら、校内で不純異性交遊してもええぞ」

「不純異性交遊はさすがにしませんけど、どういう風にすればいいんですか。ただラブコメ計画に積極的に参加して楓さんの機嫌を取るだけじゃこれまでと同じですよね」

「せやな、具体的なことを言うといた方がええか。鳳至小百合がお前と結ばれる可能性が0.01パーセントでも残っている限り、世界は危機に晒され続けるんや。鳳至をきっぱり諦めさせる一方で、厚東にはお前が他の女になびかんというのを証明せないかん」

 楓さん一筋であることを証明する必要があるということか。

 普通に考えれば、口で愛を語り、それを行動で見せる以外の選択肢はないが、昨日の屋上の一件に比べると、どうしてもインパクトが薄くなってしまう。

 その一方で、鳳至には僕の楓さんへの愛の強さを見せつけて、ちょっかいをかけることすら諦めてもらわねばならない。

 それこそ、僕の心の中をすべて開けっぴろげに見せて、楓さん一筋であるというのを示すことができれば、解決するのになあ。

 僕はそこで一人の人物に思い至った。あの人の力を借りよう。

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