第9話 大先生は知っている?
3時間目の終わり、カミサマ大先生の発した言葉に、僕は耳を疑った。
「島田陽、伝達事項があるので、ついてくること」
え、僕⁉ まさかの呼び出しである。授業は一応真面目に受けていたのに。
頭の中では八割くらい楓さんのこと考えてたけど。
「島田のやつ、なにやらかしたんだ?」
「よりにもよってカミサマ大先生に呼び出されるとか」
クラスがざわめく。誰よりも一番驚いているのは僕自身だというのに。
大先生の後ろについて教室を出る。大先生はそのまま職員室へ向かうのかと思いきや、逆に階段を上りはじめた。ここは高校校舎最上階の三階、これより上には屋上しかない。
「どないした? ついてこんかい」
「あ、はい」
驚いて、つい立ち止まってしまった。
階段の突き当りには屋上への扉。窓もないので薄暗い。
大先生がノブを掴んで回すと、ギイと音を立てて扉が開き、明かりが差し込む。
鍵はかかっていなかったのだろう。
大先生は屋上へとそのまま一歩を踏み出した。僕も後について、屋上に出る。
一度目の高校生活では一度も上がる機会のなかった校舎の屋上だ。
でも、大先生はなんのために僕を屋上へ連れてきたんだ?
屋上には人っ子一人いない。誰にも聞かれたくない話だろうか。
大先生は僕に向き直ると、口を開いた。
「単刀直入に言う。この現象はおまえらが仕組んだことやろう?島田とあともう一人、ええと、名前はなんやったかな」
「
「そう、厚東や。わしのクラスにおってびっくりしたわ。他は女になったやつも含めて、元々この学校におったやつばかりやのに、あいつだけが異分子や」
大先生はそう言って苦笑する。だが、次の瞬間にはまた険しい表情になって続けた。
「島田と厚東、おまえらが時間を巻き戻し、この学校を共学に変えた。
大先生の鋭い目が僕を射る。思わず身がすくむ。蛇に睨まれた蛙とはまさにこういう状態を言うのだろう。
まさか僕ら以外にタイムリープや現実改変に気付いていた人がいたなんて。それもよりにもよってカミサマ大先生とは!
だけど、一つ引っかかることがある。大先生はこの現象を僕らのせいだと言っているのだ。確かに心当たりはあるけれど、原因が何かとなるとさっぱり分からない。
大先生はもしや、僕らがまだ気づいていないことにまで、気付いているのだろうか。
ここは、正直に話して、教えてくれるよう頼むべきかもしれない。
だけど、この人をどこまで信用していいのだろう。
まず味方か敵かそれ以外かすら分からない。
僕が答えあぐねていると、大先生は少し表情をやわらげて、こう言った。
「担任でも顧問でもないわしに、急に打ち明けろと言われても困るやろう。話せへんのやったら、今無理に話してもらわんでもええ。整理する時間をやる。来週の月曜、放課後でどうや」
「は、はい。げ、月曜に、お話、しますから、その、先生の、方からも、色々教えてください」
そう答えるのがやっとだった。一対一で向かい合っていると、この人は迫力がありすぎる。
大先生は僕の返事に頷くと、屋上の入口のドアを開け、僕に背を向けた。
施錠しなくていいんだろうか。そんな心配をよそに大先生はすたすたと階段を下りていく。
僕が屋上から階段室に入った途端、後ろでバタンと扉が閉まった。
触ってみると、鍵がかかっているようで開かない。
まるでオートロックだ。
校舎の屋上の扉をわざわざオートロックにする意味が分からないし、これは一体全体どういうことなのだろう。
鍵の仕組みが気にはなるが、まずは二年二組の教室へ向かおう。
大先生に気付かれたことを楓さんに相談しなくてならない。
階段を下りて行くと、ちょうど三階で楓さんと出会った。
「カミサマ大先生に連れてかれたって言うから、心配したのよ」
どうやら僕が全然来ないので、一年二組の教室に行って聞いたらしい。
「カミサマ大先生は、タイムリープと現実改変に気付いているらしいです」
それを聞いて、楓さんの顔色が変わる。
「どういうこと?」
色々話したいところだが、腕時計を見ると、次の授業が始まるまであと2分しかない。
「とりあえず、詳しいことは昼休みに話します。食堂行って、食べながら話しますか」
「そうね。私も今日はお弁当持ってきてないし」
昼休みにまた会うことを楓さんと約束し、僕は教室に戻る。
入るなり、クラスメイトに取り囲まれた。
「カミサマ大先生に説教されたのか?」
「なにやらかしたん?」
「それより誰だよあの美人の先輩!島田がどこ行ったのか聞きに来たけどさ」
口々に質問される。そりゃそんな反応になるよな。
教室の隅で静かに本読んでるだけのやつが、カミサマ大先生から呼び出し食らったかと思いきや、突然美人の先輩が訪ねてくるんだもの。
「カミサマ大先生からは雑用押し付けられただけだよ。それと、楓先輩は僕の彼女」
まさか現実改変について聞かれたなんて正直に言っても信じてもらえないだろうし、秘密にすべきことだと思うので、適当に答える。楓先輩については今さら隠しても仕方ないし、ちょっと自慢したい気持ちもあって、正直に答えた。
「彼女やと?ほんまかー⁇」
「なんでお前なんだよ⁉」
「抜け駆けしやがって、爆発しろ!」
こいつらのノリ、男子校だった頃と変わってねーな。まあ、現実改変が起きようが、人間なんてそう簡単に変わるもんでもないか。
幸いにも藤沢先生が入ってきたので、クラスの連中は席に戻っていった。4時間目は藤沢先生の地理だ。怒らせると怖い先生なので、生徒はみな大人しくしている。今日ばかりは先生の怖さに感謝だ。
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