第7話 もしかして現実改変?
「横断歩道と歩道橋、二つの通学路があるんだよね」
「そうです。どっち行きましょうか」
高槻市駅から
一つは昨日僕が通った、歩道橋で交差点を跨ぐ「中学ルート」。
もう一つは国道を横断歩道で渡って細い道を抜け、学校前の道をもう一度横断歩道で渡る「高校ルート」だ。
高校ルートの方がショートカットしている分、距離は短いが、信号に引っかかると中学ルートよりも時間がかかる。
その名の通り、中学生と高校生で通学路が分けられていて、中学生が高校ルートを通っているのを見つかると怒られる。だが、その逆は咎められることはない。
高校時代の僕は、行きは中学ルート、帰りは高校ルートを通っていた。理由は信号に引っかかるとかったるいから。スマホ持ち込み禁止なので、信号待ちの間は手持無沙汰だったのだ。
逆に言うと、信号待ちの間もおしゃべりできる友人がいるなら、信号待ちを忌避する必要はない。今回は隣に楓さんもいることだし、高校ルートを通ろう。
駅を出るとそこは繁華街だ。飲食店やコンビニ、カラオケ店などに交じって、いかがわしい店もちらほら見られる。
雑居ビルに挟まれた狭い道だが、淀川対岸の枚方市と結ぶバスが通っている。桜楠の生徒が広がって歩くゆえにバスの進路が妨害され、定期的に学校に苦情が来ていた。
今日も広がって歩く女子生徒のグループがクラクションを鳴らされている。彼女たちが着ているのは、楓さんと同じセーラー服。やはり共学化は本当のことなのだろう。
繁華街を抜けたところの信号でやっぱり引っかかった。横断歩道の手前では桜楠の生徒たちが信号待ちをしている。その半分は女子だ。やはりセーラー服を着用している。
「本当に共学になってたんですね」
「内心、女子が私だけだったりしたらどうしようと思ってたから、ちょっと安心したかも」
「それにしてもあの女子生徒たちはどこから湧いてきたんでしょうね」
もう一度信号を渡り、今日は正門から入る。門のところには背の高い猫背の初老男が立ち、生徒に挨拶をしていた。
「「おはようございます!」」
楓さんと声を合わせて挨拶し、校内へ足を踏み入れた。時計塔のついた管理校舎には「SSH(スーパーサイエンスハイスクール)指定校」の垂れ幕が誇らしげに掲げられている。
僕らは校舎へ向かう生徒の流れから外れ、初代理事長の胸像の前で立ち止まった。
「すごい!カミサマ大先生って実在してたんだ!」
「そんなに驚くことですかね。僕も顔を見た時には懐かしいと思いましたけど」
カミサマ大先生こと
「カミサマ映画そのまんまなんだね」
「あの映画もこの時点で10年以上前のものですけどね」
カミサマ映画とは、2001年~2003年当時、桜楠高校に在籍していた生徒が作成した、アマチュア映画である。内容は、カミサマ大先生が教団のトップとして恐怖政治を敷くとか、反抗する生徒とバトルするといったものだ。内輪ネタでしかないのだが、なぜか動画共有サイトにアップロードされていて、誰でも見ることができる。男子校時代の桜楠高校を伝える貴重な記録であり、僕がお世話になった先生たちも出ているので、「こんな学校に通ってまして」と楓さんに説明する時に見せた覚えがあった。どうやら彼女はそれがきっかけとなって、カミサマ大先生のファンになっていたようだ。
「授業を受ける機会はあると思いますよ」
「ほんとに?」
「そうだ、楓さんはクラスどこでしたっけ」
「ええと、二年二組ね」
「ちょうどこの年の担任は加美先生だったはずですよ。定年前最後に担任したクラスでしたかね」
「へえー、記念すべき学年じゃん」
「でも大先生が担任とか色々厳しくて怖そうだな」
だが、今はカミサマ大先生がどうとか考えている場合じゃない。校内の様子を見る限り、桜楠が共学校なのは疑いようのない事実だ。
これはもしや現実改変? タイムリープだけでもお腹いっぱいだというのに。
もし共学に通っていれば。
男子校に通うものなら一度は妄想することである。僕だって、中学高校の時には数えきれないほどしたはずだ。
だけど、なんだかんだ男子校というのは僕みたいなのにも居心地のいいところなので、「男子校でよかった」と思ったことの方が多い。僕らは男子校にいるからモテないのではなく、モテないと分かりきっているからこそ男子校を選んだのだ。彼女いないやつの方が圧倒的多数だから、彼女の有無を気にしないで済むし。
まあ男子校でもモテるやつはいて、他校にいる彼女を文化祭に呼んで見せびらかしたりするんだけどね。
桜楠が共学化された高三の時には一抹の寂しさを感じたものだ。もっとも、共学化とはいっても、中高一貫の中一に女子が入ってきただけであって、年上好きの僕からすれば射程範囲外だったわけだが。受験でそれどころではなかったし。
それはさておき、校内の様子から見て生徒の半分が女子のようだ。その分、生徒数が増えたようには思えないので、その分男子生徒は消えていることになる。女子はどこからわいてきて、男子はどこへ消えた?
楓さんを二年二組の教室へ送り届けた後、階段を昇って三階にある一年二組の教室へ。
予期していたことだが、教室の半分は女子。こいつらは一体どこから来たのか、その分の男子生徒はどこへ消えたのか。そんな疑問は、教室前方、ホワイトボードの横に貼ってある座席表を見て簡単に氷解した。
座席表には見覚えのある名前しかない。つまり、クラスの半分が女体化したのだ。確かに教室にいる女子の顔を見てみると、いるわいるわ見覚えのある顔が。数年前(といっても未来のだが)に流行った性転換アプリで加工したみたいに、面影を残して女子になっていた。
「マジかよ…… 」
「どうしたの、心配そうな顔してるけど?」
九条が話しかけてきた。こいつは昨日と変わらず、男のままだ。女体化したら間違いなく校内で一、二を争う美少女になるだろうに、そういうやつに限って女体化してないのは皮肉である。
九条の机の上には便箋に入った手紙が何枚も積み重ねられていた。
「九条、その手紙はなんだ?」
「ああ、これ?下駄箱に入ってたラブレターだよ」
「いくらなんでも多くない?」
そうか、共学になったから、美少年の九条は学校中の女子からモテまくっているのだな。
もっとも、こいつは男子校でも男からモテていたのだが。
担任の
ちょうど半分だ。
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