第15話 転校生は幼馴染⁉
翌日、4月16日(木)。毎朝、日付を確認してみるものの、当たり前のように一日が経つだけなので、未来に帰るなんて無理じゃないかという気がしてきた。
一日一日は一度目の高校生活より充実しているわけだし、いっそやり直すことに決めようかなという気持ちも浮かんでくる。
だが、このまま過去が変わり続けると未来はどうなるのかとか、中途半端にやり直している途中で未来に戻ったらどうなるのだろうとか、ついつい考えてしまうのだ。
雨の中、傘をさして駅まで歩き、いつものように準急電車で楓さんと落ち合う。
「どう?読んだ本からなにか得られた?」
楓さんは、僕の顔を見るなりそう聞いてきた。昨日の夜、僕はタイムリープに関係のありそうな本を色々と読んでみたのだ。
僕は首を横に振る。
「そっか。でも、気にしなくてもいいんじゃないかな。タイムリープを取り扱った小説が前例という事実であれば、そこに私たちの問題を解くヒントがあるだろうけど、あくまでもフィクションなんだし」
「それもそうですね。タイムリープや現実改変なんて出来事が既にフィクションみたいですけど」
「事実は小説よりも奇なりって言うしさ、フィクションみたいなことが現実で起きても不思議じゃないのよ」
事実は小説よりも奇なりか。使い古された言葉だけど、小説に書かれているからといって同じようなことが現実で起こったりされたら困るよな。どうかこれ以上、ありえないことが起きませんように。
楓さんと一緒だと一時間の通学時間もあっという間だ。
駅の高架下から眺める外は雨。
「残念、今日は傘持ってきてるんだね」
折り畳み傘を開く僕を横目に見て、楓さんは少しがっかりした表情を見せる。
「あの、相合傘したいなら入ります?」
「いや、自分で傘持ってきてるのに、入れてもらうのも変な話かなって」
「楓さんがしたくないって言うなら構いませんけど、僕としては、その…… この前のお礼みたいな感じで、入ってくれたら嬉しいですね」
「そこまで言うなら」
そう言いつつも楓さんは笑顔で僕の傘に入ってきた。傘を持っている手を上からぎゅっと握られて、楓さんの体温が伝わってくる。正直心臓バクバクだ。
「これから梅雨だから、相合傘できる機会も多そうだよね」
「どうせなら折り畳みじゃなくて大きい傘を持ってくることにしましょうかね」
こうやっていられるなら、一年中梅雨が終わらない世界になっても別にいいかな、なんて一瞬思ってしまったけど、本当にそうなったら困るので慌てて打ち消す。
堂々と通学路で相合傘をしている僕らはさすがに目立つようで、周りからの視線を感じる。信号待ちの間も微妙に居心地が悪い。でも、傘のおかげで顔までははっきりと見えていないはずだ。
もっと一緒にいたいという素振りを見せてくる楓さんと別れ、いつものように一年二組の教室へ。共学化から二日経って、この雰囲気に早くも慣れつつある。
特にこれ以上の変化がないといいな。そう考えていると、担任の日下部先生が入ってきた。
「よーし、お前ら席着け。大事な話があるからな、静かにせえよ」
教室のあちこちで集まって雑談していた生徒たちが、喋るのをやめて席に戻っていく。
大事な話ってなんだろう。
「急な話やけどな、このクラスに転入生が来ることになった」
へー、転入生か。一度目ではそんなのなかったな。どんなやつなんだろう。
って、えええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!
驚きのあまり叫んでしまいそうになったが、すんでのところで堪えた。それはクラスの連中も同じようで、また教室内が騒がしくなる。
それも当然、中高一貫の
あれ? 昨日、一瞬だけ転入生の話題が楓さんとの会話の中で出たけど、あれもフラグだったのかな。そう思うと怖くなってきた。最近、あまりに色々と起きすぎだ。
「お前ら、盛り上がる気持ちは分かるがな、もうちょい静かにせえ」
「先生!転入生は男ですか、女ですか?」
一人の男子生徒が手を挙げ、先生に尋ねる。
「それは見てのお楽しみや。このクラスにはおらんようなタイプやとだけ言っておくわ。では、入ってきなさい」
先生が促すと、教室の前の扉が開き、一人の少女が入ってきた。
その姿を見て、教室にいた全員が思わず、ハッと息をのむ。
教室内が一瞬だけ、シンと静まり返る。
なぜなら、転入生はギャルだったからだ。
そりゃこのクラスにはおらんタイプやわ。
長く伸ばした金髪に、ばっちりメイクした顔。メイクを取ったらどうなのかは分からないが、美人の部類に入るだろう。出るとこはちゃんと出て、引っ込むべきところはちゃんと引っ込んだ体型をしている。
早くも制服を着崩していて、とても転入初日には見えない。
あの格好、校則に引っかからないの?
髪を染めるのは校則で禁止だったはずだ。そう思い、学生手帳で確認してみると、頭髪に関する項目はまるごと消えていた。マジかよ、これも現実改変のせい?
ギャルがホワイトボードに名前を漢字で記入する。ご丁寧にふりがなも添えてあるが、確かにこれは初見じゃ読めない苗字だ。
「こんにちはー‼
教室内に満ちた微妙な空気を吹き飛ばすかのように、転入生のギャル―― 鳳至小百合は大きな声で自己紹介をした。
最初の挨拶が数年先の未来で流行ってた芸人のネタっぽかったけど気のせいだろう。
「うおおおお!こっちこそよろしくううう!!!」
「さゆりいいいいいいん!」
その見た目と明るい雰囲気に惹かれたのか、一部の男子が大きな声でそれに返す。まるで動物の求愛行動である。なにやってんだあいつら。
「席はどこにするか。おっ、島田の隣がちょうどええ感じに空いとるな。鳳至さん、あそこに座ってください」
鳳至の席はよりにもよって、僕の隣らしい。
てか、一度目では空席なんてなかった気がするんだけど。なんて都合がいいんだ。
あまりにラブコメ的展開すぎて理解が追いつかない。
先生の指示で僕の左隣にやってきた鳳至は、さっそく話しかけてきた。
「島田っち、久しぶり!」
は?馴れ馴れしすぎるし、久しぶりってどういうこと?
「えっと、どこかでお会いしましたっけ」
記憶を必死に探るが、僕の知り合いにこんなギャルはいない。いるはずがない。生きてる世界が違うと思っている。
「あー、あたしの見た目だいぶ変わったもんね。覚えてないかな。幼稚園と小学校一緒だったんだけど」
「うーん。そういや、『ふげし』っていう珍しい苗字の子いたなあ。小三の時に神戸の西の学園都市とかいうところに転校してそれっきりだった気が」
微かに記憶にある気がする。顔までははっきり思い出せないけど、あまり目立たない地味な子だったと思う。
「うん、その通り。こうして再会できるなんて、奇蹟みたいだよね。あたしたち、運命の赤い糸で繋がってるんじゃないかな」
難聴系主人公ではない(と自分では思っている)ので、この発言がフラグっぽいというのはさすがにわかる。
冗談だとしてもそういうことを言わないでほしい。
今こうしている間も、クラスの男子から殺意のこもった視線が送られているのを感じる。
「島田のヤツ、あんな美人の彼女がいながら、転入生にも手を出すのか?」
「ハーレムを形成して罪を重ねる前に葬ってやるのが人の道というものだろう」
「
物騒な言葉が聞こえてくる。五七五で脅迫するな。
誤解を生んで闇討ちされないよう、今のうちにちゃんと言っておこう。目の前にいる鳳至だけでなく、周りの奴らにも聞こえるように、僕ははっきりと伝える。
「期待させてしまったんなら、申し訳ないんだけど、僕にはもう彼女がいるんだよ」
「へえー、会わせてよ!めっちゃ気になるし」
鳳至はがっかりするでもなく、目をキラキラさせて食いついてきた。
恋愛感情みたいなのはきっと僕の思い過ごしだろう。自意識過剰になってはいけない。
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