第13話 タイムリープ三日目

 翌朝、もしかしたらまたなにか改変されているんじゃないかと不安に思いながら、僕は目覚めた。日付を確認すると「2015年4月15日(水)」だ。ごくごく普通に一日が経っただけ。もうこれ以上のタイムリープや現実改変はないと信じたいところである。


 LINEには「今日も準急で」と楓さんから連絡が入ってた。一応聞いておこう。

「なにか昨日と変わった点はありませんか?」

「昨日と一緒。でも、陽ちゃんへの思いは昨日より強まったかな」

 隙あらば熱いメッセージ。

「僕もです。ずっと楓さんのことばかり考えています」

 そう返信しておく。さすがに絵文字やスタンプは恥ずかしいので使わない。


 リビングに下りると、妹の綾がテレビを見ながら納豆ご飯をかきこんでいた。着ているのは桜楠おうなんの女子制服。納豆で服が汚れないか、他人事ながら心配になる。

 昨日も朝に会っていたら、制服を見て異変にすぐ気付けたのにな。綾は昨日、先生に質問したいことがあるからと朝早めに家を出たらしい。僕とは対照的に勉強熱心である。同じ学校になったことで、親に成績比較されそうで怖い。


 駅に着き、準急に乗り込むと、昨日と同じ席に楓さんが座っていた。ここがこれから僕たちの定位置になりそうだ。

 挨拶を交わして、隣に座る。

「学生証見せてくれませんか」

「今日も?別にいいけど」

 楓さんから学生証を受け取って確認する。昨日見たのと同じく、高二で変わりはない。

「新しい改変は、観測できる範囲では起きてないみたいですね」

「もしかして、私が同級生になってる可能性でも考えた?」

「考えますよそりゃ。楓さんが相変わらず高二なのを見て、ほっとしました」

「陽ちゃんからしたら、私が年上じゃないと困るものね」

「そうですよ。僕は根っからの年上好きですから」

「でもさ、学年だと一年違うけど、誕生日は半年違うだけなのよね」

「間に4月1日を挟んでなければ同級生ですよ」

「社会人になればそんな年齢差なんてあってないようなものなのに、特別な意味を持ってくるんだから、学生時代というのは不思議な時代よね」

「学生時代というか、高校までですね。これが大学になった途端、年齢ではなく入った順番が意味を持つようになりますから」

 そんな話題が出たので、大学時代の友人たちのことを思い出した。2015年時点ではまだ出会っていないわけだけど、未来が変わって出会えなくなる可能性もあるんじゃないかと不安になる。やっぱり、やり直すより未来に帰るのが無難なのだろうか。

 登校して確認したが、学校にもさらなる変化は起きていないようだ。特に事件が起きることもなく、授業が始まっては終わっていく。今日も授業の合間に楓さんに会いに行ったが、注意していたので次の授業に遅れることはなかった。


 タイムリープによる二度目の高校生活も気付けば三日目。だいぶ慣れてきた。

 昼休み、今日は楓さんの方から一年二組の教室にやってきた。

「陽ちゃん、一緒にお昼食べよう?」

 クラス中からの視線が僕に突き刺さる。

 楓さんの手にはお弁当箱が二つ。

「でも、どこで食べるんですか」

 ラブコメのお弁当エピソードだと、よくあるパターンは教室だが、注目を浴び続けながら食べる勇気は僕にはない。

「とりあえず校内探せば、どこか食べることができる場所があるでしょ」

「いや、無かった気が」

 6年も通っていたので、この学校については隅から隅まで知り尽くしているのだが、弁当を食べるのにちょうどいい場所となると心当たりがない。とはいえ、見落としがあるかもしれないので一応探してみよう。


 まずはクラスメイトの視線を避けるように廊下に出てみる。

「そうだ、中庭はどう?」

「よく見てください」

 僕は廊下の窓を開けて中庭を指差す。中庭にはベンチが七つ設置されている。

「ベンチがあるのはあそこですよね?」

「うん、今は誰も座ってないね」

「目立ってしょうがなくないですか」

 四方を校舎で挟まれた中庭はちょうど教室や廊下から見下ろされる位置にあって、多くの生徒が行き交う昼休みともなれば、多くの視線を集めることになる。そんなところで仲良く弁当を食べたりなんかしたら、たちまち全校生徒に顔が知れ渡ってしまうことだろう。

 それに、中庭は休み時間人通りが多いので、落ち着かない。というわけで中庭は却下だ。

「あ、そうだ。グラウンドは? いい感じに人少ないんじゃないの」

「行ったらわかりますけど、すごく埃っぽいんですよ」

 なぜだか知らないが、この学校のグラウンドの砂は埃が立ちやすいタイプのものなのだ。

 体側服の汚れも落ちにくいし、学生時代は芝生の学校が羨ましくて仕方なかった。

「そうだ!正門と校舎の間にも庭があったよね?」

「ありますけど、ベンチないんですよ」

 でも花壇の縁に腰かけて食べるということもできなくはないか。


 一応見に行ってみることにした。

「ツツジの花はキレイだけど、確かに座るところはないね」

 花壇の縁は座れないことはないが、狭いし、昨日の雨でまだ少し湿っている。

 それにここはここで守衛さんの視線が気になるな。

 となると、残されたところはあそこしかない。

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