第1-2 ◆ 始まりの異世界 

 明日はついに魔王討伐出向に向け王都へ出発する。


 幼いころ俺、ナー、オサーナ、そしてエリスの四人でパーティーを組んで魔王討伐をしようと誓ってからやっとこの日を迎えた。


 魔王の力は強大だし、旅はそんな楽なものじゃないけど、皆の力、特にエリスが居れば魔王だって怖くない。


 彼の魔法は正直言って強力すぎる。ほかの人に比べて威力が格段に違うのだ。


 身体強化魔法や回復魔法なんか王宮お抱えの魔導士だって滅多に使えない。


 本来ならストレスが緩和されたり目が覚めたり痛みが和らぐとかその程度。


 大賢者の使う最上級火炎魔法よりエリスがお遊びで使う初級魔法の方が確実に強い。


 他にも補助魔法は一日中走り回っても疲れが無く、木なんか悠々と飛び越えられたり、子供でも岩を拳で粉砕できるほど強化される。


 魔物に襲われ腕がなくなったおじさんの腕を元に戻すとか、どれもありえない程、強力な魔法を使う事が出来る。


 人だけでなく、植物にもその力は発揮され、畑だって1時間で実を付ける。


 彼は実力もあるが寡黙で謙虚。何より世界中探しても類を見ない程の美貌の持ち主でもある。


 もう村人全員がエリスの虜だ。家も隣なので村中の人達からあれこれエリスの話を聞かれ僕も自慢げに彼の武勇伝をしまくった。


 彼の活躍のお陰で村は裕福になったといっても過言ではない。完璧人間それがエリス。


 そのエリスの実力を恐れてか近年この村を魔王軍が襲った。


 こんな田舎ではまず見ないゴブリンキングやエンペラースライム。


 どれも熟練した冒険者や騎士団なんかが束になって、やっと勝てるかどうかのヤバイ奴。


 その魔物の軍勢を彼はたった一人で撃退してしまったのだ。


 一際異彩を放っていたと思っていたが両親からエリスについては聞かされていた。


 彼が生まれたほぼ同時刻王宮で神託が下り、勇者が誕生した。エリスがその勇者だと。


 村は大騒ぎだし王都では身柄を確保する動きなんかもあったらしいが村人たちの説得により16歳になったら必ず魔王討伐に向かうと交渉し、明日旅立つ。


 王様に謁見し出立式をしてから本格的な旅が始まる手筈となっている。


 残念ながら村の人たちはエリスの生誕祭の準備に追われ見送ることは出来ないがエリスの両親は見送ってくれる事になっている。


 ただちょっと今回の旅に問題があって・・・


 オサーナの事だ。


 彼女はエリスの事が大好き。それも病的に。


 先述の通り僕とエリスは家が隣同士だ。それを利用し事細かく聞いてくる。怖い。


 毎日食べている食事のメニューや、何時に寝て起きたのか、その日の体温や睡眠時間トイレの回数やありとあらゆる彼の行動を聞いてくる。怖い。


 酷い時は下着の色やお風呂に入ったら呼べなど、健康チェックだと言って死んだ魚の目をして聞いてくる。怖い。


 知らない事は適当に答えている。


 許嫁のナーはそんなオサーナが暴走すると鬼のような形相で首の後ろをトーンッと叩き気絶s、睡眠魔法で眠らせて邪気を払う。頼もしい。


 恋する乙女で多感な時期だし、エリスが好きなのは分かるけど扱いきれるか正直不安だ。


 でも、二人の仲をこれからも応援するし、一緒になって貰いたい気持ちは本当だ。


 この旅で何としてでもオサーナの性格を矯正しよう。


 そして夫婦になって貰おう


 よし、課題は山積みだが一旦家に帰って皆と今後についての話し合いと旅の準備だ。

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