アドリア捜査2日目 決定的な現場を

「しっかし、相手が街の知事ともなると、こりゃ捜査は難航しそうだにゃ」


 403号室へと戻ってきた。

 窓の外を眺めながら、シィナが苦笑ぎみに言う。



「できれば、このままホテルの最上階に乗り込んでやりたいトコだけどにゃ。ヤツの部屋とか、パーティ会場をさぐったら、きっとマジックを吸った痕跡の一つや二つ出てくるよ」


「……乗り込むなよ?」


 この猫ならやりかねないと思い、レオンが釘をさした。


 シィナは「やんないよ。やったって、意味ないからね」と肩をすくめる。



「その程度の証拠じゃあ、ヤツを捕まえることはできないもんね」


「……ああ。ここが首都なら、マジック使用の痕跡一つでもあれば充分だ。あとは首都警察の現場検証に任せればいい。ほかにいくらでも証拠を見つけ出してくれるだろう」


「だけど、ここは辺境だからにゃ。事件がおこったら、まず現地の警察連中が出張ってくる。……アドリア警察がね。そいつらに現場を仕切られたんじゃあ、せっかくの証拠も意味ない」



 シィナの見立てでは、アドリア警察は密売人とグルだ。

 マジックを吸った痕跡ていどの証拠があっても、すぐに揉み消されてしまう。


 そしてレオンとシィナは、知事にあらぬ疑いをかけた不届き者として街を追い出されるだろう。

 任務は失敗だ。

 魔法薬密売の元締めを挙げられないまま、本部に帰還することになる。


 手ぶらで舞い戻ってきたレオンとシィナを、マリアはどのような態度で迎えるだろうか?

 それを想像して、二人はそろって背筋を震わせる。




「……どうする? レオン」


「アドリア警察でも揉み消けせないような、決定的な現場を押さえるしかないだろうな」


「決定的な現場……」


 二人は目を合わせて、しばし沈黙する。

 だけど答えはすぐに出た。



「マジックパーティしかないにゃあ。そこにはブツもジャンキーどもも集まってる」



 エッジズニックスのマジックパーティに突入したときのことを思い出す。

 シィナが暴れまわったあと、現場は悲惨な状況になっていた。

 あんな状況では、証拠の揉み消しなんてとても追いつかないだろう。



「決まりだにゃ。マジックパーティの現場に突入して、会場をブチ壊してやるんだ。めちゃくちゃ暴れて大騒ぎにしてやれば、揉み消すなんてできなくなるぞ」


 そう言って不敵な笑みを浮かべるシィナ。

 なんとも荒い作戦だが、これしかないだろう。


 レオンも、今回ばかりはシィナの暴れっぷりに期待することにした。

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