第一章――【巡り回って】
少女の鈴と少年の溜息
警察隊が、両開きのドアを勢いよく蹴破った。
銃器や防具、フル装備の男たちがザカザカと駆けていく。十数人の隊員が、夜のダンスクラブに一斉に突入した。
「公安だ‼ 全員大人しく……」
勇ましく銃を構えた隊員たちだったが、ホール内の光景を見て、ゆっくりと銃口を降ろした。
唖然として、互いに目を見合わせる。
「ちょ、ちょっとどいてください。すみません、通して……」
重装備の隊員たちを掻き分けて、少年が一人、前へ出た。
彼の名前は、レオン・マクスヴェイン。
十六歳の少年で、つい二週間前にマトリに就任したばかりの新人取締官だ。
少年もまた、その光景を見て唖然とした。
検挙対象のエルフたちが、全員、ぐったりと倒れている。
雑魚寝のように、フロア中に広がってマヌケなツラで伸びているのだ。
天井のムービングライトがことごとく落下し、スピーカーは火花を散らして、壁はところどころめくれあがって残火を燃やしている。
ど派手な戦闘の跡が見て取れた。
凄惨なフロアに対してステージ上はほとんど被害がない。そこに、少女が一人、立っている。
呑気に鼻唄をうたいながら、尻尾を揺らしていた。
「あ、レオン。機動隊のみなさんも、遅かったにゃ」
ちりん、と尻尾の鈴を鳴らす少女。相棒のシィナだ。
「シ、シィナ……、お前ってやつは……っ」
作戦を無視して一人で突っ走った挙句、このありさま。
少女のあまりの身勝手さに、レオンはまぶたをピクピクと痙攣させる。
初めて会ったときからこの調子だった。
世の秩序を守るべき公安職員でありながら、なにものにも縛られないような奔放さ。
猫耳と尻尾にピアスを差しているような不良少女。
少年は、少女と出会ってからの日々を思い返した。
わずか二週間。されどそこには苦労と戸惑いがめいっぱい詰まっていた――……。
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