★2 自殺計画


タイトル:自殺計画

キャッチコピー:愉快な自殺志願者たちによるドタバタ自殺競争劇

作者:時本

URL:https://kakuyomu.jp/works/16818093085190828359


評価:★2


【あらすじ】

東尋坊で自殺がしたかった。

どうせ死ぬなら孤独にカッコよく死にたかった。

ただそれだけの願いだった。

運命のいたずらか。なぜか死のうとするたび邪魔される。

気づけば六人が集結していた。

一人目、冷徹毒舌女。

二人目、電波じじい。

三人目、青髪生意気クソガキ少女

四人目、お姉さん風小物女性

五人目、金髪外国人お嬢様

そして、俺。

全員、東尋坊での自殺志願者。死ねるのはただ一人。

かくして、誰が最初に死ねるかの無益なバトルが勝手に始まった。



【拝読したストーリーの流れ】

 代わり映えのない、普通の日々を過ごしていた大学3年生の主人公。

 彼はそんな人生に嫌気がさし、自ら終止符を打つ事を決意した。


 だが「ただ死ぬ」のはプライドが許さない。世間に自分の死をセンセーショナルに受け止められたい。

 そんな自己顕示欲から、クリスマスイブに自殺の名所「東尋坊」で身投げをする事に決めた。


 だが、いざ死のうとした時、視界に映るのは向かいの崖に立つ女性の姿。

 冗談ではない。先に死なれたら自分の死が霞んでしまうではないか。


 慌てて止めに入った結果「どちらが東尋坊で死ぬか」を話すが、互いに譲る事もなく平行線に。


 日を改めて翌日も互いに抜け駆けされないように見張り合うが、更にそこへ別の自殺志願者が……、といったお話でしょうか。



【タイトル・キャッチコピーの批評】

 タイトルは非常にセンシティブですね。

 ここだけを見て「読まない」と判断する読者もいるとは思いますが、ここは仕方のない部分ですね。そもそもテーマが「自殺」なのですから。


 安直ですが『明るい自殺計画』や『愉快な自殺計画』などと、頭にベクトルが逆の文面を置くと陰鬱さが緩和され、ギャップも生まれるのではないかと愚考します。

 (『明るい自殺計画』はパロディ色が強くなりますが)


 問題に感じた部分としては「少なくとも主人公に計画性は感じられない」といった事でしょうか。(第5話までの時点では、他のキャラにも計画性は見られません)

 タイトル詐欺とまでは申しませんが、少しだけ齟齬は感じました。



 続いてキャッチコピーですが、良いと思いますね。

 タイトルでは陰鬱な物語を想像してしまいますが、コピーを見れば「コメディ作品」である事が分かります。



 タイトル・コピーの共に、悪くないと思いますね。名づけの方向性としては間違っていないと思います。

 「これ以上」となると、センスや閃きが必要かと思いますね。



【キャラクターの批評】

 キャラクターですが、個人的には好印象ですね。


 まず主人公ですが、決して読者に好かれるデザインではありません。

 自分勝手で、自殺の理由も浅く、無計画で、自己顕示欲も高いです。

 ですが「ストーリーの都合」と言っては聞こえが悪いですが、当然彼の自殺は上手くいきません。そのおかげで「読者からの無用なヘイトを買う事はない」と感じました。

 また悪い部分ばかりを述べましたが、決してそれだけでもなく、人の好さが窺えるエピソードもあります。


 そして主人公を「良いキャラ」に見せているのにはヒロインの存在もありますね。

 【あらすじ】などで「毒舌女」とされるヒロインですが、上記のような主人公とは当然のようにウマが合う事はなく、毒舌でバッサリと切り捨てます。

 こういった「主人公の欠点を指摘するキャラ」というのは良いですね。「物語が主人公を中心に回っているのではない」と感じさせてくれます。



 問題点ではないのですが、本作の特徴として「キャラの名前が不明」というものがあります。

 「誰も名前を明かさないまま、最後まで話を進める」というのなら、賛否はともかく「一芸のある特徴」だとは思います。

 もしそうではなく「後で名前が出る」というのなら、せめて主人公だけでも最初に読者に知らせた方が良いと思いますね。



 また問題という程でもないのですが、「寒さ」に対する描写には違和感を覚えました。

 舞台は「年末の『東尋坊』(海辺の崖)」です。寒いなんてものでは無いはずです。


 なのにヒロインの服装は「白いワンピース」ですし、第3話で登場した女の子は「水に濡れたセーラー服から下着が透ける」という描写から「夏服では?」と思わせます。

 少し、女性陣の服装には疑問を抱いてしまいました。



【文章・構成の批評】

 文章は、非常にコミカルで軽い文体ですね。作風・主人公の性格ともマッチしていて良いと思います。

 ただ、結構クセは強めですので「合う読者」は少ないと感じます。


 時折、「インパクト度」や「白い足の肌がつらつらと光っている」などといった変な日本語もありますが、主人公の一人称視点ですので「間違っているのは作品ではなく、主人公」と見る事もできます。


 気になった点としては、「文頭の一字下げ」があったりなかったりと安定していない事ですね。

 基本的にはあった方が良いと思いますが、使わないなら統一した方が良いでしょう。中途半端が一番ダメだと思います。



 構成ですが、こちらも好き嫌いが分かれそうですね。

 展開としてはゆっくりで、その分丁寧に話が進んでいる印象です。


 その為、第5話までの時点では主人公以外は「自殺しようとする理由」がほとんど分かりません。(唯一、「電波じじい」とされる人物が「奥さんの後追い」だろうと分かるくらいです)


 主人公との関係性も「毒舌女」以外とは確定していない状況ですし、「ラブコメ」で登録されているにもかかわらず、全く「ラブコメ要素」はありません。


 「分かりやすさを求める」と言われるweb読者とは相性が悪そうですね。個人的には、このくらいでも良いとは思うのですが。



【ストーリー・設定の批評】

 ストーリーは【あらすじ】を見る限り、「自殺志願者6人で、誰が先に死ぬ事ができるかを争う」という話だと思います。

 かなりカオスな設定ですね。面白いと思います。


 コメディに大きく寄っているので、「自殺」というテーマに反して暗い雰囲気は全くありません。

 今後の展開は予想しづらいですが、恐らく最終的に「死人は出ない」のではないかと思いますね。


 懸念点は【構成の批評】でも述べた「ラブコメ要素」が全くないという事ですね。

 ラブコメを期待する読者はついてこれないのでは? と、感じてしまいました。



 設定ですが、ここに本作最大の問題点があるように感じます。

 本作の舞台である「東尋坊」とは「実在する自殺の名所」です。これを舞台とする事で「近隣に住んでいる読者」からは読んでもらえない可能性があると思われます。

 また、「実在の地名を揶揄していると感じた読者」も嫌悪感を示すのではないかと思いますね。


 ただでさえ「自殺」をテーマとして取り扱ってますので、「実際に知り合いを亡くした事がある読者」は決して読んでくれないと思いますし、読者層の幅は非常に狭いのではと思います。


 センシティブなテーマを扱った作品の宿命とも思いますが、「実在の地名」は避けた方が良かったのではと思いますね。(「東尋坊」はサスペンスドラマでよく舞台にされているそうですので、私の懸念は見当外れの可能性もありますが)



【総評まとめ】

 総評ですが「非常に読者を選ぶ作品」ですね。

 「自殺」というテーマは元より、「好感の低い主人公」や「クセのある文体」なども、全てが読み手を選ぶと感じます。

 さらに「陰鬱な話」を期待した読者は、第1話を読んでブラウザバックしてしまうでしょう。


 私は幸い「自殺をした知り合い」はいないですし、「自殺」そのものに忌避感はあまりありません。(肯定している訳ではありません。念の為)

 主人公も「ヒロインが中和している」と感じましたし、文体のクセも「主人公の個性」だと受け止める事ができました。


 個性的なお話ですし、面白そうだと感じたので★2としましたが……。

 本作は「ほとんどが1話切り」をされていて、評価は非常に低いですね。(現在、★0でPV数は61です)

 その理由は推して知るべし、といったところでしょうか。



【追記】

 本作は作者さまの要望により、第6話までを読んで追記します。



 第6話を拝読いたしました。

 話の流れとしては前回の続きといった感じですね。主人公と中学生女子の交流が描かれています。


 まずキャラとしてですが、本作のキャラは「全員が自殺志願者」という事からか、みんな「自分勝手」な印象を受けます。

 本来ならば作品としては欠点となる部分かも知れませんが、本作に限っては非常に良いですね。そもそも「自殺なんて自分勝手な人間のするものだ」というのが私の考えなので、彼らの性質は非常にリアリティを感じます。


 そして「自分勝手」な者同士が出会った結果、奇妙なコントのような会話が発生します。だいたいは「お前が悪い」の押し付け合いですね。


 ですがその会話に嫌悪感は抱きませんでした。

 これは本作が「主人公に感情移入するタイプの作品」ではなく「第3者目線で主人公たちを俯瞰するタイプの作品」だからだと思います。



 気になった点としては、「中学生女子が、主人公の事情や心情を汲み取り過ぎている」と感じた事と、「寄りかかられて、腹に髪の感触が伝わった」という部分の2点ですね。


 前者については違和感は拭えませんが、仕方のない部分でもあるとは思います。

 「主人公の事情や心情」を知るヒントは一応あるにはありましたし(それでも強引だとは思いますが)、そこをダラダラと説明していては物語のテンポが悪くなりますので。

 ただ、「もう少し上手く出来ればもっと良くなるのにな」と、惜しい気持ちにはなりました。


 後者に関しては【キャラクターの批評】でも述べた「服装の問題」ですね。

 海辺でなくても真冬なのですからコートかジャンパーくらいは着ているでしょう。「頭の感触」ならともかく、「髪の感触」は伝わらないと思いますね。



 1話だけですが、【追記】の総評ですが「評価は変わらない」ですね。

 第5話までと同じく、「クセはあるが面白い」と感じました。


 そして、ここまで読めた読者ならクセは慣れてきているでしょうし、「自殺」に対する忌避感も薄いのではと思われます。

 キャラには魅力がありますし、掛け合いも面白いと感じました。


 今後の展開次第ではありますが、「1話切りは多いが、数話を読んだ読者はすぐには切らないのでは」と感じましたね。

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