★2 アフター・C=ジャスティティア────炎魔と呼ばれた男はジャスティティアに神を求む


タイトル:アフター・C=ジャスティティア────炎魔と呼ばれた男はジャスティティアに神を求む

キャッチコピー:正義感の強い主人公が悪と化物と神を焼却する人間賛歌の冒険譚

作者:金剛ハヤト

URL:https://kakuyomu.jp/works/16818093075753914427


評価:★2


【あらすじ】

スルトは正義感の強い騎士であった。しかし正義を信じ続けた末、スルトはとある戦争で十万人を虐殺した。その結果、彼は恩師も親友も失った。絶望の果てにスルトは信仰していた正義の女神を恨み、騎士団を脱退するが、それでも正義を捨てられなかった。正義の神はどこかにいると信じて、炎魔と呼ばれた男は祖国を飛び出して長い旅に出る。

この物語は、正義の神を求めるスルトが、勇者に憧れる青年ユーリと異世界人を自称する美少女カナエ・ヨタカと共に世界を放浪する冒険譚である。  



【拝読したストーリーの流れ】

 本作には『読んでいただきありがとうございます!』という挨拶文、『アフター・C=ジャスティティア』という前日譚(?)、および『プロローグ 戦火・罪人の追憶』がありまして、これらと第4話までを批評対象とします。



 「超大陸ジャスティティア」――。

 そこに存在する「テミス王国」の「フェンリル騎士団」に入団する事を決心した幼い主人公「スルト・ギーグ」。


 決心から7年の時が経ち、14歳になった「スルト」は自身の力・霊臓ソウルハートによる「炎を操る力」で入団試験を見事突破し、晴れて「フェンリル騎士団」の一員となった。


 同時に騎士になった「リルカ・イエスマリア」、「エルド・L・ラバー」という仲間や、先輩騎士たちとの出会いを経て、「正義を司る女神・テミス」の剣となる事を誓った「スルト」の戦いが始まる……、と言ったお話でしょうか。



【タイトル・キャッチコピーの批評】

 タイトルは、初見では「主人公の名前」と勘違いしてしまいそうですね。

 前述の通り「ジャスティティア」とは大陸の名前です。意味を推察してみると「『C』の後のジャスティティア(大陸)」ですかね? 「C」が何を指すのか分かりませんので、いくら考えても意味は分かりません。


 後半のサブタイトルで分かるのは「主人公が炎魔と呼ばれた」事くらいですかね。「主人公の能力が炎」という事が分かるだけですね。

 「神を求む」に関しては本編を読むと何か意味はありそうな気もしますが、タイトルだけを見た場合は、ただカッコをつけているだけで大した意味は無さそうに見えてしまいます。


 あと、「ジャスティティア」という単語がメイン・サブの両方で出てくるのは若干クドく感じました。



 続いてキャッチコピーですが、こちらは完全に説明文ですね。ですが、その内容は非常に曖昧で具体性がありません。

 読者をキャッチできるようなワードは「神を焼却する」くらいですかね。キャッチする力としては弱いと思います。

 個人的には変更した方が良いと思いますね。



【キャラクターの批評】

 キャラクターですが、その造形が非常に掴みにくいと感じてしまいました。


 特に主人公なのですが、性格・思想・目的がハッキリ伝わりません。

 年相応に冗談を言ったり、かと思えば非常に落ち着いた言動をしたりといった具合です。相手によって使い分けているというのは分かるのですが、物語の最初からこのような表現をしてしまうと読者に「主人公像」が正しく伝わりません。


 思想や目的も「テミスの剣となって、人々を守る」という、非常に曖昧でザックリしたものですので明確な目標ではありません。

 何よりそう思うに至ったエピソードが「力があるから」と、こちらもザックリしたものですので共感や理解は難しく思います。


 あと主人公に限らずですが、全体的に「キャラが薄い」と感じました。

 登場人物にコレといった強い個性を感じず、またセリフもどこか薄っぺらく感じます。

 これは「主人公の動機」と同じように、「大した理由がなく」曖昧でザックリした動機の言動ばかりの為だと思われます。(ここは【文章・構成】でも述べます)



 また、別の問題として「登場人物が多すぎる」という問題が挙げられます。

 第4話まででの名前有りの騎士団員が主人公を除いて6人ですかね?

 彼らにはそれぞれエピソードが描かれていますので空気感はないのですが、それらを描く為に非常に冗長に感じてしまいます。(ここは【構成】でも述べます)


 結果として情報量が多くなってしまい、「何が重要な情報なのか」が読者に伝わりづらいと感じました。



【文章・構成の批評】

 文章自体は読みやすいのですが、意味を理解しようとすると途端にストレスのかかる文章です。


 その原因は3つ考えられ、1つは【キャラクターの批評】で書いた「言動に大した理由がない」事が挙げられます。

 本作のキャラの行動には、深い思慮や、強い動機・感情などは見られません。

 その為に、意味があるのか無いのかよく分からない話が頻繁に起きます。(リアルと言えばリアルなのですが)


 もう1つの原因は「必要な情報を後出し」している事です。

 もちろん伏線などもあるのでしょうが、後出しがあまりにも多く、また明らかに伏線ではないものまで後出しをする癖がある為、非常に読みにくいですね。

 顕著だったのは『プロローグ』の「イツマデ」という化け物(妖怪?)と戦うシーンなのですが、そのサイズが「屋敷の一つくらいなら丸呑みに出来そうなほど大きな霊魔」と、「倒した後に」書かれていました。登場時に書いた方が良いと思いますね。


 最後の原因は、「一人称と三人称が急に変わるから」です。

 作者さまは無意識かも知れませんが、けっこう頻繁に一人称と三人称が切り替わっています。どちらかに統一するか、切り替え時に読者への合図をした方が良いと思いますね。



 それでは構成に移りますが、まず【キャラクターの批評】で書いた通り登場人物が多すぎて、更に彼らの行動に大した理由がない為に非常に冗長です。

 登場人物を絞る・必要なエピソード以外は削るなどをした方が良いのではと思ってしまいますね。


 また同時に、見せたいエピソードを強調する・エピソードの間に明確な区切りを設けるなどの必要性も感じます。

 区切りについては、1話ごとのエピソードの区切りはちゃんと出来ていましたので、1話の文章量を減らす方向で考えた方が良いかも知れません。(1話の文字数は約4000~5000文字とやや多目ですので)


 あと『読んでいただきありがとうございます!』という挨拶文は、概要欄に書いても良かったのではないでしょうか。

 エピソードとして書いてはダメだという訳ではありませんが、人によっては「PV稼ぎだ」と考えられるかも知れません。(穿ち過ぎですかね?)



【ストーリー・設定の批評】

 ストーリーは、まだ全貌が見えてきませんね。

 前日譚(?)の伏線や、未来の先見せとして「主人公が戦場で全てを焼き払った」という陰惨な描写がありましたが、現時点では「主人公が騎士団に入団した」事しか分かりません。


 ただ上記の冒頭は暗い雰囲気で始まり、タグにも「ダーク」とあったので重厚なダークファンタジーを連想するのですが、所々にコメディのような軽い描写やセリフもあり、雰囲気が統一できていないように感じました。


 作者さまより「プロローグ~八話が全て揃って初めて大きなテーマと意味がある」と伝えられていますので、ストーリーとしての評価は【追記】をしてからになりますかね。



 そして設定ですが……正直、よく分かりませんね。

 まず「スルト」「炎を操る」という事から北欧神話がモチーフなのだと思いますが、他に「イツマデ(以津真天?)」が登場するなど、あまり原典と本作に関係は無いように感じます。(先のエピソードタイトルを見てみると「アトランティス」とか、「天使」とか、「メシア」とかの単語もあります)


 また、携帯が登場し「着メロ」とか「アドレス交換」など、文明レベルもよく分かりませんね。(ここは世界観の雰囲気が壊れているようにも感じてしまいました)

 前日譚(?)では「海底からお宝をサルベージする、トレジャーハンター」という存在も出てきましたし、「この世界の常識」が分かりません。


 更に第4話の冒頭で、神父が「人々から信仰が必要ないくらい平和になった」というようなセリフがありましたが、その後に主人公が「皆が怯えずに暮らせる世の中にしたいです」とも言い、平和なのかどうかも分かりません。


 まだ序盤なので断言は出来ませんが、上手くまとまった話には見えませんでしたね。



【総評まとめ】

 総評ですが「情報量が多い。でもそれらが繋がらず、まとまっていない」ですね。


 正直、今回は批評を書くのに非常に苦労しました。

 あまりにも情報量が多いのに、それらが物語で重要な伏線なのか、そうでないのかが分からない部分が多かったからです。(たぶん、ほとんど伏線ではありません)

 頭を空っぽにして読むのならこれほどの苦痛は無かったと思いますが、批評を書くには難易度の高い作品です。


 現時点で、私が作者である金剛ハヤトにアドバイス出来る事があるなら「読者に与える情報の取捨選択をしよう」、そして「情報を与えたなら、どうしても明かせない伏線以外は答えを示そう」ですね。

 投げっぱなしの断片的な情報は、物語を楽しむ上での雑音でしかありません。(加えて言うなら、雑音がうるさすぎて物語本来の「音」が聞こえません)



【追記】

 本作は作者さまの要望により、第8話までを読んで追記いたします。



 まず本批評の内容を受けてか、第4話までの内容が大幅に改稿されていました。

 批評を書いた者として嬉しく思います。


 その内容ですが、まず『読んでいただきありがとうございます!』というエピソードが削除され、『アフター・C=ジャスティティア』という名前の前日譚のエピソードタイトルが『Title』と改名されていました。


 そして『Title』のラストには世界観の説明がされ、「霊力というエネルギーがある事」や「スマートフォンのような通信機器やインターネットなどの生活を豊かにするハイテクノロジーがある事」などが書かれています。

 これのおかげで、後に登場する「携帯電話」などの唐突感がなくなりました。

 同時に「霊魔」という怪物がいる世界だという事も分かり、導入として良い説明だと思います。


 また最後に「クロニクル」と言う単語が出てきて、恐らくタイトルの「C」とは「chronicle(年代記?)」の事だと思われます。

 タイトル全文の意味を推測すると「年代記(もしくは歴史?)の後のジャスティティア(大陸)」ですかね?


 『プロローグ』も少しタイトルが変更されて、「未来の先見せ」という導入部分が削除されています。

 そして追加として「主人公が、女神テミスから神託(?)を受ける」という話が追加され、このおかげで「主人公の動機」が強く補強されました。

 「騎士になる」という動機もハッキリとし、また物語的にも「ひょっとして、女神に騙されたりしてない?」という「良い意味での不安感」を読者に与える事が出来ているように思います。


 第1話以降も細かく改稿をされているように思います。(スミマセン。細かい表現などは流石に覚えておりませんでしたので、「どこが」とは申せません)

 大きな変更点は本批評内でも言及した「第4話冒頭での神父とのやり取り」ですね。ここも大幅に改稿され、納得のいくものとなっておりました。


 読むのが2度目という事もあるとは思いますが、【文章の批評】で指摘した点もほとんどは解消されているように感じます。

 1カ所だけ「一人称と三人称が急に変わる」という点ですが、第3話での模擬戦が始まったところからは「三人称」に変わっていました。(直前までは「オレ」「モーリッツさん」と書かれていたのが、「スルト」「モーリッツ」となっています)

 主人公が気絶するシーンもありますので「主人公の一人称」では使いにくいでしょうが、それならシーンが変わった瞬間から三人称にした方が違和感は少ないと思いますね。



 そして追記の範囲の第5話~第8話ですが、まず第5話は色々と構成として微妙に感じてしまいました。


 悪夢を見た主人公が教会の神父に相談に行く、というエピソードなのですが、まず最初に登場する双子の孤児の存在意義が分かりません。

 「主人公と教会の関係が近い」という事を示す為のエピソードだと思うのですが、それにしては双子の描写が多く、更に「2人は殴り合いのケンカをしている」というところから始まり、主人公が仲裁をするのですが「主人公の顔を見ただけでケンカを止める」という流れです。

 どうやら双子はしょっちゅう、殴り合いの激しいケンカをしているように受け取れます。


 そして主人公は「暴力はダメだ」と言うと双子は素直に頷き、「ちゃんと言ってやればすぐに仲直りするし自分から謝ることも出来るとっても良い子たちだ。だから喧嘩が起きたとしても、誰かがこうやって軽く教えてやるだけであっという間に問題は解決する」と締めるのですが……問題が解決しているようには思えませんでした。


 何より、最初に述べたように「双子のキャラ付け」をこの段階でする意味は分かりませんでした。


 そして神父と会って主人公は相談をするのですが、「神父の見せ方」があまり良くないと感じました。

 神父は「予知夢」のような能力を持っているようなのですが、「昔に見た予知夢の内容を思い返して錯乱する」という描写が入ります。それを主人公が宥めるのですが……。


 元々は主人公が悩み相談に来たんですよね? ここは神父が「落ち着いた雰囲気で主人公の悩みを聞く」場面の方が良かったと思いますね。

 不穏な予知で「未来の不安を煽る」という意図は分かるのですが、悪く言うと「神父のキャラが崩壊している」と感じてしまいました。



 そして第6話では4年の月日が経ち、主人公の住む「テミス王国」が「ガンドラ帝国」に戦争を仕掛けているという話になります。


 ですが冒頭のシーンは疑問が多いですね。

 (恐らく王宮の)庭園で、主人公が戦争を起こした国王を糾弾するシーンから始まります。(他のキャラの描写はありません)

 場所も、主人公の地位も、まるで自然ではありません。


 一体、主人公と国王はどういう距離感なんでしょう? 何があれば国王と1対1で話し、あまつさえ「戦争を仕掛けた事を糾弾する」事が許されるのでしょうか?

 ここの説明がない為に、このシーンでは違和感しか感じませんでした。


 その後は、元々の『プロローグ』であった「未来の先見せのシーン」ですね。

 ここでは帝国軍を主人公が単身で焼き払うというシーンなのですが、帝国兵に「素朴な人間味」を見せる事で、主人公の行った行為の残虐性や罪深さが表現されています。非常に良いシーンだと思います。



 第7話では、王都に帰り着いた主人公を、自死した神父が迎えます。主人公にとってはショッキングな出来事ですが、読者目線から見ると「ただ主人公を追い詰めたいだけのシーン」のように感じてしまいました。

 これは第5話での「神父のキャラが崩壊している」と感じたせいで、神父の自殺の理由がよく分からないからです。(たぶん、予知が現実になったから? それとも可愛がっていた主人公が虐殺をしたからかのどちらかだと思いますが)


 そしてその後は場面が移り、ここでは三人称になっていますが明確にシーンが変わっているので違和感はありませんね。

 王国が大量の霊魔に襲われ、国王は何かを察しているようですが、現段階では読者には伏せられていますね。



 そして第8話では、前話で気を失った主人公が目を覚ます所から始まります。

 主人公は6日間も寝ていて、その間に状況は大きく動いてしまいます。


 王国と帝国は、共に霊魔から甚大な被害を受けて戦争は停戦。この事実により、主人公が行った帝国軍の殲滅は意味が無かった事になってしまいます。

 更に追い打ちを掛けるように、主人公の知り合いも霊魔の手によって命を喪ってしまいます。

 これらの事実により、主人公は「女神テミス」への信仰を失い、正義をなす為、真の神を探す為に騎士団を辞めて旅に出ます。


 主人公を精神的に追い詰める、この流れは非常に私好みです。

 先ほど「双子のキャラ付けをする意味が分からない」と申し上げましたが、この話の為なら納得ですね。(もう少し、自然に登場させる事ができれば良かったとは思いますが)



 さて、【追記分】の総評となりますが、まずストーリーは「女神テミスを信奉していた主人公が、女神に裏切られて真の神を求める旅に出る」という話ですね。

 作者さまが仰った通り、第8話まででストーリーのテーマが判明したと思います。

 テーマと、そこに至るまでの流れが暗いので読者を選ぶとは思いますが、個人的には非常に良いと思いますね。


 そして何より、本批評で指摘した内容がほとんど改善されているのは嬉しかったですね。批評した甲斐があったというものです。


 一番良いと感じた変更点は「主人公の動機がハッキリした」事ですね。

 これのおかげで「主人公は敬虔なテミス信徒」である事が表現出来ましたし、その後の「テミスへの信仰を捨てる」というギャップも良い方向に作用していると感じました。


 これらを受け、本作への評価を★0から★2へと変更させて頂きます。

 【追記】で2段階も評価を上げるのは初めてですが、指摘した問題点が改善されていて、ストーリー自体も第8話までを見て「良い」と感じた結果です。

 ただ相変わらず情報量は多かったので、【追記】も書くのは大変でした……。

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