★0 妹を救うために泣きゲーを作ります。


タイトル:妹を救うために泣きゲーを作ります。

キャッチコピー:苛められていた妹に最高の泣きゲーを作る物語。

作者:柊准(ひいらぎ じゅん)

URL:https://kakuyomu.jp/works/16818093083141126772


評価:★0


【あらすじ】

 俺――竹達駿は冴えないオタクであり、高校生でもある。そんな俺には夢があり、PCゲーム会社に入社したいというものだ。

そんなとき、とあるゲーム会社が「新人ゲーム賞」を企画。

俺はプログラミングが出来るので、必要な人材は作家と絵師だった。そんなとき、学校中に横行している”変な噂”――秋月菜穂という女子が作家であると。しかもそのジャンルが官能小説だと。そんな噂を真に受け俺は意を決して会いに行った。すると秋月菜穂は開口一番「あなた、私の犬にならない?」と痴女をさらけ出した。

 この物語は、秋月菜穂やさらなる仲間と共に感動させるエロゲーを作るものである。



【拝読したストーリーの流れ】

 本作の作者である柊准(ひいらぎ じゅん)さまは、以前に批評させて頂いた『Blue rose~青い薔薇~』の作者、大瀧潤希sunさまと同じ方です。(改名されています)



 オタクの主人公「竹達駿」は、同じくオタクの妹「竹達眞衣」と仲が良かった。

 2人で一緒にゲームを作り、いつかエロゲー会社に就職する事を夢見ていた。

 しかし美人の「眞衣」は中学生の時にイジメに遭い、それが原因で引き籠りとなってしまう。


 シスコンの「駿」は妹を立ち直らせる為に、憧れのゲーム会社「Next」の募集するゲームコンテストに応募する事を決心したのだった……、と言ったお話でしょうか。



【タイトル・キャッチコピーの批評】

 タイトルは、作品内容がストレートに伝わって良いと思います。

 ただ読者へのヒキは弱いと思いますので、「泣きゲー」よりも更にストレートに「エロゲー」の方が良いのではないでしょうか?


 以前に別作品の批評でも書きましたが、「エロ」は強力なパワーワードです。

 その是非は人によって意見が分かれると思いますが、「エロゲーを作る」というストーリーの本作なら、「エロ」はもっとアピールしても良いと思いますね。



 そしてキャッチコピーですが、タイトルと内容がほぼ同じです。「苛められていた」という情報しか増えていません。


 タイトルかコピーのどちらかは、全面的に変更した方が良いと思いますね。

 一部例外もありますが、基本的にこの2つで同じ事を伝えるのは「機会ロス」ではないかと感じます。



【キャラクターの批評】

 キャラですが、主人公はその造形が掴みやすくて良いと思います。

 ただ主人公以外のキャラは描写が薄く、行動に説得力が弱いと感じます。


 シナリオ担当のヒロイン(?)は、主人公にシナリオ作成を依頼されると交換条件として「私の犬になりなさい」と言います。ドSキャラですね。

 ですがその後は「首にチョーカー」を着ける事くらいで、後はからかうような事を言ってくるだけです。

 もっと、変態性を強調した方がキャラが立つと思いますね。


 イラストレーターに至っては「プロ」という設定でありながら、主人公のゲーム作成の動機を聞いただけで無償で仕事を請け負います。(しかも初対面&電話)

 「プロ」の定義がハッキリしていないので言い切ってしまうのはどうかとも思いますが、「プロ意識は低い」と感じてしまいました。(本来なら、最低でも数十万円以上はする仕事の筈です)

 冷静に考えて、主人公に協力する理由が弱すぎると思います。


 あと、主人公の母親は何なんでしょう?

 妹の食事は主人公が用意しているようです。妹想いの主人公は父親に相談しようとするのですが、父親は引き籠りの妹に干渉しようとしていません。

 そんな父親を見て、母親は「お父さん、あなた眞衣の父親でしょう。少しは考えてはどうですか」と言います。母親の登場は第5話までではここだけです。

 お母さん、あなたは眞衣の母親でしょう? 少しは考えてはどうですか?



【文章・構成の批評】

 文章は、明確に覚えている訳ではないのですが前作より良いと思います。

 主人公の描写や表現については十分に描かれてますし、前回指摘した「てにをは」の違和感も少なかったと感じます。


 ですが、まず物語冒頭でいきなり間違いがあります。こちらは引用させて頂きます。

――――――――――――――――――

 俺――竹達たけたつ駿しゅんは、その当時十歳だった。

 感動系ノベルゲームの金字塔、「Next」から生み出されたゲームがアニメ化され、それを食い入るように見ていた。

 いつも同じところで泣き、いつも同じところで笑う。


 それから十年後、十八になった俺は必死にバイトして買った最新機種のゲーミングPCで、八年前のアニメ化になった原作の十八禁Nextゲームをプレイする。

――――――――――――――――――

 当時10歳で、なぜその10年後で18歳なんですか? 10歳の頃にアニメ化されていたのに、なぜ10年後には「8年前のアニメ」になっているんですか?

 出だしからこのような事を書かれると、その後の時系列に関する記述が一切信用できません。

 今すぐに、ここだけでも直しましょう。


 また、この文章では「Next」がゲーム名なのかゲーム会社の名前なのかが分かりにくいですね。

 「八年前のアニメ化になった原作の十八禁Nextゲームをプレイする」と言う文章も、どこに主語があるのかが分かりにくく感じます。

 このような、いまいち分かりづらいと感じる文章はいくつかありました。


 更に、シナリオ担当が書いたプロットが作中で書かれているのですが、こちらも引用します。(一部、伏せ字に変更しました)

――――――――――――――――――

ANSERアンサー」というゲームタイトルだった。用紙をパラパラとめくると起承転結が端的に書かれていた。

 具体的には、このゲームはとある女子高生に恋した主人公が、恋愛が原因でその女子高生がいじめられることから始まる。主人公は、頼れる友人や教師、別ルートで攻略するサブヒロインの力を借りながら女子高生を救うことがこのゲームの要だ。そしてなんとこのゲームのギミックとして、類を見ないのがエロゲーでありながら、好きな女子高生とセッ〇スしてしまうと、バッドエンドになってしまうということだ。


 面白い。そう思った。エロゲーなのにエロがない。


「どう、面白い企画案でしょ」

「ああ、確かに最高のプロットだよ」

――――――――――――――――――

 申し訳ないのですが、これを見てもこのプロットの何が面白そうなのかが、私には「全く」理解できませんでした。

 こうして内容を書くのなら、少しくらいは「面白そう」と思わせる事ができなければ逆効果です。



 そして構成に移りますが……。第1話に大きな問題があると感じてしまいました。

 それは「妹」の「い」の字も出ていないという事です。

 主人公のセリフで「やってやるよ。——のために」と、わざわざ伏せてありましたので作者さまが意図的にされているのだとは思います。

 ですが、私にはこちらも逆効果に感じてしまいました。


 第1話で「俺もNextにいつか入社したい」「自作PCゲーム募集。賞金一千万円」とありましたので、主人公の動機はこの2つだと思ってしまいます。

 なのに第2話以降にはこの2つは一切語られずに、妹の事ばかりが出てくるので主人公のキャラが一瞬分からなくなりました。

 タイトルにも「妹を救うために」とあるので、わざわざ隠す意味は無いと思いますね。



【ストーリー・設定の批評】

 本作はストーリーと設定を同時に批評いたします。

 この2つですが、少し「ちぐはぐ」だなと感じてしまいました。


 本作は「現代ドラマ」のジャンルに設定されており、妹の設定は「イジメ」「引き籠り」と暗く、主人公が元気づけて更生させるドラマだと思います。

 ですが、それをする為のストーリーの流れが「エロゲー作り」「協力者の犬になる」と、まるでコメディ路線です。

 嚙み合わせが悪く感じ、面白くさせるのは困難だと思いました。


 複数ジャンルを組み合わせる手法はよくありますが、「シリアス」と「コメディ」といった真逆のジャンルを組み合わせる場合、「明確にシーン」を分けるという手法が有効かと思われます。例えば「バトルパートはシリアス」で「日常パートはコメディ」といった具合ですね。

 この手法を取らない場合、非常に優れたバランス感覚が作者に求められると思います。


 と、ここまで書きましたが、本作の第5話まででコメディ要素はありません。(タグにも「コメディ」「ギャグ」等はありません)

 私がただ勝手に「エロゲー作り」「協力者の犬になる」という設定を面白くするなら「コメディ路線しかないだろう」と感じただけです。


 勝手な推測と解釈をしてしまった事にはお詫び申し上げます。

 ですが、シリアスなドラマに上記の2つの設定……合いますかね?



【総評まとめ】

 前回は「『雑』です」と一刀両断してしまいましたが、本作はだいぶ良くなっていると感じました。

 同じ★0という評価ではありますが、前作より格段に今作の方が良いと思います。


 一番良くなったと感じたのは主人公ですね。

 前作は「第1話を読んだだけで嫌いになった」と言ってしまいましたが、今作の主人公は好感の持てるキャラです。

 「物語の主人公」として、十分に魅力的なキャラとなれる可能性を感じました。


 ですが、まだまだ「穴」だらけだと感じます。

 文章は良くなってはいますが、及第点には今一歩及んでいません。

 ストーリー・構成・設定も、煮詰めが甘いと思います。


 なにより、主人公以外のメインキャラの扱いがあまり良くないと感じました。

 作者の柊准(ひいらぎ じゅん)さまの作品ラインナップを見てみますと「ドラマ」に重点を置いた作品が多いように感じます。

 ならば主人公以外のキャラもしっかりと設定を考え、作中で表現する必要があると思いますね。

 「ドラマ」は、主人公だけでは作れませんから。

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