★3 地獄のエリア810(ハチヒトマル)~ 魔法王国の少女と機械帝国の少年兵


タイトル:地獄のエリア810(ハチヒトマル)~ 魔法王国の少女と機械帝国の少年兵

キャッチコピー:魔法王国と機械帝国の戦争最前線、地獄と言われた戦場で少年と少女は出会う

作者:素通り寺(ストーリーテラー)旧三流F職人

URL:https://kakuyomu.jp/works/16817330669437163154


評価:★3


【あらすじ】

ここは異世界のとある大陸。


その世界を席巻するのは二つの大国、魔法をもって魔女たちが支配する国、魔法王国と

科学を駆使して文明を発展させた機械の国、機械帝国。


相容れぬ両国は、お互いを敵視して長き戦争を続けている。


その明暗を分かつのは、かつてこの世界に魔力をもたらし、今も世界でただ一か所、

膨大な魔法力を生み出し続ける聖地「エリア810(ハチヒトマル)」の確保。


魔法王国がそこを手に入れれば、その絶大な魔力を持って一気に機械帝国を制圧するだろう。

機械帝国がそれを確保、封印すれば、世界から魔法は消え去り、機械化学が世界を支配するだろう。


その世界の存亡を賭けた戦いの渦中に、魔法王国から一人の魔女見習いの少女が、機械帝国から一人の見習い兵士の少年が派遣されて来る。


地獄と呼ばれるこの最前線「エリア810」で、二人は出会い、そして何を見るのか――



【拝読したストーリーの流れ】

 批評に入る前に、お詫びとお願いがあります。

 まずお詫びですが、本作の批評は基本的に「第3話の途中まで」しか言及しません。

 なぜかと申しますと、第3話の後半でトンデモない「どんでん返し」がありまして、そのネタバレをしたくないからです。


 そしてお願いですが、本批評を御覧になって本作を読む場合「必ず第3話まで」は読んで下さい。

 決して1話切り、2話切りをなさらないで下さい。そう言いたくなるほどのトンデモない「どんでん返し」です。




 科学が発展し、男性優位の社会を築いてきた「機械帝国」。

 魔法を使用し、女性優位の社会を築き上げた「魔法王国」。


 二国は対立し、長年戦争を続けてきていた。



 その最前線、「地獄の810」と呼ばれる地に着任した機械帝国の新兵「ステア・リード」。

 彼は着任早々、魔女たちの襲撃を受けて応戦する事になる。


 王国の魔女は、魔法の使えない男性を家畜か生贄としか思っていない。

 もし捕まれば心臓を抉られ、睾丸を毟られ、断末魔さえ魔力に変えられてしまう。

 それほど魔女は恐ろしい存在なのだ。



 同じく「エリア810」にやって来た魔法王国の魔女「カリナ・ミタルパ」。

 彼女は実力を示して、幸せを掴み取る為に最前線へとやって来た。


 帝国の男どもはケダモノだ。女は魔法を禁じられ、子供を産む道具としてしか見ていない。

 もし捕虜にでもなってしまえば、死ぬまで寄ってたかって身体を汚される事になるだろう。



 帝国と王国。

 敵同士の2人は地獄の最前線「エリア810」で出会い……、と言ったお話でしょうか。



【タイトル・キャッチコピーの批評】

 タイトルは「エ〇ア88」のオマージュですかね?

 元ネタと本作は似ても似つきませんが作品内容とは合致していますし、「戦場でのボーイ・ミーツ・ガールもの」である事が分かります。

 基本的には良いと思いますね。


 ただweb小説の読者にはあまりウケないのでは? と、思ってしまいますね。

 それは元ネタの「エ〇ア88」が、「軽く読めるラノベ」を求める読者層とは合っていないように思うからです。



 次にキャッチコピーですが、こちらは設定と概要の説明ですね。

 「魔法」と「機械」によるバトルが期待できるのが良いですね。また、敵味方に分かれていますので「ロミオとジュリエット」のような物語も期待できますね。


 端的に必要な情報が入手できるので良いコピーだとは思うのですが、こちらもweb読者にはあまりウケないように感じてしまいますね。

 「戦争もの」「ボーイ・ミーツ・ガールもの」「悲恋もの」全てが読者層が違い、これらを同時に欲する読者は少ないと感じられます。



 ただタイトル・コピーの共に、「web読者にウケる・ウケない」以前の問題があるように思えまして……。


 まず、「どんでん返し」で「タイトル詐欺だっ」と感じる読者は少なからずいると思われます。タイトルとコピーに惹かれて読んだ読者の中には、それが理由で読むのを止めた方もいると思います。

 また、「どんでん返し」後の話が好きな「潜在的読者」を獲得できないのではないかとも思いました。


 このタイトルとコピーでは、「序盤の雰囲気の作品が好みで、尚且つ『どんでん返し』後の話も好きな読者」しか得られません。

 非常にターゲットが限定的でもったいないと感じました。



【キャラクターの批評】

 キャラですが、まず主人公の1人である帝国の「ステア」は良かったですね。

 第5話までの時点では「新兵」という設定以上の個性は見られませんが、それが「戦争の中でのちっぽけな1兵士」を演出できていたように感じます。

 等身大の「共感型主人公」と言えるのではないでしょうか。


 対する、もう1人の主人公と言える王国の「カリナ」なんですが、申し訳ありませんが「あまり読者ウケはしないのではないだろうか」と感じました。

 少しですが、私欲や打算的な表現が序盤から出され、「ステア」に対する恋心にも共感が持てませんでした。(これは私がオッサンだからかも知れませんが)


 あくまで私の考えですが、「王国では男性が少ないから結婚できる女は少ない。だから戦場で功績を残して伴侶を得る」という目的よりは、「姉が数年前にエリア810で戦死した。その仇を取る為に戦場に来た」というような目的の方がカッコよく、魅力的に映ると思うのですが、どうでしょうか?

(改稿の提案ではありません)



【文章・構成の批評】

 文章は普通に高水準ですね。重苦しい描写でもストレスなく読み進める事ができました。

 ただ、2点だけ気付いた所がありましたので指摘させて頂きます。


 まず、第1話冒頭で「三人称から一人称へシームレスに移行している」という点です。

 最初の方で「傍らに控えていた少年兵に声をかける」という地の文がありました。「少年兵」とは「ステア」の事です。この事から三人称で書かれている事は明白です。

 ですが途中から突然「そっちの警戒は僕の役目のはずだ!」というような地の文が始まります。明らかに一人称です。


 最初は「三人称一元視点でよくある視点のブレかな?」と考えていたのですが、それ以降は一人称で統一されているように感じます。

 ここは何らかの手を入れた方が良いと思いますね。


 次に、これも第1話なのですが「擬音語が多い」のが問題に感じました。

 主に砲撃の音なのですが、擬音語は多用するとチープに感じてしまいます。使用は「ここぞ」という時などに限定し、それ以外は地の文で表現した方がメリハリが効くと思います。



 続きまして構成ですが、文句のつけようがありません。

 第1話で「ステア」側、第2話で「カリナ」側の同時間軸を別視点で描き、第3話で「どんでん返し」が起き、続く第4話・第5話でキレイに纏まっています。


 ただ、キレイに終わり「過ぎている」のが懸念点ですかね。

 PVの推移を拝見しましたが、第6話で4割強の落ち込みが見られます。これは「第5話でキレイに終わってしまったので、読者が満足してしまった」のではないかと推測します。

(章分けをしている作品などは、第1章ラストから第2章でPVが落ちる傾向にあると思うのですがどうでしょう? 心当たりのある方は教えて下さると嬉しいです)


 第5話のラストで、これからの物語のヒキになるようなフックを用意した方が良かったと思いますね。



【ストーリー・設定の批評】

 第5話までの話に限定するという前提ですが、「個人的意見」としては完璧です。

 本作以上の作品はそうはありません。

 ただ、人によっては全く反対の意見も多そうに思いますね。


 ストーリーは「ボーイ・ミーツ・ガールもの」として王道を踏まえ、その上で「どんでん返し」で「良い意味でも、悪い意味でも」で読者の期待を裏切ってきます。

 私は「良い意味で裏切られた」と感じましたが、人によっては「期待してた話と全然違うっ!」となってしまうかも知れませんね。

 激しく好みが分かれそうです。


 1点だけ思ったのが、主人公たち2人が「お互いに一目惚れをしてしまう」というのは、物語の幅を狭めてしまったのではないかと感じました。

 どちらか一方は「好意を秘めているが表面上は反発する」とか「反発しているが、物語の進行と共に徐々に惹かれていく」という形の方が長編としてはと良かったのではないかと思ってしまいます。



 次に設定ですが、戦車VS魔女なんて、それだけでも好きな人には刺さりますね。(本当に好きな人は戦闘機VS魔女でしょうが)

 背景設定もしっかり作り込まれており、「どんでん返し」も納得のできる形になっています。


 もちろん「現実にあったなら」と考えてしまうと粗も出てきますが、それはロボットアニメに対して「人型にするメリットある?」と問うようなものでしょう。

 物語として破綻なく作られていますので「疑問で物語に集中できない」などという事は起きないと思います。



【総評まとめ】

 総評ですが「激しく評価の別れる作品」だと思いますね。

 「どんでん返し」のギミックは大したものです。思いついても中々できる事ではありません。

 ですが、そのギミックを「受け入れられる人は絶賛」するが「受け入れられない人は酷評」する作品なのではないかと感じました。

 作者さまの狙い通りなのでしょうけどね。明らかに万人受けを狙った作品には見えませんでした。


 私は「受け入れられた」ので★3としましたが、皆さんはどのような評価を本作に抱くのか興味はありますね。



【おまけ】

 作者である素通り寺(ストーリーテラー)旧三流F職人さまが、ご自身の近況ノートで「本批評への予想」をされていましたので、その回答をおまけとして書かせて頂きたいと思います。


>・タイあらキャッチ

> 3話以降の内容が完全に詐欺なのはまず原点対象でしょうね。


 ここは批評内で述べた通り、私は受け入れられたので減点にはなりませんでした。

 ただやはり、受け入れられない人は減点となってしまうでしょうね。詐欺なのは事実ですから。



>・キャラクター

> 状況に振り回されるステアとカリナはおそらく「無個性」というツッコミ入るでしょう。


 確かに2人には「強い個性」は感じませんでした。ですが、必ずしも「無個性が低評価の原因」になるとは限りません。

 読者と近い目線の主人公の場合、強い個性はむしろ共感の邪魔になる事もあります。一部のゲームなどで、「主人公が喋らない」「主人公だけボイスが無い」「主人公にイラストが無い」というものがあるのはこの為でしょう。



>・文章構成ほか

> Web小説なのに1話から文字数大杉な点は指摘を覚悟せねばならんでしょうね。


 6000文字弱は確かに多い方ではありますが、許容内だと思います。

 確かに「文字数が多い」と指摘した事はありますが、むしろ重要なのは「その内容」の方だと考えています。

 「だらだらと説明ばかりで話が進まない第1話」であったなら「文字数が多い」と指摘したでしょう。

 ですが本作の第1話は「話が大きく動き続けた」と感じました。6000文字でも退屈しませんでしたね。

 もちろん1万文字以上とかになると、「どこかで切った方が良いのでは」と思いますがね。


>……あれ? 星が付く気がしない(;^_^A


 またまた、ご謙遜を。

 仮に本作の「どんでん返し」が私の琴線に刺さらなかったとしても、流石に★0はあり得ない出来ですよ。

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