★1 宇宙樹の生贄~アムルと不思議な竜〜


タイトル:宇宙樹の生贄~アムルと不思議な竜〜

キャッチコピー:【七聖樹✕ドラゴン✕冒険✕旅】生贄の少女が世界を救う物語。

作者:風雅ありす

URL:https://kakuyomu.jp/works/16817330654352003830


評価:★1


【あらすじ】

世界を救う為に、一つの純粋な心(ハート)が必要だという。


「いいよ。あたしの心で世界が救えるなら。

 みんなが幸せになるなら。あたしのハートを世界にあげる」


そんな純粋無垢な少女を一人の少年が引き留める。

少年は、口が聞けない。

少女だけが少年の言葉を理解することができる。


「ゆーくんの代わりに、あたしが伝える。

 あたしは、ゆーくんみたいに何の力も持っていないけど、これくらいなら私にも出来るもの」


この世界では、力があるのが当たり前。

誰もが何かしらの力を持っている。

そんな中、その少女だけは、何の力も持っていない。

だからこそ、純粋な心を持っていた。


――何も持たない僕だけど。

――何も出来ない私だけど。


――彼女の為に、

――この世界の為に、何かをしたいと、そう思いました。


一つの純粋な心に代われるものは、世界中の皆の心の欠片。


(探そう。この世界と君の両方が助かる道を。

 全てがうまくいく方法がきっとどこかにある筈だよ)


少年と少女は、旅に出る。

世界を旅した果てに、二人が見つけたものは何なのか――。



【拝読したストーリーの流れ】

 本作には『登場人物一覧』と、422文字の『世界は犠牲の上に成り立っている。』というプロローグのようなエピソードがありましたが、これらは1話分には含めず、第五話までを批評対象としております。



 この世界は<七聖樹>と呼ばれる7本の樹によって支えられている。

 <七聖樹>の均衡が少しでも崩れた時、植物は枯れ、土地は痩せ衰え、人々は争い、世界は破滅するのだ。

 だが、仮にそうなったとしても救いはある。


 <宇宙樹>


 <七聖樹>よりも強力なこの聖樹であれば、<七聖樹>の力を取り戻す事が出来る。その為には、ひとつの純粋な心が必要なのだ。



 森の中にあるエルムの里で暮らす主人公「アムル=リーベ」は、天真爛漫で能天気な女の子だった。

 「アムル」の友達「ユースティス=ノウ」は、喋る事の出来ない障害を持つ少年だった。


 ある日2人は、「アムル」の育ての親である樹官長「モリス=イーヴィック」から、「世界破滅の危機」を知らされ、その為には<宇宙樹>の力を解き放つ鍵、「アムル」の力が必要だという事実を聞かされたのだった……、と言ったお話でしょうか。



【タイトル・キャッチコピーの批評】

 タイトルはファンタジーというより、メルヘンチックな印象を受けますね。

 ただメルヘンなだけでなく、「生贄」という不穏な単語が見た読者に不安を煽っているように見えます。

 万人受けはしない気がしますが、興味の惹かれる良いタイトルではないかと思いますね。



 キャッチコピーですが、キーワードの羅列とストーリーの概要ですね。

 作品内容を示すという意味では悪くはないと思います。

 ただ、「キャッチ」は弱いと思いますね。特にキーワードの羅列に関しては「キャッチ」する力は殆ど無いでしょう。



【キャラクターの批評】

 キャラクターですが、主人公たち2人はあまり造形の細部が伝わりませんでした。

 セリフなどからある程度の性格などは分かるのですが、それ以上の情報があまり無く、良い悪いを判断できるほどキャラが見せられておりません。


 ただ、「『ユースティス』は喋れない」という設定は非常に分かりにくかったですね。

 「ユースティス」のセリフは( )で表示されるのですが、「アムル」は彼の言葉(考え?)が理解できるようで、普通に会話をしています。

 そして地の文で「喋れない」という事実の説明も無いまま話が進み、樹官長が登場する事でようやく「喋れない」という説明がされます。(第三話)


 『登場人物一覧』でこの事は説明されておりますが、ここは「読まない読者もいる」と想定した方が良いと思います。(実際、第一話のPVは259、『登場人物一覧』のPVは106です)


 ですが、樹官長は良かったと感じましたね。

 テンプレ頑固ジジイかと思いきや、少しお茶目な口調で話すギャップは良かったですね。(これもまたテンプレではありますが)

 特に、「樹官長は木化する」という設定で「白髭の先が枝に変化している」という描写は独創的で素晴らしいと感じました。



【文章・構成の批評】

 文章は読みやすく、雰囲気も出ています。普通に良い文章を書かれていると思いますね。

 ただ、いくつか問題点がありましたので指摘させて頂きます。


 まずは読点が多いです。

 かなり頻繁に使用されているので、その度に詰まってしまって読みにくいですね。もう少し削った方が良いと思います。


 次に、「 」内で改行・空行を行っている事です。

 基本的には「 」では改行や空行は無い方が良いと思います。


 また第四話・第五話の、樹官長のセリフは長すぎますね。

 「説明台詞なので長くなる」というのも理解できるのですが、上記の改行・空行と相まって「どこからどこまでがセリフなのか」が非常に分かりづらくなります。

 説明文は「地の文で説明する」とか「合間合間に他のキャラのセリフを混ぜる」などの工夫をしないと読みづらくなってしまうと思います。


 最後に、本作は恐らく三人称一元視点で地の文が書かれていますが、主な視点が主人公ではなく「ユースティス」になっています。

 『登場人物一覧』を読んでいない読者は「ユースティス」が主人公だと思ってしまうと思うでしょうし、読んだ読者は混乱してしまうのではないかと思います。



 続いて構成に参りますが……。残念ですが、あまり良くないと感じました。

 まず物語は「ユースティス」が主人公を探しに洞窟を歩くシーンから始まるのですが、「暗い洞窟を歩く」という表現だけが冒頭から結構な文章量で続きます。

 私は最初、何のシーンなのかが理解できませんでした。


 そして、そのまま主人公と合流した2人は、以前に拾った不思議な卵から「どんな動物が孵るのだろう?」とワクワクしている描写が始まりますが、読者は全くワクワクしていないと思います。

 それは「主人公と『ユースティス』が何者なのかも分からない」からです。


 ここまでで2人の描写や説明は殆どありません。何なら、第五話まで読んでも年齢すらも不明です。(セリフなどから幼いであろう事は予想できますが)

 読者は「どこの誰かも分からない登場したての人物」に感情移入は出来ません。彼らがワクワクしても、それが読者には伝わらないのです。


 そして2人は樹官長の元へ行き、「世界破滅の危機」や「主人公が破滅を逃れる鍵」だという事を聞くのですが、これも上記の問題と同じです。

 2人がどんな性格で、どんな関係で、どんな生活をしているのか分かっていません。主人公たちに、ひいては作品の世界に愛着が無い状態で「世界破滅の危機」と語られても「ふぅ~ん、そういうお話なんだ」としか思いません。


 設定を見せるより、キャラを見せるべきだと個人的には思います。

 そうしなければ感情移入や共感が出来ず、ワクワクもドキドキもハラハラも伝わりません。



【ストーリー・設定の批評】

 ストーリーに関しては全く分かりません。

 前述の通り、「世界破滅の危機」で「主人公が破滅を逃れる鍵」という事が分かっただけです。そもそも、これらは設定であってストーリーですらありません。



 その設定ですが、一言で「素晴らしい」です。

 現在、世間に蔓延している「ゲーム世界のようなファンタジー」ではなく、まるで「昭和以前のファンタジー」のような世界観です。

 現在連載している有名作なら『不滅の〇なたへ』みたいな雰囲気に感じました。


 <七聖樹>のような物語の核となる設定から、樹官長は木化するという設定など細かい所まで、少しテンプレのようでありながらそうではない、雰囲気の良い設定が散りばめられています。

 昨今ではあまり見かけないオリジナリティのある設定に感心しました。



【総評まとめ】

 「世界観の設定と、そこからなる雰囲気は抜群に良い。だが、構成に難あり」と感じました。

 設定が良いのは認めます。ですが、設定だけを見せられても「面白い」とは感じません。何より、第五話の段階では全くストーリーが動いていませんでした。


 「設定が良い」その一点だけで★1とするくらい良いと感じましたが、それだけでは作品の評価はできません。



【追記】

 本作は作者さまのご要望により第六話までを読んで追記する予定なのですが……。

 風雅ありす様に提案があるのですが、追記の範囲を拡大してはいかがでしょうか?


 先ほど申し上げた通り、本作は評価が出来る所までストーリーが進んでいません。そして、あと1話で評価できるほど話が進むとは思えません。


 本作には「正しい評価をする為に続きを読む必要がある。それをするだけの可能性がある作品だ」と感じましたので提案をさせて頂きました。

 勘違いなさらないで欲しいのは、「面白いから続きを読みたい」と思ったのではないという事と、「続きを読んでも評価が上がるとは限らない」という事です。あくまで「可能性を感じた」だけです。


 追記は10/13までに行います。

 それまでに風雅ありす様よりご連絡が無ければ、予定通り第六話までの追記といたします。


 風雅ありす様よりご連絡を頂きました。

 結論として、最低でも第一章の第六話までを読ませて頂き、必要に応じて第十話までを読んで追記させて頂きます。




 第一章の第十話までを拝読しました。

 まず結論から申しますと、評価は変わらず★1です。


 その理由としては、「ストーリーの導線・設定・キャラの動機などが、上手く纏まっていない」と感じたからです。



 まずストーリーですが、「宇宙樹」の生贄となる事を承諾した主人公ですが、「聖地」からの使者が主人公を迎えに来た時、主人公は「不思議な卵」を見守る為に里から離れています。

 その際にドラゴンが里を襲いピンチになる、という展開なのですが……。


 主人公は「ドラゴンは卵を取り返しに来た」と考えて卵を返そうとするのですが、どうやら「ドラゴンと卵は無関係」のようです。

 導線が繋がっていません。



 次に設定ですが、ここは主に2点の問題が気になりました。


 まず使者のリーダーは、主人公が里にいない事を見て「逃げ出した」と考えて、樹官長に「代わりの代役」を用意するように命令します。

 その口振りからは「純真な少女」であれば誰でも良いような雰囲気に感じましたが……なぜ、主人公が生贄に選ばれたのかが不明です。

 わざわざ「空飛ぶ騎獣」で来なければならないほど遠方の里でなくても、「聖地」で生贄を選べばよいのでは? と、思わずにいられませんでした。


 また、「ユースティス」には「ドラゴンの気持ちが分かる」という能力があるようなのですが、それまでに描写や伏線がない為、あまりにも唐突に感じてしまいました。

 能力の対象も「ドラゴン限定」なのか「動物全て」なのかが分かりません。もし「ドラゴン限定」なのだとしたら、なぜ主人公が能力を知っていたのかが疑問です。「動物全て」が対象なら、ここまでに演出すべきだったと思いますね。



 そしてキャラの動機や心情に関してですが、ここが一番の問題に感じました。

 この問題は複数個所で見られ、細かい点を挙げれば幾つもありますが、最重要な点を1つだけ挙げさせて頂きます。


 それは、ここまでを読んでも未だに「主人公の心情や動機が理解できない」という事です。

 主人公は生贄になる事をあっさりと承諾してしまいますが、そこに明確な動機や心情が表現されていません。まるで「生贄=死」という事を理解していないかのようです。

 しかし、「ユースティス」や樹官長の視点の地の文で、「主人公は死ぬ事を理解している」と断言しています。


 一応、「何も出来ない自分にもできる事があった事が嬉しかった」「あたしがいなくても~」というセリフもありましたが、それでも読者としては主人公の内心が理解できません。セリフだけで、内心や心理が描写されていませんから。

 本当は「死」を理解していないのか、それとも「死」を理解していながら世界の為に生贄になる覚悟を持っているのか、全く判断がつきませんでした。


 このような状態なのですが「ユースティス」や樹官長は、主人公の事をよく知っているので「その意見を尊重する」「信じている」といった描写が挟まれます。

 残念ですが、2人は主人公の事を信じていても読者は信じられません。主人公が何を考えているのかが分かりませんから。

 むしろ「実は主人公には感情そのものが無い」と言われれば納得してしまいそうなほどです。



 と、ここまで問題点・疑問点を挙げさせて頂きましたが、相変わらず世界観は良かったと思います。キャラにも魅力が無い訳ではありません。文章も、読点が多い事を除けば読みやすい文章です。


 ですがそれ以外、「話の導線」「設定」「キャラの言動の根拠」などが上手く噛み合っていません。

 恐らく「後の伏線の為」にそうなっている部分もあるとは思うのですが、量が多すぎる為に全てが伏線だとは思えません。たぶん「上手く纏められなかった」部分も多量にあるのでは、と推測します。


 風雅ありす様は、魅力ある世界やキャラを創る想像力はあります。それを文字で表す文章力もあります。ですが、それらを纏める構成力が足りないように見受けられました。

 今後の課題は、いかに構成力を身に着けるかに限ると思いますね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る