★1 ナツキとアキナの天体観測


タイトル:ナツキとアキナの天体観測

キャッチコピー:学年一の美少女はとても名前が紛らわしい(自分限定)

作者:和泉将樹@猫部

URL:https://kakuyomu.jp/works/16817330659083965912


評価:★1


【あらすじ】

 学年でも評判の美少女、那月明菜と、天文同好会を立ち上げた星が趣味の秋名夏輝。

 些細な事件で名前も知らずに知り合った直後、二人は二年生になってクラスメイトになった。


 同じく星が好きな明菜は天文同好会に入り、さらに二人は学級委員に就任するが、そのあまりに紛らわしい名前から、お互いの呼び方をクラスの中で定義されるという事態になる。


「面白いよね、私たちの名前」


 積み重ねていく日常を経て、お互いの絆を深めていく二人。

 そして、お互いが過去に抱える問題に、それぞれ直面していくことになる――。



【拝読したストーリーの流れ】

 本作の作者である和泉将樹@猫部さまは、先日批評させて頂いた『転移直後に竜殺し』の作者でもあります。



 天文同好会の実質唯一の会員である主人公「秋名夏輝」は、春休みに学校で天体観測を行っていた。

 だが帰ろうとした時、遠くから声が聞こえてくる。声の方へと視線を向けると、そこには逃げる女性と追いかける男性の姿が映った。

 何とかしなければ、と考えた「夏輝」はスマホのスピーカーを最大にして音を鳴らす事で男を追い払う。女性の無事を確認した「夏輝」は満足感と共に帰宅したのだった。


 そして訪れた新学期。

 新たなクラスには、自分の姓と名前が逆の「那月明菜」がいたのだった……、といったお話でしょうか。



【タイトル・キャッチコピーの批評】

 タイトルは、作品内容が分かって非常に良い……と言いたい所なのですが、それが分かるのは「作品(もしくはあらすじ)を読んだ後」です。

 本作のウリである「紛らわしい名前の2人の男女」というコンセプトは、このタイトルだけでは判別できません。


 同じ方向性でタイトルを名付けるのなら『アキナナツキとナツキアキナの天体観測』とした方が「作品内容を示すという意味では」良いと思います。

 ただ、こちらは読みにくくて語呂が悪いですね。



 キャッチコピーですが、こちらはヒロインの紹介と2人の名前が紛らわしい事を告げていますが、やはりタイトルと同じく「どう紛らわしいのか」が伝わりません。


 これらの問題を解決する為、いっそキャッチコピーで2人の名前を明かすのはどうかなと愚考します。



【キャラクターの批評】

 キャラクターですが、主人公は「何か訳あり」の雰囲気はありますが基本的には「等身大の高校生」といったように感じます。

 しきりに目立つ事を避けるような言動が目立ちますが、極端に人を避けたりするような無愛想な様子はありません。その言動には不自然さは無く、比較的「良い主人公」と言えると思います。


 ただヒロインは少し残念に感じました。

 目立っておかしな言動をしたりする訳では無いんです。ただ「普通」なんです。あまりにも普通すぎて魅力が足りないと感じてしまいました。


 本作は「ラブコメ」で登録されています。

 マンガやアニメなら、そのキャラデザインでヒロインの魅力を表現する事も出来ますが、小説では文章のみで魅力を伝える必要があります。

 ただの「北欧系クォーターの、学年一の美少女」という外見的特徴だけでは、ヒロインとしての魅力が足りないと感じます。



【文章・構成の批評】

 前作に引き続き、非常に読みやすい文章です。

 また前作では「神の視点」で描かれていましたが、本作では基本的に主人公の視点による「三人称一元視点」ですので主人公にも感情移入しやすいと思います。


 ただ「ラブコメ」にしては文章が固いと感じてしまいました。

 上述したように主人公の性格はやや陰キャ寄りですので、明るい雰囲気が足りないように思います。



 構成ですが、こちらは少し「盛り上がるイベントに欠ける」といった印象でした。

 本作は1話ごとの文章量は多くはなく(約1500文字~3800文字)、話があまり進んでおりません。


 もっと話に起伏が欲しいと感じてしまいましたね。



【ストーリー・設定の批評】

 ストーリーと設定なんですが、「ラブコメ」とするには「コメディ要素」が足りないと強く感じます。

 イベントは地味ですし、ヒロインも美人という設定だけでキャラとしては個性がなく「普通」です。


 「ラブコメ」であるなら、もっと「否応なく話が進む」ような設定やキャラが必要かなと思います。

 現状では「主人公とヒロインが出会って、共に天体観測を通じて仲を深めていく」というだけの話です。しかも主人公はヒロインに対しては消極的に見えますし、ヒロインもまだ主人公に対して遠慮があるように見えます。(その反応はリアルなのですが)


 「2人が嫌がっていても共に居なければならない状況」か「どちらか一方が積極的に、もう一方はそれを嫌がっている」という形が「ラブコメ」の定番では無いでしょうか。


 第5話までを読んで、「話を動かすエンジンのパワーが不足している」と感じました。



【総評まとめ】

 総評ですが、文章力と表現力は非常に良いと思います。ですがそれらは固く、「ラブコメ」に相応しいものには感じられません。

 なにより「ヒロインの魅力が不足している」と感じたのは「ラブコメ」としては致命的です。

 ジャンルが「恋愛」だったなら、もう少し印象は変わったかも知れませんが。


 また最後になりますが本作は2部構成となっておりまして、1部では男主人公の「秋名夏輝」視点、2部では女主人公(ヒロイン)の「那月明菜」視点で、同じ時間軸をそれぞれの視点で描く「視差小説」となっております。

 ヒロイン視点で読んでみると感じ方も変わるかも知れませんね。



【追記】

 本作は作者さまのご要望により、第14話(「秋名夏輝」視点終了)まで追記いたします。



 まずは作者の和泉将樹@猫部さまよりコメントを頂きまして、本作のジャンルについてのお言葉を頂きました事をお伝えします。

 本作が「ラブコメ」なのは「『男主人公だったからラブコメ』というカクヨムのレギュレーションに従ったから」と言われまして、ヘルプを確認したところ、


ラブコメ:主として男性が主人公の恋愛を中心テーマとして描かれた作品が対象のジャンルです。

恋愛  :主として女性が主人公、または同性間の恋愛を中心テーマとして描かれた作品が対象のジャンルです。


 と書かれてありました。

 正直、この区分の仕方はどうなのかと疑問に思いますね。私は初めて知りましたが、皆さんはご存知でしたか? 読者の方は、どれほどがこれを知っているのでしょう?


 ともかく、本作が「ラブコメ」であるのはこの様な理由からなので、以後の【追記】に関しては「恋愛」であるという見方から批評をします。



 それで本作の第6話以降の内容なのですが、正直「盛り上がりに欠ける」と感じてしまいました。


 特に大きなドラマやイベントが無く、ただデートを重ねて2人が仲を深めていくという話に見えてしまいました。

 一応、主人公の過去や、ヒロインの元カレといったイベントはあるのですが、どちらも「物語として見ると大した事では無い」という印象でした。


 あとはキャラなのですが、少し「セリフが台本のようだ」と感じてしまいました。

 主人公と元カレが対峙するところなどが顕著なのですが、「どこかで聞いたようなセリフの応酬」に少し興ざめをしてしまいました。

 これは他のキャラにも当てはまっており、総じて「キャラに意思が入り切っていない」ように感じてしまいます。


 次に構成として、主人公とヒロインは少しずつ仲を深めていくのですが、第10話辺りで既に「読者の目からは明らかな両想い」となっており、第11話では「殆ど告白を終えている状態」とまでなっています。

 ここからまだ3話が続くわけですが……。物語としてはクライマックスが終わっている状態なんですよね。(元カレとの対峙は第13話でも行われますが、クライマックスと呼ぶには……)


 まとめますが、「文章は良いが、特徴の無い恋愛もの」といった感じでしょうか。

 文章が良い事は既に述べましたが、キャラには「これ」といった魅力は感じられず、ストーリーにも起伏がありません。

 ただ「くっつきそうで中々くっつかないイチャラブもの」が読みたいなら、中々良い作品だとは思います。

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