★2 転移直後に竜殺し


タイトル:転移直後に竜殺し

キャッチコピー:突然竜に襲われて始まる異世界。持ち物は日本刀一本のみ

作者:和泉将樹@猫部

URL:https://kakuyomu.jp/works/16817330660905115993


評価:★2


【あらすじ】

事故で死んだと思った神坂昴(コウ)は、次に目を開けた瞬間、目の前に自動車大の何かが迫っているのを見る。

かろうじて避けると、それはなんと竜の頭。

そしてその竜は、容赦なくコウに襲い掛かる。

コウは、満身創痍になりつつも奇跡的に竜の急所を突いたのか、竜を打倒することに成功する。

しかし致命傷を負い、そのまま死ぬかと思われたが――。


生き延びた彼はその後多くの人々と出会い、助けたり助けられたりしつつ、その世界を旅していく。

普通の日本人らしからぬところがあるコウの、異世界での旅が始まる――。



【拝読したストーリーの流れ】

 冬のような寒さの残る三月上旬。

 主人公「神坂昴(コウ)」はバイクの事故に遭い、海へと転落してしまった。


 死を覚悟したが、目が覚めると目の前には巨大な竜。

 「コウ」を侵入者だと判断した竜は問答無用で襲い掛かり、再び「コウ」は死を覚悟する災難に遭う。

 不屈の闘志と、度重なる偶然、異世界へと持ち込んだ日本刀が奇跡的な結果をもたらし、竜を討ち果たす。


 異世界でただ1人、あてもなく彷徨う「コウ」の運命は……、といったもの語りでしょうか。



【タイトル・キャッチコピーの批評】

 タイトルは非常にシンプルですね。内容も、序盤の展開そのままで分かりやすくて良いと思います。

 ただ、あまりにも速くタイトル回収をしてしまうので(第2話)、その後は「あまり意味を為さないタイトル」のように感じてしまいました。



 キャッチコピーはストーリーの補強ですね。

 タイトルと合わせる事で、やはり序盤の流れが非常に分かりやすいですね。

 こちらの問題もタイトルと同様に思います。



 「問題」とは言いましたが、タイトルとコピーの主な役割は「読者のキャッチ」なのだと思います。

 私が挙げた問題は「読んだ後に感じる」もので、その時点で「キャッチ」という役目は終わっているので、「問題ではない」と言えばその通りです。

 ただ私の個人的な好みとしては、もう少し深みのあるタイトルの方が良いなとは思いました。



【キャラクターの批評】

 キャラクターですが、第5話までの時点ではレギュラーキャラと呼べるのは主人公だけでした。ですが他のサブキャラたちも造形がしっかり描かれ、特に村の女の子は「ヒロインか?」と思う程でした。


 ただ本作は、設定の説明や状況描写などに重きを置いており、心理描写が乏しく「共感」という意味では難しく思いました。

 共感を難しくさせていたのには、主人公の造形にも原因があります。


 主人公は日本人の18歳という設定なのですが、あまりにも常人離れした身体能力と精神性を持っています。

 バイク事故の際は真っ先に飛び降りる事を選択しようとしますし、竜に殺されそうになった時は死ぬ覚悟を決めながら一矢を報いようとします。更には盗賊たちを一切の躊躇もなく斬り殺してしまいます。

 これらをパニックになる事も無く、最初から冷静に、冷徹に行っています。


 身体能力はともかく、その精神性は日本人離れしており、その背景を表すバックボーンはほとんど語られていません。(一応、過去に何かあったかのような「匂わせ」はあります)



【文章・構成の批評】

 文章は、非常に分かりやすくて読みやすかったですね。

 ただ少し珍しい書かれ方をされていまして、完全に三人称というか「神の視点」なんです。これが先ほど申し上げた「心理描写が乏しい」原因でもあると思います。

 極端に客観視した視点ですので「キャラへの共感性」が低く、物語への没入感が足りなく感じてしまいました。


 ですが良い部分もあり、それが設定や背景・状況の描写が非常に細かく描かれ、更に「主人公が知らない情報を読者に与える事が出来る」という点ですね。

 この為、1話限りの盗賊の背景情報も無理なく読者に伝える事が出来ていたように思います。


 ここは良し悪しですね。

 他の問題点は「少し読点が多い」事くらいでしょうか。



 構成ですがテンポも良く、基本的には良いと思います。第1話~第5話までの流れに問題は感じませんし、各話の終わりもヒキが意識されています。


 ただ「今すぐには必要の無い情報の小出し」が目立つように感じました。具体的に言うなら「第3話の最後に出てきた謎の集団」と「主人公の過去」ですね。

 勝手ながら応援コメントを拝見しましたが、そちらに書かれた作者さまの返信によると「どちらもしばらくは出てこない」そうです。


 たぶん読者は何話も何十話も前の事はほとんど覚えていませんし、それが気になる読者は離脱する可能性も高いのではと感じます。

 今すぐに出てこない話なら、出さなくても良いのではと考えてしまいました。



【ストーリー・設定の批評】

 ストーリーですが、「ダークな雰囲気の異世界転移もの」ですね。(タグにダークファンタジーはありませんが)

 非常にリアルな雰囲気の世界を主人公が旅するというお話だと思うのですが、第5話までの時点では「作品と主人公の目的」が見えません。


 主人公は事故に遭って異世界転移しましたが、「地球に帰りたい」などは特に思ってはいないように見えます。ただ「降りかかる火の粉は払う」といった感じでしょうか?


 そのように主人公の姿勢が受け身なので、作品の方向性も見えませんでした。

 先程も申し上げた通り、リアルでダークな雰囲気なので「無双もの」では無いと思います。(盗賊7人を真正面から無双していましたが)

 しかし「異世界サバイバル」といった感じでもありませんし、「戦記物」とするにはまだ片鱗も見えていません。(作品の今後を暗示するようなタグはありませんでした)


 作品の方向性が見えるまでは、「面白い」と断言は出来ませんね。



 設定ですが、異世界は非常に良く作り込まれています。そしてそれらを事細かに描写されています。

 ともすればストーリーには関係の無い「お米」の設定なども、異世界らしくオリジナルの設定として描かれています。


 ただ逆に、「異世界の設定が良く出来ている」為に「主人公の設定」に違和感を感じます。

 先程も申し上げましたが主人公の精神性は日本人離れ……というか、人間離れしているとすら思えます。「異世界はリアルに創られている」のに「主人公にリアリティを感じない」のです。

 致命的とは思いませんが、私には引っ掛かりを覚えました。


 違和感と言えば、大した事では無いのですが第1話の「バイク事故」ですね。

 「ブレーキが壊れたから飛び降りよう」というのは、主人公の精神性は置いておいても違和感があります。

 ブレーキは前輪と後輪の2つがありますし、ギアを下げればエンジンブレーキもかかります。全てが同時に壊れたという描写はありませんでした。


 こちらも応援コメントにツッコミがありましたが、バイクに乗った事のある読者からは「いくら何でも無理がある」としか思えない事故でしたね。

 もう少し自然にしても良いのでは、と思います。



【総評まとめ】

 総評しますが「非常に設定の描写が細かいダークファンタジー。だが主人公に共感が持てず、ミスマッチに感じる」ですね。


 よく言ってますが、私は「物語において最も重要なのはキャラクター」だと考えています。本作の主人公はクールでカッコいいとは思うのですが、共感は持てませんでした。

 主人公の造形や設定をそのまま活かすなら、より読者の目線に近い「語り部」的なキャラを配置した方が良かったのではと愚考します。


 なお、こちらの作品ですが2024/8/7現在で、★3000以上、PV数270万という数字を叩き出しています。

 私は第5話までの批評として★3は付けませんでしたが、読者の評価が非常に高いので今後の展開にも期待が持てますね。



【追記】

 本作は作者さまのご要望により、第一章終了まで追記いたします。



 まず第6話で、主人公に対する認識が変わりました。

 主人公は「ものを考えはするが、思慮の浅いバカ」です。


 新たな町に到着した主人公は、ナイフを持つ3人の男に追われている少女と出会い、彼女を助けます。これだけなら「よくある展開」ですね。

 ですがその際、主人公は迷う事無く男たちを悪人と決めつけ、「殺してしまうと面倒になるかも知れない」と考え、男たちのナイフを指ごと日本刀で斬り落とします。


 問題なのは主人公の浅はかな行動ではありません。

 私が問題に感じるのは「主人公は基本的にクールなキャラ」として描かれ、作風もまた「リアルな描写である」という事です。

 「基本はクールな二枚目だが、肝心な所でバカを晒すキャラ」と「基本はバカな三枚目だが、肝心な場面ではカッコイイキャラ」のどちらが魅力的かは説明しなくても分かりますよね?

 世界観や作風も元々が緩ければ「そういう作品だ」と納得もできますが、本作はそうではありません。


 その後は少女が公爵家の跡取りであり、害をなそうとしていた追手を撃退するのですが、「落とし穴にはまった相手を油で火を着け、そのすぐ後に埋める」という行為はよく分かりませんでしたね。

 這い上がれないほどの深さの穴に埋められてしまえば、そのまま生き埋めだと思うのですが「火を着けた」正当な理由が語られていません。代わりに「油が高価だ」と書かれてあり、なおさら火を着けた理由が不自然に感じます。

 応援コメントでは「火葬が目的だった」とありましたが、本編では語られていませんし、そもそも「生きた相手に火を着けるのは火葬とは呼ばない」と思いますね。


 他にも「整合性が無い」「考えが足りない」と思われる部分も幾つかあり、総じて「話が進むごとに株が下がる主人公」といった印象でした。


 そして公爵家の後継問題を解決して第1章の終了となるのですが……、主に活躍していたのは主人公ではなく、少女の侍女の法術(本作での魔法)でしたね。

 主人公のアイディアで侍女の「土を操る法術」で敵を罠に掛ける、という流れなのですが、そのアイディアというものは大したものではなく、むしろそれを実現できる「侍女の法術がスゴイ」という感想でした。

 主人公のアイディアも詰めれば大量に穴がありそうな戦略であり、「上手く行ったのは主人公補正」という感は拭えませんでした。


 話自体は丁寧に進んでいくのですが、その流れは「よくあるテンプレ」であり、主人公の活躍も薄く、少女や侍女(ヒロインたち?)も決して主張は強くありません。

 正直に申し上げると、残念ながら「読み進めるほどに作品の評価が下がっていってしまった」という感想でした。

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