★1 最強の魔法使いは堕落の道を歩きたい


タイトル:最強の魔法使いは堕落の道を歩きたい

キャッチコピー:堕落の道とは誰にも頼らず、荒野を進む孤独な道である

作者:柿うさ

URL:https://kakuyomu.jp/works/16818093074450674435


評価:★1


【あらすじ】

エデンガルド帝国魔法学院非常勤講師、オルレア・ツァラトゥストラはその能力・知識こそ特級たるものだったが、遅刻、早退→自習の常習犯。その上、既存の道徳や常識を一切顧みず、授業を放棄したりと、生徒も呆れるロクでなしだった。


彼のそんな態度は、当然ながら多くの生徒教員から反発を買う。しかし、彼の言動は一見不道徳・不倫理であるが、その本質は『古く都合よく捏造された道徳規範、権力者が作り上げた民衆先導の為の虚構から抜け出し、現実に目覚め、自分を取り戻せ』という倫理観に基づいていた。

つまり、既存の道徳規範や社会からの期待を逸脱することは、社会的には『堕落』とされていても、それらは人間性や本質的には自己の獲得であり、自己の獲得なしに倫理は生まれず、倫理なき社会に未来などないという哲学と社会への批判がその背後に存在しているのだった。


「であれば、皮肉を込めてあえてこう言うおう! 人間よ、もっと堕落せよ!」



【拝読したストーリーの流れ】

 ある日、主人公「オルレア」は自身が身を寄せている屋敷の主「フローゼ」から提案を受けた。内容は「魔法学院の非常勤講師をやってみないか」という事だ。

 というのも「オルレア」は「フローゼ」の家に転がり込んで3年も、全く働かずに食っちゃ寝してきたからだ。


 まるで哲学者のような物言いで自分の怠惰を正当化する「オルレア」を何とか言いくるめ、仕事に就かせる事に成功した「フローゼ」。

 だが、「オルレア」が真面目に働くわけもなく……、と言ったお話でしょうか。



【タイトル・キャッチコピーの批評】

 タイトルは、非常によく作品内容を表していると思います。

 「最強の魔法使い」という言葉から「チート無双もの」である事が容易に想像つきますし、「堕落の道を歩きたい」という言葉も本作の主人公をよく表していると思います。



 次にキャッチコピーに移りますが、こちらも作中の主人公をよく表していますね。

 【拝読したストーリーの流れ】で書いたように、主人公はこのような哲学者のような物言いを好みます。それが文面から滲み出ていますね。



 ただタイトルとコピーの両方とも、問題点があるように思います。

 まずは読者をキャッチするような強いワードが無いという事です。

 作品内容をよく表しているとは思いますが、それだけでは読者をキャッチするのは難しいのではと思いますね。


 そしてもう1つ問題があるのですが、こちらは【ストーリー・設定の批評】で説明させて頂きます。



【キャラクターの批評】

 どのキャラクターもキャラが立っていて良いと思います。

 ですが、主人公のキャラは好き嫌いが激しく分かれますね。


 主人公は怠惰で、傲慢で、それを哲学的な言い回しで正当化します。更には自身が論点のすり替えを行いながら、他者のそれを指摘するダブルスタンダードな側面もあります。

 私個人の感想とするなら「賢いフリをしたバカ」です。

 多くの読者はこの主人公を見て不快に感じるのでは、と思います。


 ただ、主人公を取り巻く他の人物は常識的なものの考え方をしているので、多くの読者は彼らに感情移入して読む事になるのでは、と考えます。


 私の個人的な感想ですが、第1話で「フローゼ」が主人公を言いくるめた話は面白かったですね。

 逆に主人公が女子生徒を言い負かした第3話は、読むのが苦痛に感じるほど不快になりました。ほとんど、イジメの現場を見た気分でしたね。



【文章・構成の批評】

 文章は普通にレベルが高いですね。

 「いつ」「誰が」「どこにいて」「何をしているのか」読んでいてこれらに迷う事はありませんでした。


 ただ問題点もありまして、それは「とにかく描写が多すぎる」という事です。

 人物描写、背景描写、舞台描写が多すぎます。体感では第5話までの全文の1/3以上に感じました。


 もちろんこれらの描写が世界観や人物像、その場の雰囲気などを伝えてくれるのですが、いくら何でも多すぎると感じましたね。

 そのおかげで、非常にテンポが悪く感じます。


 あとは誤字脱字などが少しある事と、読点が少し多い事くらいですかね。



 続いて構成に移りますが、上記の「描写が多い」問題もあってかテンポが悪く、もっと話を圧縮できるのでは、と思いました。


 第2話では、ほぼ初出勤した事しか描かれていませんし、第4話では話の半分が、主人公がのんびり紅茶とパンを楽しんでいるだけです。第5話は、第3話~第4話前半でやった事の繰り返しのように感じてしまいました。


 描写と同じく、展開も丁寧なのだと思います。

 ですがあまりにも遅いストーリー進行は、それだけで読者を失う原因にもなり得ると思ってしまいますね。



【ストーリー・設定の批評】

 通常はストーリーを先に書くのですが、本作は設定を先に書かせて頂きます。


 設定は作り込まれている雰囲気でとても良いと思います。

 世界や魔法などの説明も十分にされて、主人公の過去を匂わせるような一文もあり、背景設定がしっかり作り込まれている事が感じ取れます。



 そしてストーリーですが、本作は「何かしらの問題を抱える主人公が教師となる学園もの」ですね。そしてこれらのジャンルでは「実は主人公は優秀」というのも定番です。

 そういった意味では非常に分かりやすい作品だと言えると思います。


 ただし、ここで【タイトル・キャッチコピーの批評】で申し上げた問題点を挙げたいと思います。

 それは「タイトルとコピーを見てしまうと、主人公の成長・改心が期待できない」という事です。


 【キャラクターの批評】で申し上げた通り、本作の主人公は非常に身勝手な性格をしております。そのキャラクター性は、多くの読者を不快にすると思います。

 ですがまだ第5話ですし、今後の物語で主人公が成長していく展開の期待が持てるなら……、とも思うのですが、タイトルとコピーが「それは無い」と示しております。


 恐らく、主人公は今後も変わる事は無いのだと思います。

 そして恐らく変わるのは周囲の人間たちの、主人公への評価の方なのだと思います。


 この事を察した時、私は「この先を読む事は無いだろう」と思いました。



【総評まとめ】

 私には本作の「着地点」が見えませんでした。

 今後の展開の想像ですが、実力を示した主人公が生徒や他の教員から認められていく、といった流れになるのではと推測します。(間違っていたならゴメンナサイ)


 ですがそれでは「面白くはない」と思います。少なくとも私はそう感じます。なぜなら、主人公に問題があるのは「能力ではなく思想だから」です。

 悪人は弱ければザコ、強ければボス。その程度の違いしか無いように「イジメっ子は優秀だろうと無能だろうとイジメっ子」です。

 「性格最悪の主人公が、その優秀さで周囲に認められていく物語」、皆さんは読みたいですか?


 作者の柿うさ様は、本作の「今後の展開」と「着地点」をどのように考えていらっしゃるのか? そして本作の魅力は何なのか?

 差支えが無ければお聞きしたいものです。

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