★2 容姿だけが取り柄の女子高生・三船巴と世界滅亡の願いごと


タイトル:容姿だけが取り柄の女子高生・三船巴と世界滅亡の願いごと

キャッチコピー:少年は少女の微笑みを見た。世界が滅ぶ、直前に——

作者:千日越エル

URL:https://kakuyomu.jp/works/16818023213821758581


評価:★2


【あらすじ】

世界を滅ぼしたいと望む高校生の少年は、何でも願いを叶える鏡を拾う。

一方、容姿だけが取り柄の高校生の少女は、ある悩みを抱えていた——。



【拝読したストーリーの流れ】

 本作は2つの視点からなる、「視差小説」と呼ばれるジャンルに近いものと思われます。(視差小説とは「1つの出来事を複数の視点から描いた小説」の事です)



 「小野救世」という名の少年は他人を、自分を、世界を憎んでいた。

 殴られ、金銭を奪われ、汚水を飲まされ、笑われ、蔑まされ……。

 誰も「救世」を助ける者はいない。あるのは暴力と、罵倒と、嘲笑だけだ。

 人を殺したかった。自分を殺したかった。世界を、滅ぼしたかった――。


 そんな「救世」の前に「鏡」が落ちていた。

 それは「何でも願いを叶える鏡」――。


 「救世」は即答した。

 「世界を滅ぼしてほしい」と——。



 世界が滅ぶ2週間前。「三船巴」という名の少女は悩んでいた。

 自分の優れた容姿に惹かれて、何度も告白されるという事に。

 人に好かれて悪い気はしないが、その度に断り続けるのも心労が溜まる。


 思い切って友人に相談したが、その答えは「彼氏を作れば告白されない」というものだった。


 その1週間後、中学時代の部活の後輩が尋ねてきて「巴」は告白される。

 後輩と付き合うべきか、悩む「巴」の決断は――。



 7日後に世界が滅ぶ事を、まだ誰も知らない。……といったお話でしょうか。



【タイトル・キャッチコピーの批評】

 本作のタイトルですが、作者の千日越エルさまは試行錯誤を繰り返しており、本批評の依頼時から2度の変更がありました。

『ああっ鏡さまっ』

『世界滅亡の前後に高校生たちが叶えた願いは何だったのか?』

『容姿だけが取り柄の女子高生・三船巴と世界滅亡の願いごと』

 と、この様に変遷しております。


 まず『ああっ鏡さまっ』は少し問題がありますね。

 私と同じ感想を持たれた方も多いと思いますが『ああっ女〇さまっ』のパロディにしか見えませんよね。


 そして、他の2つですが……。正直、どちらもパッとしない印象ですね。

 どちらもストーリー・設定・作風などが伝わりにくいと思います。というか、本作は2つの視点で全く作風が違いますので、それをタイトルだけで伝えるのは難しいですね。


 一応、興味を惹きそうなワードとして「世界滅亡」という単語がありますが、全文を見た感じでは両方とも本作の内容とは齟齬を抱きかねないと思います。

 2つ目のタイトルでは「世界滅亡に立ち向かう高校生たちの物語」のようにも見えますし、現在設定されているタイトルではまるで「『巴』が世界滅亡を願った」ようにも見えてしまいます。


 本作にweb小説向きのタイトルをつけるのは難しいですね……。

 ムリヤリ作品内容を表現するなら『世界滅亡2週間前の日常』とかですかね?

 自分で書いておきながら、あまり良いタイトルだとは思えませんが……。



 申し訳ありませんが、キャッチコピーに移ります。

 こちらも1度、変更がされていますので両方を比較します。

『告白されなくなる方法ってなんかないかなあ?』

『少年は少女の微笑みを見た。世界が滅ぶ、直前に——』


 まず変更前ですが、こちらには大きな問題を感じます。

 それは「第1話の冒頭では主に『救世』が描かれており、このコピーは完全に『巴』の事しか書かれていない」という事です。

 【拝読したストーリーの流れ】を読んで頂けたなら理解して頂けるとは思いますが、「救世」のパートは非常に暗い内容です。変更前のコピーに惹かれて読み始めた

読者は間違いなく「思ってた話と違う」と感じる事でしょう。

 そうなれば、「巴」のパートまで読んでくれない読者もいると思います。


 そして変更後ですが……。こちらもタイトルと同様にパッとしないと感じてしまいました。

 やはり作品内容が予想しにくく、興味を惹くようなワードが「世界が滅ぶ」くらいしか無いんですよね。

 変更前よりは良いと思いますが、「キャッチ」の効果はあまり無いと思いますね。



 本作は、短い文章で内容を説明するのが非常に困難な作品だと思います。

 いっそ、詐欺や齟齬が無い程度にパワーワードを詰め込みまくったタイトル・コピーの方が良いのかも知れませんね。



【キャラクターの批評】

 キャラクターですが、素晴らしいですね。

 特に「救世」はほとんど地の文で語られているのですが、その内面描写には目を見張る者があります。

 独白のような語りで描かれており、具体的なイジメの内容は少ないのですが、世界の全てを憎み、恨んでいる事や、それとは矛盾した気持ち……、絶望の日々などが、これでもかというくらい語られます。

 世界の滅亡を望んでしまうのにも納得してしまいますね。


 対して「巴」は「顔が良いだけ」という設定の「良い子ちゃん」です。

 「救世」とは違い「気の無い相手からの告白に悩む」という、日常に生きる普通の女子高生です。(月に3~4回も告白されるのは普通ではないかも?)

 こちらも非常に丁寧にその心理が描写されていますが、「救世」のパートを見た後に「巴」を見ると、その呑気な悩みに不快感を感じる読者もいるかも知れませんね。


 ただ「2人の対比」が見所の作品だと思いますので、そこもまた本作の魅力であると思います。

(今後は更に視点が増えるかも知れませんね。タグには「群像劇」とありましたので)



【文章・構成の批評】

 文章は非常にレベルが高いですね。

 先程も申し上げましたが、特に人物の内面描写は素晴らしいものがあります。

 ただ、問題点が無い訳でもありません。


 まず「空行が入るまで改行を殆ど行っていない点」と、「セリフの間に空行が無い点」は気になりました。

 特にセリフの方に関しては、「巴」のパートではセリフが連続するシーンが多発しますので少し読みにくく感じました。


 また、地の文は基本的に三人称で書かれているのですが、頻繁に一人称というか「心の声」のような文章が混ざっていました。

 ここは三人称的な表現に変えるか、( )で表現した方が違和感なく読めると思います。



 構成に関してなのですが、第1話だけが文字数が少し多く、バランスが悪いと感じました。

 分かりやすく並べてみましょうか。各話にどちらのパートが書かれているかも合わせて記載します。

第1話  (5921文字) 「救世」「巴」

第2話  (2830文字) 「巴」

第3話   (523文字) 「救世」

第4話  (1797文字) 「巴」

第5話  (2140文字) 「巴」


 第1話が極端に多いですね。その理由は見ての通り2つのパートをまとめたからだと思います。(特に第1話は説明文もありますしね)

 これはパートを2つに分けた方が良いのではと思います。……が、1つにまとめた理由も察してしまうんですよね。


 本作はパートごとに全くテイストの違う作品となっていますので、エピソードを跨いだ時にパートが変わると大きな戸惑いを感じてしまうんですよね。

 だから序盤ではその戸惑いを少しでも軽減させようと、第1話は同じエピソードにまとめたのだと思われます。


 提案としては最初に「鏡」の説明があるのですが、そこを別のエピソードに分けて「プロローグ」とするのが思いつきます。

 これが最善とは思いませんが、一考の余地はあるでしょうか?


 また第3話が極端に短いのは、「救世」の心情を表しただけのエピソードだからです。

 ストーリー進行には必要の無いエピソードとも言えますが、本作にとって重要なキャラである「救世」を読者に忘れられない為には必要なエピソードとも言えます。


 作品全体の文字数バランスを損なっていますが……。正直、難しいですね。

 本作においては、私もどうするのが良いのかハッキリと申し上げられません。


 そして文字数以外に、本作最大の非常に大きな問題点と感じた部分があったのですが、これは次の【ストーリー・設定の批評】で書かせて頂きます。



【ストーリー・設定の批評】

 その非常に大きな問題点なのですが、まず「これは個人的な感想」である事を最初にお断りさせて頂きます。

 それは「『救世』のエピソードが気になり過ぎて、『巴』のエピソードがどうでも良いと感じてしまう」という事です。


 凄惨なイジメを受けて、世界を呪い、何でも願いが叶う鏡に世界の滅亡を願った。という話の衝撃が大きすぎます。

 世界は、人類は、「救世」はどうなるの? と、気になって仕方がありません。


 対して「モテすぎて困っちゃう」なんて、どうでも良いんですよね。

 人によっては、マウントを取られているようで不快にすら感じるかも知れません。

 ですが文字数の件を見れば分かると思いますが、本作のメインは「巴」が描かれているんですよね。少なくとも第5話まではそうです。


 「救世」の話を読みたいのに、描かれるのは「巴」ばかり……。

 話の構成としては理解できますが、「読みたいものとは違う話を読まされている」と感じてしまいました。


 ただ最初にお断りしたように個人的な感想なので、「巴」の話を読みたいと思われる読者もいると思います。

 そういった方は、むしろ「救世」の話は読みたくないかも知れません。

 これは「全く違う話を1つの作品に入れた弊害」だと思いますね。



 設定は素晴らしいですね。

 単純で解りやすく、それでいて物語の結末が気になります。

 第5話までは2人の主人公に接点はありませんが、きっと話が進めば2人が交錯するのではないかと思います。

 そこで、どのような展開が待っているのかも気になりますね。


 また、本作のタグには「Notバッドエンド」とありました。

 「世界が滅ぶ」と作中で明言されているのに、どうバッドエンドを回避するのかも気になりますね。



【総評まとめ】

 作者である千日越エルさまは高い力量をお持ちだと感じました。話も非常に面白そうで、興味が惹かれます。

 ただ、「選んだ題材が難しすぎる作品」ですね。


 作品を表す言葉選びの難しさから、タイトルやコピーの決定が困難です。

 2人の主人公を見せる必要がある事から、文字数バランスが崩れてしまいます。

 そして「救世」の話が気になり過ぎて、「巴」の恋愛話が面白く感じません。


 色々と「欠陥」とも言えるような問題を抱えているようにも感じる本作ですが、すでに全82話で完結しております。

 更新を待つ必要がありませんので、気になった方は一度読んでみてはいかがでしょうか?

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