★1 アンドロイドな君の瞳と、機械仕掛けの短針


タイトル:アンドロイドな君の瞳と、機械仕掛けの短針

キャッチコピー:大切な人との思い出を引き裂く、それが汚れ仕事と呼ばれる僕たちの役目。

作者:しのふ

URL:https://kakuyomu.jp/works/16818093075819110990


評価:★1


【あらすじ】

 エンティアは家族として、恋人として、友人や仕事仲間として受け入れられていたが、エンティアの寿命は5年しかなく、それを過ぎれば暴走して暴徒化する。それを防ぐために僕たち、回収課が存在する。なくてはならない存在にも関わらず、あまりの過酷さと憎まれやすい立ち位置の仕事になるため、裏では汚れ仕事と煙たがられていた。


 そんな本作の主人公 葵は回収課に対して消極的だったが、様々な境遇を持つ契約者やエンティアと出逢い、パートナーである水月との日々でこの仕事に対してやりがいを感じ、彼女との生活は次第に葵にとっての生きがいになりつつあった。


 だが、ある事件がきっかけで葵は自身がアンドロイドであるエンティアだということに気づく。自身が何者なのか、なぜ生まれたのか、そしてなぜ人間として生活を今までしてきたのか。


 エンティアの寿命はたった5年、葵に残された時間は1年足らずしかなく様々な葛藤と挫折を繰り返す彼は、水月との過去の関係と自分の正体がわかるにつれて、葵の人生は大きく変わり始める。



【拝読したストーリーの流れ】

 本作は「現代ファンタジー」のジャンルで登録されていましたが拝読したところ、私は本作は「SF」だと思います。

 しかし、明確なジャンル区分というものは難しいとは思いますので普通に批評させて頂きます。(『ドラ○もん』なんかは「SF」ですが、「人間ドラマ」なんかもあり、劇場版などでは「異世界ファンタジー」にもなりますしね)



 舞台は東京。「エンティア」という名のアンドロイドが、世界中に生活に浸透した時代――。

 22歳の主人公「葵」は、「エンティア」を製造している会社「エンティ」の新入社員として初出勤をしていた。


 しかし「エンティ」本社に着いた「葵」は、本社勤務ではなく子会社の「テックレント」に出向するという事実を知る。

 ショックを受ける「葵」だったが、テックレントの社員の「水月」と共に会社へと向かう。


 「葵」の着任したテックレントの業務は「5年の活動期間を迎えたエンティアを回収する」というものだった……、といったお話でしょうか。



【タイトル・キャッチコピーの批評】

 タイトルですが、雰囲気だけは良いと思います。なんだか切なそうな、そんな印象を受けますね。

 作品の主題となっている「アンドロイド」という単語が入っているのも良いと思います。


 ただ、「それだけ」に感じてしまいました。

 タイトル単体で観た場合、強く興味を惹くようなワードは無いですね。



 次はキャッチコピーですが、こちらは良いですね。

 主人公が「大切な人との思い出を引き裂く」とは、「一体どんな話なんだろう?」という興味を惹かれます。



 タイトルだけでは弱いと感じましたが、コピーが上手く補完しているように思います。

 こうなると、雰囲気に特化したようなタイトルも良いタイトルに思えてきますね。



【キャラクターの批評】

 キャラはみんな個性があって良いと思います。

 特に主人公ですが、新社会人として描く事で読者に世界観などを自然に説明できていたのは良かったですね。

 ただ、いくつか気になる所もありました。


 まずは「登場人物の名前が苗字しか出てこない」事ですね。

 主人公の「葵」とヒロインの「水月」は名前か苗字かは分かりませんが、他のキャラは恐らく全員、苗字だけです。

 舞台が日本の東京という事なので主要キャラ、せめて主人公とヒロインくらいはフルネームを出しても良かったのではないでしょうか?


 次に、「名有りのキャラが多すぎる」事です。

 主人公・ヒロインに、会社の人物が5人、回収先の人間が2人とアンドロイドが2人。合計で11人も居ます。(たぶん間違ってないと思います)

 先程も言った通りキャラには個性があって区別はつきやすいのですが、それでも5話まででこの人数は少し多いなと感じました。


 そして「第1話で出てきた『殉職』という言葉」に対する違和感ですね。

 本社社員との会話で出てきた「殉職」という言葉は、かなり唐突に感じました。

 いきなり「出向先は殉職率が高い」と言われれば、当然戸惑ってしまいます。なのに、主人公はあんまり驚いているように見えません。


 読者としては「殉職するような職場なのっ⁉」という感想だと思うのですが、主人公は「本社勤務だと思ったら出向だった」事の方が優先されている様に見えました。

 現に、その後は「殉職」については深く語られておらず、主人公もそのまま出向先へと向かい、着任します。


 「普通の感覚なら」逃げますよね?

 主人公は【あらすじ】で書かれている様に「実はアンドロイド」のようなので、普通ではないのかも知れませんが。



【文章・構成の批評】

 文章は一人称で語られ、基本的に読み易いですね。

 ただ、けっこう無視できない量の誤字があります。これは探し出して修正した方が良いでしょう。


 あとは、読点が欲しいと感じる箇所もいくつかありましたね。

 平仮名や漢字が連続する場所などは読点で区切ると見やすくなると思います。



 構成についてですが、こちらは特に大きな問題は感じませんでしたね。

 少し展開はゆっくりですが作風の範囲内だと思いますし、各エピソードの終わりは次話に繋がるヒキが出来ていたりキレイに纏めていたりで、ソツがないと感じました。 



【ストーリー・設定の批評】

 こちらはストーリー・設定を纏めて批評させて頂きます。


 一昔前の「SF」でよくあった設定ですね。

 アンドロイドが浸透した世の中で、暴走するアンドロイドを鎮圧する話などは何作か読んだ覚えがあります。(ター○ネーターなんかも、そうですかね)

 少し古いですが、基本は王道とも言えますし良いと思います。


 ただ、細部の設定には少し「無理」を感じましたね。

 本作のアンドロイドは「5年の回収期限を過ぎると暴走し、人に危害を加える」という設定です。作中の6年前に「期限を1ヵ月過ぎたアンドロイドがテロ(アンドロイドがテロは不自然とは思いますが)を起こし、6人が死亡した」という事件があります。

 ですが【あらすじ】にある通り、作中のアンドロイドは「家族として、恋人として、友人や仕事仲間として受け入れられていた」とあります。


 まぁ、無理筋ですよね。こんな危険な物が「社会に受け入れられる筈がありません」。

 「一部で運用されていた」か「改良を重ね、安全面は保障された」、もしくは「危険性は極秘に隠蔽された」なら理解は出来ますが、作中でのアンドロイド対策は「5年の期限が迫ると、民間委託業者が回収する」といったものです。

 誰が納得するというのでしょうか? 少なくとも私には無理です。


 次に、【あらすじ】で「主人公が実はアンドロイドだった」というのを明言するのは良くないと感じました。

 第1話冒頭で十分に予想の出来る演出がなされていますが、明言してしまう事で「ワクワク感」が無くなってしまいます。

 あえてネタバレをするメリットは無いように思いました。


 後は細かい指摘となりますが、アンドロイドの名称が「エンティア」、アンドロイドを作った会社名が「エンティ」、鎮圧用のスタンガンの名称が「アンティア」。

 紛らわしいですね。もう少し分かりやすい変化を付けた方が良いでしょう。



【総評まとめ】

 全体的に悪くはないと思ったのですが、「色々と惜しい作品」ですね。

 キャラは個性があるのですが、人数が多すぎるせいか1人1人の魅力を伝えきれていない様に感じました。

 文章も構成も及第点だと思いますが、特筆するほど優れているとも感じませんでした。


 そして何より、「設定の無理」が大きいですね。

 コメディ作品なら気にもならないのですが、本作はシリアスな作品です。

 キャラや文章などに飛び抜けた魅力があれば目を瞑れるのですが、残念ながらそれもありません。


 シリアスで、他に大きな武器を持っていない作品の場合、設定などの矛盾は無視できませんね。それは作り込まれていれば作り込まれている程、そう感じます。

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