★0 この音が君に届く頃に。


タイトル:この音が君に届く頃に。

キャッチコピー:私の宝物のトロンボーンの音が、君に届く頃に。

作者:こよい はるか=^_^=猫部

URL:https://kakuyomu.jp/works/16818093076340096763


評価:★0


【あらすじ】

ただの高校生のはずだった。

あなたと話すことなんてないはずだった。

あなたとこの景色は見られないはずだった。

あなたと一緒にいる未来はないはずだった。

君の最期に賭けようと思った。


でも、あなたがここに居てくれるだけで良かった。

私がもしいなくなっても、あなたはずっと生きていて。

あなたにとって、きっと最高な贈り物をするから――



【拝読したストーリーの流れ】

 本作にはプロローグ、及び第0話がありました。

 プロローグは作中の1シーンを抜き出したもので6行しかなかったので「読んだ話数」には含んでいません。

 第5話に当たる話がエピローグとなっているのですがルールに従って、第0話~第4話までを読んだ批評とさせて頂きます。



 高校3年生の主人公「麻生純恋」は、ある日余命3日の宣告をされてしまった。原因は脳腫瘍。手術をしても成功する確率は0.3%。

 「純恋」は手術を受ける決心をしたが、その日までは普段通りの生活をしても良いという。


 いつも通りに登校した「純恋」は、幼い頃から吹き続けたトロンボーンを、誰もいない音楽室で吹いていた。

 そこに突然現れた同級生の男の子「石井恋輝」。

 「純恋」と「恋輝」は惹かれ合い、手術までの時間を共に過ごす……、といったお話でしょうか。



【タイトル・キャッチコピーの批評】

 タイトルですが、作品内容とも合致した良いタイトルだとは思います。

 ただしかし、何度も言ってきた事ではありますがweb小説では、何よりも「分かり易さ」が求められます。

 もう少し具体性があった方が良いかもしれません。



 キャッチコピーですが、こちらはタイトルよりもやや具体性があり、悪くは無いと思います。

 タイトルとコピー、そしてジャンルが「恋愛」である事を見れば、作品内容のテーマや雰囲気は伝わるかと思います。

 ただ2、3カ所も見なければ伝わらないのであれば、やはり難しいのではと思いますね。



 最後に細かいですが、タイトルとコピーの文末に句点は要らないかと思います。

 もちろんあっても問題では無いですし、むしろそれに「意味があるなら」あるべきだとも思います。

 しかし本作の場合には各エピソードタイトルの文末にも句点がありましたし、失礼ながら作者さまが「句点に意味をつけていた」ようには見受けられませんでした。



【キャラクターの批評】

 キャラクターですが、全体的に造形が稚拙です。

 主人公はまだマシだと思いますが、それ以外のキャラは酷いですね。


 特にヒーロー役は、ストーリーと主人公にトコトン都合の良いだけの存在です。

 主人公と出会ったその日に、彼女の余命を聞かされ、残された2日間を付き合うと宣言し、学校を早退し、服をプレゼントし、翌朝には主人公の家まで迎えに行き、その日も学校をサボって、遊園地デートをして、恋愛名所の場所に赴き、3日目もやはり学校をサボって主人公を迎えに行って、病院に付き添います。

 ……こんな男子高校生、居るわけ無いですよね。彼には「1個人の人格」は一切感じられませんでした。


 物語ですので、多少の「ご都合主義」は仕方ないかと思います。しかし、これはあんまりだと思いました。

 この問題は、主人公の家族や医者にも同様の事が言えます。


 総じて、本作には「生きた人間は居ない」と感じましたね。



【文章・構成の批評】

 文章は決して優れている訳ではありませんが、目立った欠点は無いように思いました。

 ただ2点だけ指摘させて頂きます。


 1点目は、「キャラのセリフがワザとらしく見える事」です。

 これは先ほど指摘した件も関わってきますが、物語の進行を優先した為かセリフが不自然に感じます。

 その行動も相まって、キャラの「操り人形感」が増しているように感じました。


 2点目は、物語後半に登場する主人公の母親や叔父・叔母を名前で呼んでいる事ですね。

 本作は一人称で書かれ、主に彼らが登場する第4話はヒーロー役の視点となっております。同級生の親族を名前で呼ぶのは違和感しか感じません。

 また、場所によって名前で呼んだり叔父さんと呼んだり、安定していないのも良くないと感じます。

 彼らは物語の主軸となるキャラでは無いのですから、そもそも固有名称は必要無かったのでは、と思いました。



 構成については、悪くないと思います

 プロローグで物語の盛り上がる部分を切り取って先見せし、第0話を「0日目」として順に1日ずつ進め、第4話で「4日目」とするのは悪くないと思います。

 疑問点を挙げるとするなら「0日目」というカウントスタートに違和感を覚える事でしょうか。



【ストーリー・設定の批評】

 ストーリーの大筋は悪くないと思います。

 余命を告げられたヒーローやヒロインの、限られた時間の中での恋愛物語というのは王道中の王道です。

 私は詳しくありませんが、「余命もの」と呼ばれる同ジャンルの作品は大量に映画化などがされているようですね。



 ただし、本作の設定はお粗末としか言いようがありません。


 まず「余命3日」はあり得ないでしょう。仮にあったとして、それは「いつ死んでもおかしくない状態」という事であり、緊急入院・緊急手術は免れないでしょう。

 間違っても「3日後の手術まで自宅で普通に生活」など出来る筈がありません。


 本作のキーアイテムであるトロンボーンに関しても、主人公が幼稚園の年中(4、5歳?)で「おもちゃのトロンボーン」を渡されて、その重低音に惹かれたような記述がありました。

 しかし幼児向けのオモチャの楽器が「重低音」を出せるとは思えません。そもそもトロンボーンはどちらかと言えば「高音」を出す楽器だと思います。

(一応、軽く調べてはみましたが、楽器には詳しくないので間違ってましたらスミマセン。トロンボーンで重低音が出せるのも、一応は確認してます)


 そして主人公には弟妹がいるという事ですが、主人公の父親は主人公が生まれる前に死んでいます。弟妹の父親は再婚相手とかですか?

 第4話までは弟妹が物語に登場する事もありませんでしたし、彼らの存在は何なのでしょうか?


 最後に、主人公の生き死にを懸けた手術を決める際に、その場に保護者が居ないというのはあり得ないでしょう。

 手術の執刀医も、突然主人公の叔母に変わります。主治医と執刀医が別だったり、突然変わるというのも有り得なくは無いですが、何の説明も無しではやはり疑問に感じてしまいますね。


 大きな事から小さな事まで、本作の設定には矛盾と違和感が満載でした。

 リアリティのある作品ではないですね。



【総評まとめ】

 本作のストーリーは先ほど申し上げた通り王道であり、多くの名作を出してきたジャンルです。そしてこのジャンルで最も重要なものは、「キャラへの共感」と「感動」ではないかと思います。


 しかし本作は致命的に「作り込みが甘い」と感じました。

 キャラの作り込みが甘いから「共感」は生まれず、設定の矛盾と違和感が「感動」を邪魔します。

 ストーリーだけでは良い作品は作れないという例ですね。

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