KAC20245はなさないで
綾野祐介
KAC20245はなさないで
「どういうこと?」
「えっ、どうした?何のこと?」
「今日のことよ」
深雪と付き合いだしてから一年半経ったが、それまで従順だった深雪がとうとうその本性を現しだしたらしい。
「今日って?」
「バイトって言ってたでしょ?」
「ああ、バイトに行ってたじゃないか」
俺はコンビニでバイトをしている。3日に1回、深夜だけのバイトだ。そういえば今日、俺のバイト終わりに深雪が迎えに来ていた。そんなことは初めてだった。朝が弱い女だったはずだ。
「お前が迎えに来たとき、ちゃんとコンビニに居ただろ?」
「それはちゃんと居たわね。一緒に帰っても来た」
「それじゃあなんだよ」
「隆志が接客していた女の客」
「女の客?」
確かに俺が上がる直前女性客が来ていた。常連の客だったので少し話をして普通に接客していただけだ。話と言っても『おはようございます、今日も早いですね」としか言ってない。相手はただ微笑んだだけで返事はしなかった。
「ああ、確かに居たな、それがどうした?」
「なんでよ」
「なんでって何が?」
深雪は日に日に面倒な女になりつつあった。一年間猫を被っていたのだ。
「何であんな女に笑顔で話しかけるのよ」
「そりゃ客だからだろ。お客さんと話するのはおかしなことじゃない」
「いいえ『温めますか?』とか『お箸は要りますか?』なら仕方ないけど『今日も早いですね』は別に要らないはずよ」
そう言われればそうかも知れないが、ただの社交辞令だ、普通なら目くじらを立てるような事じゃない。ただ問題なのは実は俺がその女性を狙っている、ということだ。
「常連さんなんだ、挨拶くらいするだろ」
「駄目。隆志は私以外の女とは必要最低限の言葉以外交わしたら駄目なの」
最近、こう言った無茶なことを言いだしている。俺の限界が近々訪れてしまうかも知れない。早々にエリカを落とすとしよう。
「そんな無茶な」
「無茶でもいいの。隆志は私以外の女とは、はなさないで」
それから半年、我慢した方だ。
KAC20245はなさないで 綾野祐介 @yusuke_ayano
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