アルバイト戦記

森松一花

コンビニバイト

 これは、私が学生時代、コンビニエンスストアにてアルバイトをしていた時の事。


 すぐそこにあるコンビニのオープニングスタッフとして、私はやる気満々で店に立っていました。

 私のシフトは十七時~二十二時。この時間帯は、あるものがよく売れます。


 そうです。ホットスナックです。


 私は十七時、店に入ると同時に、店のフライヤーでフライドチキンやらコロッケやらを揚げまくります。

 ホットスナックの中でもよく売れるのは、やはりフライドチキン。そしてその次が、『からあげ棒』という、から揚げが四個ぐらいくしにぶっ刺さっている代物です。

 出来上がった美味しそうなそれらを、保温機にぶち込みます。

 そして、値札をつければ完成です。


 しかし、ここで問題が発生。


 『からあげ棒』の値札が、何処を探しても見当たらないのです。

 オープンして間もないコンビニエンスストアはモノであふれており、まだ特定の置き場も決まっていない状態でした。


「店長、からあげ棒の値札がありません」

「ああ、探しても無かったら、仕方ないから今日は手書きで書いてもらえる? あと、森松さん。二十時に牛乳を買いに来るお客様がいるから、お店の牛乳を一本取っておいて、『〇〇様用』って、書いておいてくれないかな」

「解りました!」


 私は直ぐに牛乳を一本手に取り、『〇〇様用』と書いたメモを貼って、バックヤードに確保。

 そしてレジに戻り、からあげ棒の値札を作り、保温機に貼りつけます。


 そして、店番をすること三十分。


 二十代ぐらいの、若い男性が、店にやってきました。

 その男性はレジに来て、私に言いました。


「からあげ様を、1つ、ください」



 ——からあげ『様』?

 今、聞き間違いじゃなかったら、この方、からあげ様って言った?



 私はひどく混乱しました。

 某コンビニの人気スナック、からあげクンに対抗して、そう呼んだのだろうか?

 ただの変人?

 ギャグ?

 笑った方がいいのか?


 男性は常連客でもなく、私は新人アルバイト。

 あまりふざけたことが言える立場ではない。


 結果——私は、何事もなかったかのような顔をして、レジを打ちました。

 男性も、何事もなかったかのような顔をして、店を後にしました。


 お客様がいなくなったので、私は店の清掃の為、レジから出ました。

 そして、ふと、保温機の手書き値札を見ると——



 私の字で、ばっちり、『からあげ様』と書かれていました。



 牛乳のメモに書いた『様』という字につられて、『棒』という字を間違えていたのです。

 男性は何も悪くなかったのに、変人だと思って申し訳ない気持ちで一杯になりました。


 私は直ぐ様、値札を書き直し、何事もなかったかのようにアルバイトを続けました。

 恥ずかしかったので、店長にも、バイト仲間にも言っていません。


 ですが、一番恥ずかしかったのは、もしかしたら、からあげ棒を買ってくれた男性だったのかもしれない——


 今でも、そう思わずにはいられません。 

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アルバイト戦記 森松一花 @hm0406

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