ねえ、静かに

ゆきのともしび

ねえ、静かに


いつからだろうか

自分のみた景色やことばを 誰かに見せないと気が済まなくなったのは


いつからだろうか

気分が乗らないときに 小さな電子機器を握りしめるようになったのは


いつからだろうか

自分に対する誰かの反応に 揺さぶられるようになったのは



とある美術館に行ったとき

ある詩人の肉声テープがながれていた


「ぼくはね 募金をしたことを募金をしましたって報告している人が 信用できないんです。そういうことはね こっそりやるからいいんです。それを言いふらしていては なんだか詐欺なんじゃないかなあと 疑ってしまうんです」




ねえ 詩人さん

今この世界 ちょっとおかしくなってきてるよ



毎日顔を合わせていても つながらない人とはつながらないし

十年連絡を取っていなくても つながっている人とはつながっている


根底に流れる なにか を見出せないと

何かを発しないと不安

だまっていたら それはいないことと同じになってしまう

というような 恐怖 に駆られるのだろうか



わたしもいくつかの発信媒体を経験したが

絶え間ない情報と 哀しいことばたちに耐え切れず 全てやめてしまった




いま あのひとはどうしているのだろうか

想いを馳せるはかなさ

悲しみと少しのよろこび



木々が気持ちよさそうに揺れ

少し上空では 鳥が風をつかみ 飛んでいる

その姿を近くでみたいけれど そこに行くことはできない

わたしは姿を見ながら 想像するしかない



みえないけれど そこに なにかが 確かに存在している



これは 愛 とも似ているんじゃないだろうか



「まだうまくわかんないけど」 とつぶやいて


居間で紅茶を飲んでいる



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ねえ、静かに ゆきのともしび @yukinokodayo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ