「あっついな」里は汗をかいている。

「もう夏だもんね。この間まではようやく春だと思ってたのに、すぐに夏になっちゃた。時間が過ぎるのがすごく早くなった気がする」里の淹れてくれた冷たい緑茶を飲んでから美星は言った。

「美星は今までなにしてたん?」

「ずっと仕事してた」

 背筋を伸ばしながら美星は言う。

「ずっと仕事か。まあお金は稼がなあかんし、ずっと寝てるわけにもいかんしな。しゃあないか」里は言う。

 ちりんと風鈴が鳴った。

 美星が音のしたほうに目をやると、開けっぱなしの縁側の屋根のところに風鈴が吊り下げられていた。

「気持ちいいね」

「まあ、山間の街やからな。風がよう吹いてる。海もすぐそこやしな」遠い空を見ながら里が言った。

「海。見たい」

「海。見に行こうか?」

「うん。見に行きたい」と素直に美星は笑顔でそう言った。

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