第四話:配下召喚
俺の能力について少しだけ話したあとで、ノルンはさっと話を切り替えた。
「さて。それじゃあ概要は説明し終わったし。本格的に【配下召喚】について説明するね。もういっかい【配下召喚】ページを開いてくれる?」
「ああ」
俺はおぼつかない手付きで、ステータスから【配下召喚】ページに切り替える。
そこには二つの軸があった。一つは【固有召喚】もう一つは【選択召喚】だ。
「【配下召喚】には二種類あるんだ。まず【固有召喚】っていうのは、たくさんのEPを消費して、固有能力に応じた配下をランダムに召喚できるものだね。強力な子が召喚されるから、特筆戦力になる。【選択召喚】は今まで倒したことのある子や、配下にいる子を召喚できるもの。よく使うのは、こっちの【選択召喚】かな。EP消費が【固有召喚】に比べて少ないし、知っている子だから上手につかってあげられる」
「具体的にはどのくらいのEPが必要なんだ?」
「それは見た方が早いかな。【選択召喚】を選んでみて」
ノルンに従って、【選択召喚】を指で押す。
すると、膨大な枠に埋め尽くされたページに切り替わった。だが、その全てが「???」という文字で埋め尽くされており、選ぶことができない。
恐らくだが、俺がまだ倒したことや配下にしたことがない子のデータだろう。
今更だが、「子」という呼び方では少しわかりずらい。俺の種族が【魔族】なのにになぞられて【魔物】とでも言い換えておこう。
しばらくページを下に進めていくと、一つだけ情報が入っている枠があった。
そこでスクロールを止め、情報を見てみる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
種族名:ヘルゴート
ランク:C
必要EP:1250~1350
≪能力平均値≫
統率20 知略15 耐久60 攻撃45 魔力10 機動60 幸運20 特殊15
特性:猪突猛進 会心の一撃
≪特性説明≫
猪突猛進……目標にした敵に対して能力上昇。攻撃、機動、耐久に補正(小)
会心の一撃……敵に攻撃がヒットした際、稀に攻撃力二倍。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「キミが倒したヘルゴートはCランクの魔物。必要なEPは1300前後だね。特性も結構優秀だから、かなりお買い得な配下かな~」
「ヘルゴートは戦力的にはどうなんだ?」
「うーん、まあ普通くらいかな。ランクはAからGまであるから、真ん中くらい」
Aランク。Cランクのヘルゴートでもかなり強かったが、その二段階上の存在か。
「てことは、敵にランクAの配下が大量にいることも考えなきゃいけないのか」
俺よりも早く生まれている帝王たちは、当然戦力を拡大しているだろう。
ランクAの魔物が大量に現れたら、俺は太刀打ちできない。不安だ。
しかし、ノルンは首を横に振ってそれを否定した。
「いや【選択召喚】で呼べるのは、Bランクの子までだから、その心配はいらないよ。ただ【固有召喚】を何十回とやってる帝王たちは、Aランクの戦力をたくさん持ってるから注意すること。あとは最上位の帝王にもなると、Sランクの子もたまにいるから、それも気を付けたほうがいいよ。まあほんとにたまにだけどね」
「そうか」
ひとまずは安心だが、気は抜けない。
「その【固有召喚】にはどれくらいEPがいるんだ?」
「そうだねー。相場はだいたい10万くらいかな~」
獲得できるEPがどのくらいかは分からないが、なんとなく大きな数字だということは分かる。
「EP集めにも苦労しそうだな。……そういえば、帝王を倒すと大量のEPが手に入るんだよな? それは具体的にはどれくらいなんだ?」
「どんなに弱い帝王でも30万EPは確定してるね。あとは当人の強さによって変わっていくよ。最強の帝王を倒せたら、もしかしたら何億っていうEPが手に入るかもね」
なるほど。確かに大量の魔物や人を倒すよりも、帝王一人を殺したほうが効率的だ。帝王同士の戦争が頻発している理由も分かる。
しかし、狩る側の視点ばかりに立っても居られない。
俺の首にも30万EPがかかっているということを、忘れてはならない。
「…急がないと、あっという間に殺されそうだな。やっぱり配下はたくさん欲しい」
「ボクもそれがおススメかな。さて、それじゃあ最初は【固有召喚】をしてみよう! 特筆戦力を最初に用意するのが一番大事だからね」
ヘルゴートのページを閉じて、【選択召喚】から【固有召喚】のページに移動する。
「いくら二倍のEPが必要だっていっても、たぶん足りるからだ大丈夫だよ。楽しみだな~」
わくわく、といった様子で左右に揺れ動くノルン。
その期待に応えようと【固有召喚】を行おうとして……俺は首を傾げた。
「…それが、EPが全然足りないみたいなんだ」
「え?」
「俺が持ってるEPは16万1350。必要なEPは22万だ」
「うそ!? っていうか何でそんなにEPが少ないの!?」
「…少ないのか? そもそも何もしてないのに何でEPがあるんだ」
1350EPはおそらく、生まれてすぐにヘルゴートを倒したときのものだ。だがそうであれば、残りの16万EPはどこから湧いてきたのだろう。
首を傾げていると、ノルンが困った顔で答える。
「帝王は最初から20万EPをもって生まれてくるんだよ。だから半分の10万EPを使って【固有召喚】を一かいしておく、っていうのがセオリーなんだ。……プルソンの場合でも【固有召喚】にかかるのは20万EPくらいだし、ぎりぎり問題ないかなって思ってたんだけど……」
そう言われて、俺の脳裏に一つの心当たりが浮かんだ。
「たぶん、さっきのヘルゴートを倒した時に使った芸(わざ)の影響かもしれない。俺が生み出した刀は、俺の特性で具現化したものだったから、EPがごっそり持ってかれたんだと思う」
「あ! あのスパッ!ってやつのこと?」
「ああ。それに戦闘の知識を引き出すのにもEPを使った。どうも戦いには大量のEPを使わないといけないらしいな」
それは感覚的に理解できる。おそらく、俺の能力は燃費が悪い。
ノルンの言葉通り、俺にも最初は20万EPがあったのだとすると、ヘルゴートとの戦闘で、4万ものEPを持っていかれたという計算になる。あの短時間、たった一瞬の戦闘で4万だ。
他の帝王がどうかは知らないが、俺自身に直接的な戦闘力が無い以上、いざ戦いになれば大量のEPを消費しなくてはならないだろう。これは参った。
「あー、そっか。なるほど……まぁでも、あれはボクがけしかけたから………ええい! 仕方ない!」
俺の言葉に、ノルンは覚悟を決めた顔で言う。
「ボクのEPをあげるから、使って!」
「それは悪いよ」
いくら先輩帝王でも、そこまで面倒を見てもらっては申し訳ない。
しかしノルンは強引に俺の心臓に手を押し当てると、微笑みながら呟いた。
「いいんだ。キミが来てくれただけで、ボクは満足してるから。あげられるものは、全部あげたいんだ」
「それはどういう…?」
最後に悲し気に細められた目に、俺は戸惑う。
しかし俺の問いが言葉になる前に、ノルンが光を放った。
「いいからいくよ! えいやっ!」
その瞬間、心臓がドクンと跳ねた。
大量のEPが流れ込んでくる。膨大な力が俺の全身を支配し、快感に脳が揺らぐ。
自分と言う存在の格があがることに、これ以上ない喜びを覚える。
一歩間違えば、中毒になりかねない。もし強大な帝王を打倒しようものなら、一体どれだけの快感が待っているのだろうか。
「…どう? 受け取れた?」
上目遣いで聞いてくるノルンが、いつもに増して魅力的に見える。
まだ幼さの残る妖精の美少女だ。彼女を今すぐにでも貪り尽くしたい。
ああ、そうだ。もっといい方法があるじゃないか。
彼女も帝王だ。今この場で彼女からEPを奪えば、更なる快感が…………。
そこで我に返る。
俺はEPを譲ってくれた恩人に対して何を考えていた?
煩悩ごときに支配されるな。
気を強く持て。
「…すーはー…すーはー…」
「プルソン? 大丈夫?」
俺は自身の内側に湧き上がる煩悩を、深呼吸することで断ち切った。
気を取り直してEP残高を確認すると、先ほどまでは16万1350EPだったのが、26万1350EPになっている。ノルンは10万ものEPを、俺に与えてくれたわけだ。
正直気が引ける量だが、受け取ってしまったものはしかたない。有効活用させてもらうとしよう。
「…ああ。大丈夫だ。EPもありがとう。…だけど、これはちょっとやばいな」
まだ脳が、先程の快楽を忘れられずにいる。
今すぐにでも、次のEPを浴びたいと叫ぶ本能が厄介だ。
「あ、分かるよ。たくさんEPを吸収すると気持ちいよね」
「ああ。正直もう少し多かったら、どうなってたか」
一度に大量のEPを取得するのは、できれば避けた方がいい。
今の一瞬で分かったが、EP取得はとてつもない快楽物質だ。帝王同士の戦争が無くならないのは、その中毒者が大量にいるからかもしれない。
中毒者にとっては、標的など誰でも良いのだ。変な戦いに巻き込まれないように気を付けよう。
「さて、それじゃあ必要EPも満たしたことだし、さっそく【固有召喚】いってみよう!」
「分かった。ノルンにもらったEP、無駄にはしない」
俺はそう頷いて【固有召喚】を行う。
体から大量のEPが放出され、準備が整った。
さあ、まずは最初の配下を呼び出そう。
俺の配下召喚は方向性をある程度決められるが、どんな配下が良いだろうか。
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