第三話:顕現の芸者
ノルンの口から語れた【配下召喚】というワードに、俺は興味津々だった。
「配下を召喚するにはどうすればいいんだ?」
「【帝王録】からいつでも召喚できるよ。それはまた後で実践してみよっか。何か質問はある?」
お預けをくらい、すこし拍子抜けする。
しかし、ここである程度の疑問を潰しておいたほうが良いのも確かだ。
俺はノルンの言葉通りステータス画面を眺める。
そして疑問が浮かんだ。
それは≪特性≫の欄にある「???」という文字についてだった。
「…なんか表示されてない特性があるんだけど、これは?」
バグというわけではあるまい。
俺が指でそこを示すと、ノルンは「やっぱ気になるよね」と頷く。
「それは解放レベルに達していないヤツだね。大体はレベル50、レベル75で能力が解放される。キミはまだレベル1だから、これから頑張ってレベルを上げていこう!」
ノルンはそう言ってファイティングポーズをとる。
可愛いポーズだ。…ふと思ったが、彼女はいったい何歳なのだろう。帝王に年齢という概念があるのかも気になる。
だがそれを問うのはまたの機会にとっておこうと決める。今はそれよりも大事なことがある。
「そういえば、レベルが上がる条件はなんだ。普通に考えれば経験値を獲得したら上がるから、俺のレベルもEPを獲得すれば勝手に上がっていくのか?」
レベルが上がるからには、帝王として聞いておく必要があるだろう。レベル上げの方法を知らずに、他の帝王に蹂躙されては全く笑えない。
「そうだね。レベルの上昇にはEPを使うよ。ただ注意しないといけないのは、レベルアップに使うEPと、いろんなことに使うEPは同じってことだね」
「というと?」
ずいぶんと含みのある言い回しだったので問うと、ノルンは少し考えてから結論を出した。
「帝王は獲得したEPを自由に使えるんだ。領地の発展に使っても良いし、【配下召喚】につかってもいい。でもそこでEPを消費すると、貯蔵したEPがどんどんと減っていくんだ。そうなるとレベルアップにまわせるEPが少なくなって、レベルアップがいつまでも進まない。かといってレベルアップにだけEPを回していても、領地や戦力が育たない。このEPをどうやって運営するかが、帝王としての腕の見せ所だね」
なるほど。
獲得したEPは、基本的にタンクに貯蔵されている状態だと考えると分かりやすい。
レベルを上げるにしても、配下を召喚したりするにしても、必要に応じてそのタンクの中からEPを消費していく必要がある。だからレベルアップにだけEPを使っていても総合的には強くなれないし、領地ばかりを気にかけていても最弱の帝王になって滅ぼされるということか。
なかなか難しいが、面白い仕組みだ。
「よくわかったよ。帝王は難しい仕事だな」
「うん。まぁこれに関しては説明だけだと分かりにくいと思うから、実際やってみようか。【配下召喚】って言ってみて」
「【配下召喚】」
ついにきたか。ワクワクする。
ノルンの言った言葉を繰り返すと、【帝王録】のページが切り替わって、新しい情報が表示された。
「…さっき固有能力について説明したけど、どんな能力だったか覚えてる? 多分『芸に携わる者を召喚可能。また召喚した者の存在の強弱によって必要EPは変化する』って書いてあると思うんだけど…」
忘れていたので、再びステータスページに戻って確認する。
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名前:プルソン
種族名:魔族
ランク:S
LV:1
EP:161,350
統率35 知略40 耐久5 攻撃20 魔力60 機動30 幸運15 特殊120
特性:芸の主 芸具模倣 鼓舞の音色 ??? ???
固有能力:顕現の芸者
≪特性≫
芸の主……芸能に通ずる全ての知識を保有する。またそこに込められた思い、魂、知識などを獲得する。(当人以外閲覧不可)
芸具模倣……あらゆる芸能にまつわる道具を使用可能。知識にある楽器、道具などをEPを消費して具現化可能。その規模により消費EPは変化する。
鼓舞の音色……発動中・自身の芸能を見聞きした味方の全能力値上昇(上昇幅は熟練度、レベルに応じて変化する)・攻撃力、防御力、機動、固有能力に補正(中)。芸能に応じて様々な効果を付与する。
≪固有能力≫
顕現の芸者……芸に携わる者を方向性を持って召喚可能。また召喚した者の存在の強弱によって必要EPは変化する。また選択した配下の能力値に補正(残り七体)。ただし要求EPが従来に比べて二倍になる。(当人以外閲覧不可)
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
…あらためて見てみると、ノルンの予想とはかなり違う気がする。
俺は素直に首を横に振った。
「いや、色々違うな。召喚は方向性を持ってできるし、EP消費は二倍だ。それになんか、七体の配下に大幅な補正ありって書いてある」
「え? なにそれ。聞いたことない……ちょっとみせて?」
驚いたノルンがそうやって覗き込むと、『開示設定を変更しますか?(開示設定は後からでも変更可能です)』という文が浮かび上がった。ノルンが見ようとしたことを【帝王録】が感知したのだろう。何とも気の利くシステムだ。
俺が『はい』を選択すると、ノルンがあっけにとられた様子で呟く。
「ほんとうだ。プルソン、キミかなり珍しい能力を持って生まれたんだね。長い間帝王やってきたけど、こんなの見たことないな」
「…参ったな。EPを消費してどんどん戦力を拡大していこうと思ったんだが、そういうわけにはいかないか。あんまり良い能力とは言えないな」
EP消費量が二倍、正直使いにくい【固有能力】だ。
だがノルンは、なぜか真剣な顔になって首を捻った。
「…ボクも全てを知っているわけじゃないけど、配下の強さは帝王本人のレベルと、召喚時につぎ込まれたEPで決まる。単純に言えば、使用したEPが多ければ多いほど配下の強さが跳ね上がっていくんだ。だからキミは最終的に、どの帝王よりも強い配下を生み出すことができる可能性がある。………そう考えると興奮するけど、同時に恐ろしくもあるね。キミが最大レベルに到達した時に生み出す配下がどんな存在になるのか、ボクにも想像がつかない」
ぶるっと震えたノルンの説明に、俺も生唾をのんだ。
俺の固有能力は、もしかしたら超大器晩成型の能力なのかもしれない。使いようによっては、他の帝王たちを圧倒できる可能性がある。
驚きに目を見開いた俺を見やって、ノルンは真剣な顔で告げる。
「……一応アドバイスしておくけど、その【固有能力】を自慢しようなんて思ったらダメだよ。帝王っていうのは、倒した帝王の能力をいくつかストックしておけるからね。強い帝王になればなるほど、キミの能力は喉から手が出るほど欲しいはずだ」
「分かってる。……俺は新米の帝王のなかでも狙われやすい」
大器晩成型の能力であれば、その真価を発揮するのは、まさに高レベルの帝王になってからだろう。それに、新米の帝王であっても欲しい能力かもしれない。
俺の能力を知られれば、全ての帝王が俺を殺そうと軍を起こす。慎重に立ち回らなければ、即座に滅ぼされる。
それら無数の可能性を、俺はヒリヒリと感じ取っていた。
「そうなるね……それにしても驚いたよ。まさかキミがこんなにも可能性を秘めた帝王だったとはね」
「俺も驚いてるところだ。でも、慢心はできないな。確かに強力な能力だけど弱点がないわけじゃないし、そもそも俺は何もできてない」
可能性があるだけで、現状の俺はただのひよっこ帝王だ。先輩帝王に攻め込まれれば、即座に敗北する。
警戒心を強めた俺に、ノルンが感心した。
「えらいね。ちゃんと弱点についても考えてるんだ」
「ああ。さっきからずっと気になってたことだ。……召喚に必要なEPが従来に比べて二倍ってことは、他の帝王たちは俺の二分の一の経験値で配下を召喚できるってことだろ?」
単純戦力で、俺は他の帝王に圧倒的な差をつけられる可能性がある。
数は力だ。そのことを侮ってはいけない。
ノルンがゆっくりと頷く。
「そうだね。たぶんその解釈であってるよ」
「…だけどやっぱり、EP消費二倍で配下を生み出せるっていうのは反則的な能力だよな」
「うん。それに配下を方向性をもって生み出せるっていうのも、七体に強力な補正がかかるっていうのも相当だよ。この二つの能力に関しては、何人か持っている帝王がいたけど、二つ同時に発現してたのは見たこと無いし、補正に関しては配下を選択可能っていうのが、キミの言う通り反則的な強さだ」
ふと、疑問が思い浮かぶ。
「なんで俺はこんな力を持って生まれたんだろうな」
他の帝王が妬むほどの力を持って俺は生まれた。その理由は一体何なのだろうか。
しかしノルンは首を横に振るだけだった。
「さぁ。それはボクにも分からないな~。もしかしたらキミの≪特性≫と関係があるのかもね。…まぁ強い能力を持って生まれる帝王はたまにいるから、キミがそうだったと考えるしかないよ。それにそんなこと気にしてられるほど、帝王の世界は甘くないぞ」
たしかにそうだ。先輩帝王のノルンにも分からないことを、新米の俺が考えても仕方ない。
今はとにかく、帝王として強くなることだけ考えよう。
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