2008

『2008/3/2 15:17

 件名:卒業おめでとう!

 From:未華子

 お互い卒業おめでとう!(昨日ダケド…)

 卒業式、すぐ帰っちゃったよね!?探したけど見当たらなかった(;_;)

 一緒に写真撮りたかったな~(T_T)

 同じクラスで慧くんと話せてちょ~楽しかったしうれしかった!ありがとうね。

 またすぐ絶対あお!お互い春からがんばろーね』


 送信してから3日が過ぎる。

 卒業式の翌日、慧くんに送ったメール。もう高校生じゃないからと少しだけ漢字を多く使い、でも畏まったメールにならないように嚙み砕いた文面。由紀たちと朝まで歌い倒した卒業カラオケパーティから帰宅した後、寝て起きたのちに数時間かけて考えた末の文面だ。

 ベッドで携帯電話を片手に、何も考えず仰向けになる。壁掛け時計を見やると、時刻は18時を過ぎている。相変わらず、携帯電話が鳴ることはない。

「未華子」

 母が自室の扉を数回ノックし、わたしが答える間もなく扉が開く。

「もう、春休みだからってだらけて……。そろそろ晩御飯よ、下に降りてきて」

「うん、今行く」

 わたしが携帯電話を片手に起き上がると、母が見かねていった。

「携帯は部屋に置いてから来なさい」

 母は携帯電話に夢中になるわたしに厳しい。食卓を囲むときも、机に携帯電話があることをよく思わないのだ。

「わかってる。すぐ行くから」

 もう聞き飽きた指摘に、わたしはそっけなく返した。きっと眉間にしわも寄っていただろう。

 母はため息をつき、わたしの部屋から去っていく。間もなく階段を降りていく足音も聞こえた。

 わたしはもう一度携帯電話を開き、メールの受信フォルダを確認する。まだ開いていないクラスメイトからのメール、先日卒業を理由に辞めたアルバイト先からのメール、数件ある受信フォルダに目当ての人物からのメールはない。

 もしかしたら、相手も夕飯を食べている最中かもしれない。はたまた、卒業旅行や卒業パーティーで数日忙しくしているのかもしれない。

 メール読んでくれたかな。読んだうえで敢えて返していないのか、携帯電話を開いていないのか。様々な理由を推測しても、携帯電話が彼からのメールを受信することはない。

 明日起きたら返ってきているかもしれない。わたしがご飯を食べている間に返してくれているかもしれない。

 携帯電話を閉じる度に何度もそう考えたが、ついに彼からの返信はなかった。

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