幼いころ突然いなくなった幼馴染みが10年後に帰ってきた。異世界から。

ささみし

短編

「こらー!」


 夕暮れの公園に、勇ましい女の子の声が響きわたる。

 いじめっ子の男の子たちが、その声を聞いて震え上がった。


「いけねっ、ちとせだ! 逃げろ!」


 私をかこんでいた男の子たちが一目散に逃げ出した。

 いれちがいに走って公園に入ってきたのは可愛い女の子。だけど、わたしにはその子がヒーローみたいに見えた。


「もー、あいつら、女の子ひとりによってたかって。こんど会ったらただじゃおかないんだからっ!」

「あ、あのっ、ありがとう」


 私が勇気を出してお礼をいうと、女の子は私に笑顔を向けた。

 まぶしくて、きらきらしてる。太陽みたいな女の子だっておもった。


「大丈夫だった? はじめましてだよね、近所の子?」

「う、うん。あの……きょう引っ越してきたばっかりで」

「えっ! 今日引っ越し? うちのとなりも引っ越ししてたんだけど、もしかしておとなりさん!? ね、近くに神社と業務スーパーない?」

「え、わ、わかんない」


 どきどきしていた。

 こんなすてきな子がとなりのおうちの子かもしれないなんて。

 

「行って確かめよう!」

 

 手をひっぱられて駆け出した。すぐに新しいお家が見えてくる。

 

「あ、そこ、わたしのおうち」

「本当!? やったあ! すごいね、こんなぐーぜんあるんだ。運命みたいっ!」

「う、うんめい……?」


 なんてはずかしいことを堂々と言うんだろう。

 運命なんて言葉、まんがの中でしか聞いたことがない。

 はずかしくて、くすぐったい。でも、この子のとなりにいられるって思ったら、胸の奥からうれしさがこみあげてくるのをおさえられなかった。

 

「あ、あの……わたし、かんざきまひろ」

「あたし、いづるちとせ。よろしく、まひろ!」



 わたしとちとせちゃんは正反対の性格だった。

 

 ちとせちゃんのまわりには友だちがたくさんいる。

 でも、わたしが一人でいると、ちとせちゃんはいつも話しかけてくれた。

 

 あるとき「ちとせちゃんには友だちがたくさんいるのに、どうしてわたしといてくれるの?」と聞いたら「まひろと一緒にいたいから」だって。

 わたしは顔が真っ赤になってなんにも言えなかった。

 ちとせちゃんはそういうことを平気で言えちゃう女の子なんだ。わたしにはぜったい真似できない。

 

 ほかにも、ちとせちゃんは運動神経がとてもよくて、体育では男の子にだって負けたことがない。わたしは運動がぜんぜんだめ。

 逆に、ちとせちゃんが苦手だったのは勉強。わたしも勉強はあんまり好きじゃなかったんだけど――

 

「まひろー、宿題みせて!」

「だ、だめだよ、ちとせちゃん。宿題は自分でやらなくちゃ」

「おねがいっ、なんでもするからー」

「な、なんでもって……だめ、だめだよ。わかんないところはわたしが教えるから、いっしょにやろ?」


 ちとせちゃんに教えられるのがうれしくて、気がついたらわたしは勉強でほめられるようになっていた。

 これって、ちとせちゃんのおかげだよね。ありがとう、ちとせちゃん。心のなかでお礼を言った。

 

「ん―、わかったー。じゃあ業スー(業務スーパー)行っておかし買って持ってくね」

「え、わたしも行くよ」

「今日のまひろは先生だから、おとなしくおうちで待ってて。それとも、あたしの愛のこもったお菓子チョイスがイヤなのかー?」

「愛って、もう、ちとせちゃんったら……」

 

 ちとせちゃんはすぐそういうことを言ってわたしをどきどきさせる。

 やっぱり、わたしとちとせちゃんはぜんぜん違う。でも、きっとこれからもずっと一緒にいるんだろうなあ。

 だって、『運命』なんだもん。

 

 

 その日、いくら待っていても、ちとせちゃんはうちにやってこなかった。

 おうちで寝ちゃったのかな。なんてわたしは半分呆れていたんだけど……。

 

 ちとせちゃんが行方不明になった、と聞かされたのはその日の夜のことだった。



――10年後――



 夕暮れの日差しのなか、わたしは帰り道を急いでいた。

 家に着いたら、バイトのせいでリアタイ視聴できなかった今朝のパワプリの録画をチェックしなければいけない。

 なにしろ先週は敵幹部の女の子との一騎打ち直前で終わっている。つまり今日の放送は間違いなく約束された神回なのだ。

 次回予告でのネタバレはなかったけど、もしかしたらラストで新戦士の変身まであるかも……という期待感が胸を熱くさせる。

 

 ……いいか、視聴前にSNSは絶対に見てはいけない。絶対にだ。

 そう自分に言い聞かせる。かつてトレンドでネタバレを食らったあの悲劇を繰り返してはならない。

 

 焦燥感で手に汗がにじむ。いっそ仮病でバイトを休んでしまえばよかった。

 だけどその手は先週も使っている。さすがに2週連続はなあ……という自制心がわたしをバイトへ行かせたのだった。


「いや、だってさあ。こんな神回が連続で来るなんて思わないじゃん!」

 

 わたしは自転車のペダルを力いっぱい漕ぎながら下り坂へと向かった。

 

 この坂の先には川沿いの道路へとつながる三叉路がある。

 その道路はときどきトラックも走る狭い道で、なるべくなら自転車で通りたくはない。だけどその道路を渡った先の土手の上に通るサイクリングコースが通勤に欠かせないルートなのだ。

 バイトで疲れた足に土手をのぼるエネルギーは残っていない。下り坂でためた勢いを使って一気にのぼってしまうのがベストだ。

 

 下り坂でぐんぐんスピードがあがっていく。

 道路につっこむ前にすばやく左右を確認、ヨシ!

 土手の上り坂に向かってハンドルをきり――

 

――パッ、パーーーーーー!!


 は?

 クラクションをけたたましく鳴らしたトラックが目の前に迫っていた。

 なにが安全確認ヨシだよわたしのばか!?

 今期パワプリを最終回まで観られずに終わる人生なんて嫌あーーー!

 

「ぐえっ!?」

 

 お腹に衝撃をうけて、喉からつぶれたカエルみたいな声が出た。

 わたしはトラックにひかれて、つぶれたカエルのようになってしまったんだろうか……。

 だけど体に痛みは感じない。恐る恐る目を開けてみると、わたしは空を飛んでいた。

 ぶらぶらと宙に浮いている足の下に、広々とした河川敷が見える。

 

「なんでっ!?」


 はるか下の地上に目を向けると、わたしが自転車でつっこんだトラックがとまっていた。まわりに人が集まって騒ぎになっているようだった。

 

「そっか……。わたし、トラックにひかれて死んじゃったんだ」


 霊体になって自分の死体を見る、なんて描写がどっかのマンガにあったっけ。あれって本当だったんだなあ。

 

「生きてるよ、おねーさん」


 すぐそばから女の子がくすくすと笑う声が聞こえた。

 

「だっ、誰!?」


 キョロキョロと首を動かしてみると、ひらひらしたうすピンク色のスカートが目に入った。その下から伸びている細い脚は可愛らしいデザインのニーソックスとファンシーな靴に飾られている。

 この肉付きの少ないまっすぐな脚の細さは小学生高学年女児のものに違いない。わたしは詳しいんだ。

 えっ、ってことは、わたし小学生女児に小脇にかかえられてるの? どういう状況?

 

「ごめんね、すぐ降ろすから。えーと、まわりに見えないように〈認識阻害〉をかけてっと」


 女児が妙なことをつぶやくと、体の周りが一瞬ぽわんと光った。

 河川敷が近づいてくる。ゆっくりと高度が下がっていた。やがて砂利の音がして、両足と両手が地面を捉える。

 

 手足が震えて力が入らない。立ち上がることができなかった。

 トラックにひかれて死にそうになった心理的ショックが地味にきいていたみたいだった。

 わたしはよつんばいになったまま、生まれたての子鹿のようにふるふると震えていた。

 

 女の子がわたしの正面に来て膝を折ってしゃがんだ。

 ……あ、この体勢だとスカートの中が見えそう。……ごくり。

 

「おねーさん」

「はいっ!?」

「怪我してない? 大丈夫?」

「あっ、はい、……たぶん」


 ああ、なんだ。パンツ覗こうとしたのを咎められたのかと思った。びっくりしたあ。

 わたしは足を崩して河川敷に座り込んだ。

 女の子はやたらとファンシーな洋服に身を包んでいて、まるで魔法少女のコスプレでもしているみたいだった。

 

「まひろ……?」

「え?」

 

 女の子がわたしの名前を呼んだ。

 その声に聞き覚えがあるような気がして、女の子の顔を見つめる。

 

 うそ……

 

 驚いて、声が出なかった。

 ちとせちゃんだ。

 10年前にいなくなったちとせちゃんが、10年前と変わらない姿で私の前に立っていた。

 

 ちとせちゃんがへらっと笑った。

 

「あ、ううん。そんなわけないよね。なんかおねーさん、あたしの友だちに似てる気がしてさー。……って、やばっ、はやくおうちに帰らなくちゃ! じゃあね、おねーさん。あたしのことは内緒にしてねっ」


 ちとせちゃんはわたしに向かってウインクをして、ふわりと空に浮かんだ。

 まちがいない。本当にちとせちゃんだ。

 

「まって……!」


 わたしが呼び止めようとしたときには、ちとせちゃんはもう空の上にいて、ふわふわと飛んでいってしまった。

 

 ……夢じゃないよね?

 ばくばくと心臓が鳴っている。どうしよう!

 ちとせちゃんがいた。ちとせちゃんが帰ってきた。

 そ、そうだ、ちとせちゃん、家に帰るって言ってなかった?


 わたしは震える手でスマホを取り出して、数個しかない連絡先の中から『居鶴百代いづるももよ』の名前を選んで電話をかけた。

 コール音がもどかしい。はやく、早く出て。

 通話が繋がった。スピーカーからももちゃんのクールな声が聞こえる。

 

『もしもし? まひろさ――』

「ももちゃん! た、たいへん! たいへんだよ! おおちついて、おちついて聞いてね! すー、はー、ああ、どうしよう!」

『……まず、まひろさんが落ち着いてください。なんです? まさか事故にでもあったんですか?』

「え? ああトラックにはねられそうにはなったけど――」

『は!? 無事ですか!? 病院、じゃ、なくて、きゅ、救急車っ、救急車を、119――!?』

「落ち着いてももちゃん! ぶつかりそうになっただけで、かすってもいないから」

『あ、はあ……それならそうと……。それで、何があったんです?』

「そっ、そうだった。あのね、ち、ちとせちゃんが!」

『千歳、姉さん……?』


 ももちゃんの声が、少し暗くなった。


「ちとせちゃんがいたんだよ!」

『姉さんが? ……どこにいたんですか?』

「あの、河川敷なんだけど、それが、その、空に飛んでっちゃったんだけど……あの、ちとせちゃんがちとせちゃんのままで、魔法少女でわたしを助けてくれて!」


 見たことをありのままに伝えたいのに、口から出てくるのは支離滅裂な言葉だった。

 ももちゃんがわたしを心配するような声で言う。


『まひろさん……いまどこにいるんですか? 迎えに行きますから――』

「だ、だめ! ももちゃんは家に居て! ちとせちゃんがいまそっちに向かってるから! っていうかいま家にいる!?」


 さっき、ちとせちゃんは家に帰るって言っていた。いまももちゃんが外出したら入れ違いになってしまう。


『……わかりました。まひろさん、家で待ってます。でも、通話は繋げたままで、家に着くまで切らないでくださいね』

「あ、うん。わかった」


 ももちゃんの声の調子がいつもより優しい。ももちゃんは、またわたしがおかしくなったと思っているみたいだ。

 でも、今回は本当なんだよ。本当にちとせちゃんに会ったんだよ。河川敷を歩きながら、大声でさけびたくなった。

 

『まひろさん? 聞こえていますか?』

「聞こえてるよ。大丈夫。あのね、本当なんだよ、ちとせちゃんが帰ってきたんだよ。ももちゃんも絶対びっくりするから」

『そうですか……』


 ももちゃんが沈んだような声で言った。

 本当なのに……!

 

 ……あれ? 本当だよね? 本当にあったよね?


 時間が経って頭が冷えてくると、さっきちとせちゃんに会ったことが夢だったみたいな気がしてきた。

 いやな汗がじっとりとうかんできた。

 わたしは、また夢と現実の区別がつかなくなっているんだろうか。

 

 ももちゃんの声が聞こえる。

 

『まひろさん……まひろさんは、まだ姉さんのことが――「ただいまー!」――うそっ、おねえちゃんっ!?――ガタッ、ゴッ――』


 一瞬、スピーカーの向こうからちとせちゃんの声が聞こえた。


「あ、ももちゃん? もしもし?」


 ももちゃんの返事はなかった。通話は繋がったままだけど、声はもう聞こえない。

 

 さっきの、ちとせちゃんの声だよね! やっぱり、ちとせちゃんは帰ってきたんだ! 夢じゃなかった!

 わたしはうれしくなって河川敷を走った。

 

 わたしの乗っていた自転車は、トラックにひかれてしまったらしくフレームがゆがんで使い物にならなくなっていた。

 

 気が急いていたので走って帰ろうとしたけど、一瞬で体力の限界が訪れてわたしはとぼとぼと歩いて家まで帰ることになった。

 帰る途中で、通話の繋がったままのスマホから、ももちゃんの涙ぐんだ声が聞こえてきた。

 

『まひろさん、おねえちゃんがっ……おねえちゃんが、帰ってきました……!』




 わたしは自分の家を素通りして、隣の居鶴家の扉を開いて玄関をあがった。

 リビングでは、さっき見たファンシーな格好に身を包んだちとせちゃんが、泣いて喜んでいる家族を前に困ったような顔をしていた。

 

「ちとせちゃん、おかえり」


 わたしが言うと、ちとせちゃんははっとした顔でわたしを見つめた。


「えっ、さっきのおねーさん!? ほんとうにまひろだったんだ!?」


 たたっと駆け寄って前に立ったちとせちゃんが、10年前の身長のままでわたしを見上げた。


「まひろがおとなになってる……。ほんとうに、10年経っちゃったんだ……」

「ちとせちゃんは変わんないね」

「あのねっ、まひろ、あたし異世界で魔王を倒してきたんだよ!」

「えっ、魔王? ああ、でもちとせちゃんならそれくらいできちゃいそう」

「えー? なに、そのリアクション。まひろならもっと驚いてくれると思ったのに」


 ちとせちゃんが不満そうに口をとがらせた。

 本当にちとせちゃんが帰ってきた。夢じゃないんだ。

 

「だって……ちとせちゃんが帰ってきたことがびっくりすぎて、他のことなんかどうでもよくなっちゃったんだもん……」


 10年前のままのちとせちゃんを見ていたら、わたしの目からぽろぽろと涙がこぼれてきた。


「まひろは大きくなってもあんまり変わんないね」


 床にへたりこんだわたしの頭を、ちとせちゃんが優しくなでてくれた。

 

 

 その夜、なかなか寝付けずに天井を見つめていると、窓をコンコンと叩く音が聞こえた。

 あ、なつかしい……。ちとせちゃんの合図だ。

 窓のむこうは、ちょうどちとせちゃんの部屋になっている。子供のころ、よくこうして合図しあってお話をしたものだった。

 

 わたしはカーテンを開いた。

 

「うわっ」


 ガラスを隔てたすぐ近くに、ちとせちゃんの顔があった。

 びっくりして転びそうになったけど、なんとかふみとどまって窓を開けた。

 変な光景だった。パジャマ姿のちとせちゃんが、足場もなにもない空中にふわふわと浮かんでいる。

 

「あはは、びっくりした?」

「び、びっくりしたよ。どうしたの、ちとせちゃん」

「久しぶりだったから、もっとまひろとお話したくて」

「ひさしぶりって……ちとせちゃんにとっては10日しか経ってないんでしょ?」

「10日もまひろと会えなかったんだもん。さみしかったよ」

「わ、わたしは、10年も会えなかったんだよ……」

「うん。ごめん。ねえ、まひろ、夜空の散歩しよ?」


 わたしはちとせちゃんに手を引かれて空を飛んだ。

 どういう原理なのか、ちとせちゃんと手をつないでいると、わたしの体まで重力を無視してふわふわと浮かぶのだった。

 

「わー、浮いてる! ちとせちゃん、これ魔法なの?」

「うん。異世界で使えるようになったんだ~。ほかにもね、火とか雷だしたり、隕石おとしたりもできるんだよ」

「へ、へえ~。すごいね。でも、隕石おとすのはやめてね……?」


 異世界がどんな世界だったのかは知らないけど、この地球で隕石降らせるのはやばい。ちとせちゃんが本気だしたら地球壊せちゃったりしそう……。

 それにしても、魔法かあ。さっき見たちとせちゃんのファンシーな格好といい、これじゃあまるで……。

 

「ちとせちゃん、なんだかパワプリみたい。あ、そうだ。ちょうどいまやってるシリーズでね、必殺技で隕石おとす子がいるんだよ。その子がすごくかっこよくって、いまのわたしのイチ推しなんだー」


 わたしが教えてあげると、ちとせちゃんは目を丸くしてわたしを見た。


「まひろ、大人になったのにパワプリみてるの?」


 ぐさり、心に棘がつきささった。息が止まりそうになる。


「ち、ちとせちゃん……パワプリはね、こどもだけに向けて作られたアニメじゃなくって……大人でも心をうたれるくらいストーリーが練られていてシリーズごとに一貫したテーマもあって考えさせられるしキャラデザはほんと毎度神がかってるし作画のクオリティも年々上がっていってアニメファンの期待を毎シリーズ上回ってくる国民的一大コンテンツなんだよ……! 大人が見るのは普通だから!」

「そ、そうなんだ。まひろ、パワプリ好きだったもんね。でも、そっか、よかった」


 ちとせちゃんがくすっと笑った。

 

「よかった、ってなにが?」

「だって、まひろは大人になっちゃったから。あたし、置いてかれちゃったんじゃないかとおもってちょっと不安だったんだよね。でも、まひろ全然変わってなくって、ほっとしちゃった」

「う、うん」


 変わってないことは、良いことなのかな……。

 わたしの現状を思うと、良いこととも言えないような気がする。

 だけど、ちとせちゃんが安心できるなら、別にいっか。

 

「ももちゃんにも、まひろのこと少し聞いたよ…………ねえ、まひろは……まだあたしのこと好き?」

「っ……」


 感情が、喉の奥にこみあげる。

 10年間、告げる相手のいなかった片想いが、わたしの中から溢れ出した。


「好きだよ! 大好き! わたし、ずっと……ずっとちとせちゃんだけが好き!」


 かあっと顔が熱くなる。

 22年間生きてきてはじめての告白は、むきになった小学生みたいで、みっともなくてかっこ悪いものになってしまった。

 ほんとは同じことを10年前に言いたかった。

 ……そっか、わたし、ちとせちゃんに好きって言ったことなかったんだ。

 

 ちとせちゃんは、くすっと大人っぽく笑った。

 

「まひろ、あたしたち結婚しよう」

「ち、ちとせちゃん!? け、けこん!?」

「そう。結婚。おかーさんに聞いたらね、あたし、戸籍上はまひろとおんなじ22歳なんだって。だから自分の意思で結婚できるんだよ」


 そうなの? 確かにその歳なら法律上は結婚できるけど! でも、ちとせちゃんはどう見てもこどもなのに!? 結婚なんてして良いの!?


「おとなになるまで待たなくていいなんて、得しちゃったみたい」

「で、でも、ちとせちゃん――」


 うろたえるわたしの唇に、ちとせちゃんの人差し指が触れる。


「まひろは、あたしと結婚したくない?」

「し、したい……です……」

「うれしい! まひろっ」


 ちとせちゃんの顔が近づいてきた。


「あっ、ちとせちゃ――」


 神埼万尋22歳、ファーストキスは空を飛んでるみたいにふわふわでした……。

 いや、実際、空は飛んでたんですけど。

 

 

 ★☆★☆★

 

 そのころ、川に落ちた小さな影が、息も絶え絶えになりながら浅瀬へとたどり着いていた。

 

「けほっ、けほっ……危うく溺れ死ぬところじゃった……。おのれ、勇者め……。きさまに破壊された魔王城のうらみ、この世界ではらしてくれようぞ……!」



つづく?

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幼いころ突然いなくなった幼馴染みが10年後に帰ってきた。異世界から。 ささみし @sasamishi

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