邂逅

「ウチのシマで女を食い物にしているクズどもがいる」


 戸神の街を仕切っている横山組。

 雑居ビルの一室が拠点だ。

 鋭い眼光の年配の男性がソファに座り、その周りを何十人かの組員たちが囲っている。横山組の組長オヤジだ。

 その組長オヤジは静かな怒気を発していた。

 いや、オヤジなんて言ってはいけない。

 オレは組員でも何でもなく、ただのお手伝いだ。


 組とは関係ないオレですら知っている。

 組長は普段、温和で優しいおじいちゃん。素人さんには絶対に手を出さない。薬物の売買や弱い者をターゲットにするようなヤツを街から追い出す昔気質むかしかたぎのひとだ。大規模な組織の後ろ盾もなしに、組単独でよくやっていけるなと思う。


 そんな組長が激怒している。

 女性に甘い言葉で近づき、その後暴力で支配して身体で金を稼がせる、いわゆる管理売春をしているヤツらが戸神の街にいるらしい。その「自主的な取り締まり」にオレも駆り出されたのだ。

 オレはただの風俗店の従業員。皆さんのお邪魔にならないようにお手伝いだ。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 オレは、若頭カシラの康夫さんたちと一緒に、フルスモークのワンボックスに揺られながらとある倉庫へ向かっていた。

 車の中は、一騎当千の強者つわものばかり五人が乗っている。


「おい」

「は、はい!」

「最悪の時は自分で自分の身を守れ、いいな」


 強者さんのひとりから特殊警棒を借りた。

 えー、これが必要な場合があるんですかぁ……

 真っ青になるオレに手を差し出す他の強者さん。

 パッと手を開くと、ミルクキャンディがあった。


「甘いものでも食べて、緊張をほぐしときな」


 にっこり優しく微笑む強者さん。みんなもケラケラ笑っている。

 うーん、皆さんお茶目だな。これから殴り込みに行くひとたちとは思えない……



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ブッ殺すぞ、ゴラァ!」


 港近くの倉庫の中から物騒な怒鳴り声が聞こえる。

 オレはひとりで、倉庫の外で見張り役。怖いよぉ~。

 み、皆さん、大丈夫なのかな……。

 康夫さん、オレを見放さないでねぇ~。


 結局、康夫さんと強者さんたち五人の計六人で十人をシメたらしい。

 相手は全員結束バンドで拘束済み。すげぇな……

 女の子も何人か監禁されていて、全員保護した。良かった!


 この後、この男たちは、女性が味わったであろう屈辱と苦痛以上のお仕置き拷問をされるらしい。


 「大丈夫、殺さないよ。だって、死んだら痛くねぇじゃん」


 強者さんのお言葉である。

 このひとたちも普段は優しいが、本気で怒るとこうなる。


「おい、金髪。もう一軒行くぞ」


 飲み会の二次会のノリですか?

 若頭カシラのお声がけをもちろん断ることはできず、強者さんふたりと共に、そのままワンボックスで移動。特殊警棒は、ご厚意でもらっちゃいました。


 辿り着いたのは、住宅地から少し離れた場所にあるアパート。


「ここだ、おい」

「はい、只今」


 一階の部屋だ。中からは明かりが漏れているので、間違いなく誰かがいる。その部屋の扉をピッキングで解錠しようとする強者さんのひとり。


 ……カチャリ


「開きました」

「よし、行くぞ」


 康夫さんの一言で、扉が勢い良く開けられる。


 バンッ


 中には、若い男と下着姿の女の子がいた。

 オレたちに驚き、身動きひとつ取れないふたり。


「お前が最後のひとりだ。お仲間は全員拘束済み」


 若い男は真っ青になって震えている。


「ウチのシマで勝手なことするとどうなるか、たっぷり身体に教えてやる」


 康夫さんの言葉に、慌てて逃げ出そうとする若い男。

 逃げられるわけねぇじゃん。


「お、お願いです! 許してください、許してください!」


 取り押さえられた若い男の髪の毛を掴み、顔を上げさせた康夫さん。


「そのセリフ、涙ながらに叫んだ女たちを、お前たちは許したのか?」


 康夫さんも本気で怒ってる……

 若い男はその怒りを感じたのか、何も答えられなかった。


「……おい、連れて行け」


 泣き叫ぶ若い男の頭にズタ袋がかぶせられた。

 そのまま連れて行かれる男。こいつも倉庫でお仕置き拷問だ。

 強者さんたちのお仕置き拷問って、本気でヤバいらしい。

 だって、『もう殺してください!』って言葉が出るらしいからね。


 下着姿の女の子は、きょとんとしている。

 下品なスケスケの下着を着させられているこの女の子も、間違いなく被害者だろう。オレは慌てて上着脱ぎ、彼女の肩にかけた。


「大丈夫ですか?」


 それが真奈美との出会いだった。



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