記憶
「こんな子、産まなきゃ良かった!」
私は覚えている。
お母さんが私に言った最後の言葉。
手をつなごうとした私の手を強く払ったお母さん。
手をつないでほしかった。私の手を離さないでほしかった。
でも、お母さんはもう私の顔すら見てくれなくなった。
私は覚えている。
幼い頃は幸せだった。
お父さんも、お母さんも、私に暖かい笑顔を向けてくれていた。
それが徐々に暗い顔へと変わっていく。
ある日、ふたりに病院へ連れて行かれた。
そして、最後の言葉を言われた。
私は覚えている。
近所の子たちとは違う学校に通った。
お友だちも出来たし、楽しかった。
でも、家に帰るとお母さんはいつも泣いていた。
お父さんはあまり家には帰ってこなくなった。
(全部私のせいだ)
そんな思いが心に渦巻き、苦しくて、苦しくて、苦しくて。
胸の痛みに我慢できず、私は床にうずくまる。
それでも、私にはどうすればいいのか分からなかった。
私は覚えている。
私がいるからお母さんは泣き、お父さんは帰ってこない。
だから、私が家から出ていけばいいんだ。
家を飛び出し、夜の街をただ彷徨う。
「キミ、カワイイね! どこか遊びに行こうよ!」
私に声をかけてきた男性。
それがマサシとの出会いだった。
私に優してくれるマサシ。
マサシが喜んでくれるならと、マサシの求めに応じてその日のうちに初めてを捧げた。
私は覚えている。
マサシと出会ってから一週間。
私は、マサシと暮らし始めていた。
「なぁ、真奈美も誰かを笑顔にさせたくないか?」
私が誰かを笑顔に? そんなことできるの?
マサシは優しい笑顔で頷いた。
「おにいさん、わたしとあそびませんか?」
マサシに教わったセリフを街行く男性に投げかける。
そして、お金をもらってエッチする。
気持ち悪いし、そんなことしたくないけど、男性は大喜び!
笑顔を私に向けてくれるし、とっても優しくしてくれる!
お金を持って帰れば、マサシも喜んでくれる!
(私にも誰かを笑顔にすることができる!)
そんな思いが心に溢れ、とっても嬉しかった。
マサシも応援してくれている。
だから私も頑張ろうと思った。
私は覚えている。
マサシと出会って三ヶ月。
「なんでこれしか稼ぎがねぇんだよ!」
いつしかマサシは、私に笑顔を向けてくれなくなった。
私はマサシに殴られ、蹴られ、毎日嫌々街角に立っていた。
(もうこんなことしたくない)
でも、私にはどうすればいいのか分からなかった。
私は覚えている。
マサシと出会って四ヶ月になろうとする頃だった。
バンッ
マサシの部屋に数人の男性が押し掛けてきて、部屋の中に入り込んできた。私も、マサシも、突然のことに驚き、身動き一つ取れない。
「お前が最後のひとりだ。お仲間は全員拘束済み」
マサシは真っ青になって震えている。
「ウチのシマで勝手なことするとどうなるか、たっぷり身体に教えてやる」
慌てて逃げ出そうとするマサシを取り押さえる男性たち。
「お、お願いです! 許してください、許してください!」
そんなマサシの髪の毛を掴み、顔を上げさせた男性。
「そのセリフ、涙ながらに叫んだ女たちを、お前たちは許したのか?……おい、連れて行け」
泣き叫ぶマサシは、頭に汚れた袋をかぶせられて、そのままどこかへと連れて行かれてしまった。
それがマサシを見た最後の姿だった。
「大丈夫ですか?」
私を暖かな空気が包む。
マサシの命令で、下着姿で暮らしていた私。
そんな私に上着をかけてくれた男性。
それが金髪の兄ちゃんとの出会いだった。
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