【KAC20245】約束

破滅

　結局、オレには執行猶予がついた。即実刑にならなかったのは、間違いなく真奈美のおかげだ。

　田舎の母へ前科持ちになったことを告げたが、理由も聞いてくれて「何かあったらいつでも帰ってこい」と言ってくれた。寛大な母に心から感謝。

　その真奈美は、店の寮で心を休ませており、時折尚美姉さんが様子を見に行ってくれている。証言直後は、尚美姉さんの問いかけにも答えられないような状態だったが、ここ最近は笑顔を見せるようになったとのこと。本当に良かった。

　オレも真奈美と会いたいけど、姉さんから待つように言われている。今の状況を考えたら仕方ない。真奈美の笑顔、オレも見たいな。

　あの裁判、真奈美の証言を各社が報道。弱者を標的にした性的虐待と補助金の悪用に、日本中が大騒ぎとなった。

　さらに、真奈美に守られた女の子たちとその親御さんが桃山建設と社長個人に対して刑事告訴。警察による本格的な捜査が始まった。

　その結果、「顧客名簿」のデータが見つかり、建設会社による売春クラブの存在が明らかに。名簿の情報と真奈美の証言との整合も取れ、真奈美の証言の信頼性の高さも認められた。その名簿に掲載されていたのは、裁判の原告だった市会議員や市役所職員、建設資材関連会社の役員、学校の教師など計三十八名。安価で買春させる見返りに、様々な便宜を桃山建設に図っていた。

　その時に撮影したと思われる映像も数多く残っていたとのことで、重要な証拠のひとつとして扱われている。今のところ、その映像のネットへの流出は確認されていない。

「あっ！　只今田村議員が自宅から出てきました！　田村議員、売春クラブを利用していたのは間違いないでしょうか！」

「し、知らん！　ノーコメントだ！」

「補助金の増額や悪用についても主導されていたと！」

「そんなわけないだろう！　これは誰かの罠だ！　どきたまえ！」

「証拠が次々と出てきています！　議員の辞職は！」

「なぜ私が辞めなければいけない！　どけ！　ワシは田村だぞ！」

　こんな映像がニュース番組を中心に、ひっきりなしに放映されていた。

　なお『ワシは田村だぞ！』は、ネット上で大流行することとなる。

　ちなみにこの後、田村議員は汚職で逮捕。

　顧客名簿にも名前があったことで、一家は離散。

　息子と娘の人生をも狂わせることになり、誰も面会に来ない拘置所の中で、自分の行動を後悔しているようだ。

　それ以外の「顧客」も次々に逮捕。

　海外でも大きく報じられ、ネット上では『日本の恥』として逮捕者やその関係者・関係企業がまとめられていき、関係企業として名前が上がった企業の株価が急落するなど、経済も巻き込んで大騒ぎとなった。

　桃山建設も今回の件で金融機関からの融資が停止。障がい者支援団体による連日の抗議活動など、業務の継続が困難となった。企業売却も検討したようだが、火中の栗を拾う企業はなく、資金繰りに行き詰まり、結局倒産。数多くの逮捕者を出すと共に、数百人の従業員が路頭に迷う羽目になった。

　幸い真奈美に関する報道は一切なく、彼女が苦しむようなことはなかった。今回はその事件性から、被害者に関する情報は報道しないように各社で取り決めていたようだ。

　あとは真奈美が元気になってくれれば、言うことなし！

　尚美姉さんとふたりで、あの笑顔を見られることを楽しみにしていた。

　でも、オレに待っていたのは真奈美との別れだった――