【KAC20245】はなさないで

龍軒治政墫

はなさないで

 私は怪盗。怪盗さな。

 今日は先輩の怪盗と、とある研究所へ盗みに入る。

 合流場所へ行くと、その先輩がいた。


 彼女の名は、はな。

 かっこよくて華麗に盗む、憧れの先輩。

 今日は一緒に盗みが出来るということで、ちょっと緊張してる。


「来たね、さな。私との距離を離さないでついてきて」

「はい、先輩」




 そして研究所へ侵入した。

 薄暗い通路を進んでいると、突き当たりの壁に映って動く人影が。

 不審者だ!


「せ――」

 はな先輩に呼びかけようとしたら、はな先輩が振り返って唇に人差し指を当てた。


(話さないで)


 はな先輩は、そう示した。

 幸い、私たちは読唇術で口パクも会話が出来る。


『先輩。あれ誰ですか? 研究者? 警備員?』

『今晩は無人のはず。同業者かもしれない』

『どうしますか?』

『とっ捕まえる』

『え?』

『協力しそうなら仲間に。そうでなければ、気絶させて犯人役に』


 私たちは、突き当たりの手前までそっと移動。相手はまだ気付いていない。


『捕まえたら、放さないで』

『はい』

『3、2、1……』


 私はその不審者に飛びかかって捕らえた。相手は全く抵抗しない。

 不審者を見てやると、エプロンをしたパンチパーマのおばちゃんだった。


「え?」

 私は思わず声が出る。


「この人は……伝説の怪盗、いでさん」

 はな先輩が驚いた表情でそう言う。ただのおばちゃんにしか見えないけど。

 でもはな先輩が言うのなら間違いない。


「いでさん、手伝ってくれますか?」

 はな先輩が訊くと、いでさんはうなずいた。




 はな、さな、いでさんの三人で奥へ進む。いでさんが先頭。見た目に反して、動きは軽快。さすが伝説だ。


 そして目的の部屋についた。

 いい香りの部屋の真ん中には、箱が一つ。

 この中には、今回の獲物である黄色いスイートピーがあるはず。

 今は染めないと出来ない黄色いスイートピー。それが完成したらしい。


 いでさんが箱の前に座り、そっと開ける。

 しかし、中はからっぽだった。


 いでさんがポツリとつぶやく。

「はなさ、ないで」

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