第14話 かっこよく言うと、ふたつの世界が交わる。かな。

 お昼を食べてから向かったのは図書室。

 過疎過疎の図書室は毎週火曜日、図書委員ですらいなくなる。服を脱いでやろうかなんて考えたのも片手の数じゃ足りない。

 マンモス校のこの学校においてどこにいても1人になることは難しい。


 ほら、誰もいない。露出狂の味方だな、まぁでも、誰か来るってスリルが無いから敵かもな。


 火曜日の図書室は俺の聖域だ。

 誰であろうと汚すことは許されない。不届き者を見つけ次第、俺の裏の顔を見せることになるかもな。この封印されし━━━


(ガチャっ)


 俺は気配を消した。親父直伝、一家相伝の隠密術だ。基本のきの、抜き足差し足忍び足で本棚に身を隠す。うぃぃ、こういうの久しぶりでちょっとテンション上がってきたァ!


 が、正直信頼が薄い。この前はリンゴ先輩に気取られたし、いつの間にか俺の影は濃くなってるんじゃないかなと、密かに期待してる。

 なんせ俺は━━。っと、どこのどいつだ?俺の聖域を汚す輩は…。



(ズドォォォン!!)


 衝撃のちに硬直。脳天に稲妻が落ちた。



 扉を開けて入ってきたのは野田君だった。


 ようこそ俺の聖域へ歓迎します。少々散らかった部屋ですが、どうぞどうぞ。



 よく来てるのか、迷いなく歩いてく。


 立ち止まったのは一番下の段だけ丸々なにも本が入ってない角の本棚。


 誰かが勝手に本を持ち込んで並べては図書委員に回収されてを繰り返してるからいつしか、古本回収棚と俺は呼んでる。

 実は俺も読書感想文のために買った本をあそこに置いたことがあったりする。


 正直やっちゃいけないことだけど、その本が文芸の棚に並べられてるのを見ていい事をしたと思ってる。お世話になってる学校に寄付したってことでいいんじゃないでしょうか。



 なんて考えてたら、ドサッとなにかずっしりと簸た重いものが置かれたような音が聞こえた。

 気づけば空いてた本棚にはズラーっと10冊くらい並んでた。


 野田君も利用者だったか。それにしてもどんな本を読んでるのか気になる。

 ぜひとも今後の共通の話題にしたいものだな。


 それはそうとやはりアイテムポックス的なのを持ってたな。体操服の件でそうじゃないかと予想してた。


 光らないってことはアイテムボックス(仮)はパッシブスキルだな。


 光ったらパッシブ、光らなかったらアクティブ。もうこの推測は間違ってないと思って考えてる。



 野田君はこれで帰るか?このままやり過ごして確認するか。



「図書委員の人ですか?」

(ビクンっ)


 脳天に稲妻が落ちた。


 またしても俺の隠密が破られた。というかこれは魔法の類いだろ。今回はガチで隠れたからな、人間に見つかる隠れ方はしてない。


 ともかく見つかった以上、接触は避けられない。


 口の乾き、喉の開きを確認して、声量のシミュレーションをしてから喉を鳴らす。




(こ、こほんっ)


「違う。拙者は利用者」

 ぐわぁぁぁ!めっちゃぶっきらぼうな態度!


「君は忍(しのび)…忍(しのび)だよね。驚いたな、初めて声を聞いたよ」


 はぁ、これはもう来ちゃってるよね!高校生活初の会話が野田君だんだけどぉぉぉ!運命じゃん。こんなの運命でしょ。


 それに野田君の驚いた顔も見れたし、今日は最高の日だ。驚いた顔が頭から離れない。


「図書室にはよく来るの?」


 会話も2文目に突入。もしかして俺に興味あるんじゃない?考えすぎじゃないよね?てゆーか目が合ってるんですけどぉぉぉ!

 逸らしてなるものか。そもそも逸らせないっつーの。目が釘付けってやつ?


「今日が初めて」


 口が勝手に動く。なぜ嘘をつくのか俺にもわからない。


「そうなんだ、なんか忍(しのび)と話すの新鮮。

 クラスでも話してるの見たこと無かったから」


 それはそうだろう。


「今日初めて学校で声出した」


 入学から半年以上、みなさんお気づきかもしれませんが、教室に俺の居場所はありません。

 そんな俺に会話をする相手が学校にいるはずもなく、こうして今日まで誰かと話す機会がありませんでした。


「ほんとに?逆に大変じゃない?話し相手くらいなるよ?」


 笑顔が尊い。は?優しいかよ。断る理由ないんだが?地球が壊れるとしても断る理由ないんだが?孤独な俺に差し伸べられた手。


「是非是非」


「あはっ、是非是非ってニンニンみたいで忍(しのび)っぽくていいね。ニンニンっ」


 は?最高かよ。最高なんだが?そのポーズ最高すぎるんだが?忍(しのび)が報われた。


「おっと、もう行かないと。また話そうね」


 楽しい時間はあっという間に過ぎていく。そんなの都市伝説かと思ってたけど、この身で実感した。体感数秒だった。

 それなのに脳裏に焼き付いた野田君の表情。


 こんな学校生活楽しすぎるぞ。もっと話したい、もっと仲良くなりたい。


 今の一瞬でなんか距離がぐんぐん近づいた気がする。



 本棚をチラ見したら『手ぶらでサバイバルI』〜『手ぶらでサバイバルX』の10巻が並んでた。


 自由研究であれだけのことをやったんだ。もしかしたら予習してたとか普通にありえる。

 魔法を手に入れたからもう必要ないってことかな。


 仲良くなっていずれはキャンプとかあり?ありだわ。

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