第12話 テンプレ通りの展開に驚くも相手はそれを上回った。
おかしい。今日俺は寝坊した。
この半年、夏休みも含めて1度だって起床時間が狂ったことなんて無かった。
人間観察なんてしてる暇もなく電車を降りてから学校まで走った。嫌だな、まだ残暑もあって走れば汗をかく、朝から汗まみれになるのは気分が悪い。
それでも、他の手段が無いから走らざるをえない。
俺の趣味は人間観察。だからこそ道を歩けばすれ違う人を見るし追い越す人も見る。
十字路ではカーブミラーを見て確認してから渡るからありえないんだ、こんなことは。
「いっけなぁ〜いっ。ひこくひこくぅ〜」
原因は光の反射だった。カーブミラーの1部が反射してモザイクになっていたところに人がいたのを、俺は見逃した。
そしてまさか…パンを咥えた生徒とぶつかるなんて、頭がおかしくなりそうだ。
朝から異常の連続。俺には避けることができない、定められた因果に囚われた哀れな人間。
神がサイコロを振れば世界は歪む。
不調和による調和。
「いたたたたっ…ちょっとどこ見て歩いてるんですの?このワタクシとぶつかって余生を平穏に過ごせるとお思い?」
なんとも奇妙、ミスマッチのアンマッチ。
あんこにジャムのような不協和音。合うかどうかなんて知らない。ただ、混ざらないなという個人の感想。
金髪碧目の外国人がお嬢様口調。
「あら、その制服。
こほんっ。ごめんあそばせ!
ワタクシ、イギィリスから参りました転校生でございますわ。
このシチュエーションから察するに、あなたは1年1組の生徒ですわね、教室に入ってお互い指を指すなんてはしたないことはお互いやめましょうか、これからどうぞよろしくですわ。
それよりもこちらをどうぞ、ワタクシったらあなたの服にジャムを塗ってしまいましたわ。お恥ずかしい限りで、取れない場合はこちらにご連絡くださいまし、全身全霊で対処させてもらいますわ。おーほっほっほっほっほ。
あらいけない、急がなければお遅刻ですわぁ」
高笑いをしながら走り去ってく。
まさか俺は主人公なのか…いや、人は誰しも人生の主人公か。
ひとまず俺も遅刻ギリギリだ、急いで教室まで走ろう。
シワひとつ無いシルクのハンカチでジャムを拭き取るのは忍びないので指ですくって舐めとる。
勘違いしないでもらおうか、けっして関節キスを狙った行為なんてものではないと。
これも紳士の嗜みですわ。
おーほっほっほっふっふっふっふっふっ。
なかなか走りやすい呼吸法だな。ほっほっほっで吸ってふっふっふっふっふっで吐く。
主人公というのは全ての行動を糧に成長するんです。
拝啓昨日の俺へ。俺は今、立派に主人公やってますよほっほっほっ。
これも神が与えた試練というやつか。
いつかは魔法と渡り合える力をこの手に。
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前話登場の組長を軍曹に変えました。
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