第6話 外面がいい人は人との距離感がうまい。
趣味は暇つぶしの為非ず。
家から学校まで30分。予鈴の1時間前に家を出て25分で学校の近くに到着する。
それから30分、学校の周りを歩いて人間観察をする。
登校時の表情、姿勢、歩幅、人数。横断歩道の無い所での道路の渡り方、自転車のサドルの高さに目線の動き。赤信号に対しての認識。
そしてたまに出くわす事故への関心。
俺の人間観察による最終的な目標は性格の分析。その人の根幹を視る力。
第一印象にどれほど引っ張られるのか。
普段1人で登校する時は周囲に配慮した歩き方をしても、友達と歩くとなると周囲への配慮が途端に薄くなる人。
大きな声で会話しながらも後ろからの自転車に気づいて端に寄るように声掛けをする人。
その人の在り方を視る力が欲しい。
巨匠だ。
巨匠は普段、白い線の内側を歩く事に異常に執着してる。電柱がある時は半身になってなんとか通過するくらいだ。
それでも対向者が来た場合はすっと白線から出て避ける。
やはり独自の自分の世界を持っているが、他人への気遣いを心がけている。
あんまり人に目を向けることは無いが散歩してる犬とすれ違う時は目で追っている。
結論としては、我が強いが心穏やかで犬好き。
独自に制作した脳内ネットワークに検索をかけると、こういう人は主張が苦手で、人との関わりを持ちたいけどそれを表現することが上手く出来ないタイプ。
統計を信用してるわけじゃないがデータとして残す以上、結果を導き出したいのが性ってやつだ。
巨匠に関しては第一印象から変わってない。
クラスで初めて見た時から変化が無い。この環境に慣れてからの変化に期待。
と、そうこうしてると対向者だ。
歩きタバコをしてる兄ちゃんだが…おっと、避けない。これは初めてのパターンだ。
今までは老若男女問わず避けていたが、原因は恐らく歩きタバコか。
恐らく自分の中にある善悪に対して強い拘りを持っているとみた。
なんだ、他にはどんな人を避けないんだ。気になるけど、学校に着いちゃったか。
別の道を通って学校から離れる。
シマちゃんだ。
シマちゃんは普段、変なリズムで歩いている。歩幅もその時その時で変わるし腕を大きく振ったりしてる。
恐らく頭の中で曲が流れてるんだろうと予想してる。それに体が反応して動いちゃってると。
そしてこの学校で誰よりも動物に反応するのがシマちゃんの特徴。
電線で一休みして鳴いてる鳥、散歩してる犬、塀の上を歩く猫、そのどれもに反応し近づく。
そして威嚇され逃げられる。とにかくあらゆる動物から嫌われている。
恐らく自分よりもかわいい生き物に嫉妬してしまったのだろう。
現に犬と散歩していた飼い主はしゃがみこんで犬を触ろうとしているシマちゃんを穏やかな眼差しで見てたからな。
それに気づいた犬はさらに声を荒らげてた。犬からしたらたまったもんじゃない。いつも自分を見る目で他の生物を見ているんだから心配するのも当然だ。
そして嫌われていても構わず触りに行く神経。
そんなシマちゃんは好奇心旺盛で自分を前面に押し出し相手の心に入り込むことに躊躇いが無い。
持って生まれた愛嬌のゴリ押しが為せる技だ。
正直怖い。長年培ってきた経験はシマちゃんの表面しか捉えられてない。
もし万が一、シマちゃんに裏があったのなら自信を無くす自信がある。
計算された可愛さなのだとしたら俺は戦慄してしまう。
節穴の証明。
だからこそ目を背けてはいけない、逃げてはいけない、見続けることで絶対の矜恃を持つ。
恋は盲目、高校生活で俺が恋をすることは決してありえないだろう。
関係ないけど、あの日から野田君の登下校姿を1度も見てない。十中八九、転移してる。
その現場を突き止めたい。
普段ポロポロ、ボロを出すのに転移だけは徹底してる。
詠唱を聞かれたくないのか、ポーズを見られたくないのか。
別に弱み握って近づこうなんて邪な考えは一切無いからね、そこだけは信じてほしい。俺の眼球に賭けて。
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