第4話 野田君の考えてることなら当然なんでもわかるよ。

 ズバリっ!あの人は風紀委員だっ!


 誰だか知らないけど風紀委員って腕章をつけてるからもう一度大きな声で言おう。


 あの人は風紀委員だっ!



 それにしても風紀委員がどうして野田君と一緒にいるんだ。俺いるところに野田君ありなはずなのに、最近野田君が誰かといる所をよく見る。


 くそぅ、校舎裏で2人きりなんて…なんてそそられるシチュエーションなんだ!


 遠くて話し声が聞こえないな、もう少し…もう少しだけ近づきたい。



 そそくさと木の影を進んで声が聞こえるくらいまで近づく。



「ワンっ」


 っ!?まさか風紀委員の権限で野田君に犬の真似をさせて……るわけないよね。普通に犬が吠えてただけでした。


 学校で犬なんて初めて見た。最近じゃ野良犬も野良猫もすっかり見なくなったのに。



 しゃがみこんで犬を撫でてる野田君を風紀委員は腕を組んで見下ろしてる。

 あんまり和やかな空気じゃないな。

 それにしても優しい撫で方だ、心の優しさが所作に出ちゃってるよ、もう。

 野田君に撫でられるなんて幸せ者だな。

 当然、いつかは俺だってあんなふうに。さらにはそんなことまでやってもらうビジョンが見えてるんだからねっ。



「学校内への犬の持ち込みは許されていないぞ」


 ふん、なによあの高圧的な態度、あんたに野田君のなにが分かるっていうのよ。

 それよりも野田君の上目遣いは貴重。メモメモ、脳内に刷り込んでおかないと。


「この子は迷い込んだんですよ。多分そこの金網の穴からですかね」


 そう言って指をさす先の金網にはサッカーボールくらいの大きさの穴が空いてた。

 確かにあの大きさなら入って来れそう。

 振り返った風紀委員はその事実に驚きを隠せないようだった。


「ま、まさか…。毎日、朝と昼と夕の3回敷地内を巡回しているというのにこんな大きな見落としをしていたなんて……勝手にやれせてもらってる立場として不甲斐無さすぎる。

 こんな節穴な風紀委員を誰が必要としてくれようか。なんたる失態、これでは校長に顔見せできない」


 そんな大袈裟な。真面目か。


「そんな大袈裟な。真面目ですか」


 か、かかかかかかか、被った。野田君と同じ言葉を喋ってしまった。シンクロニシティ、心が通じあってる!?

 今日から口癖にしよう。



「いや、そうだな。

 過ぎてしまったことはどうすることもできない。必要なのは、ならどうするか。だな」


 自己完結して自分の世界に入り込んでしまった。


「話しを戻してもいいですか?

 この子、金網に体引っ掛けて怪我しちゃってるんですよ。それでどうにかできることは無いかなって」

「そうか。そうだな。ほんとだ、怪我してるじゃないか!早く保健室に連れてってあげなければ!」

「ちょ、ちょっと落ち着いてください、かなり空回りしてますよ。

 保健室の先生は獣医さんじゃないですから」

「ならどうするべきか……くそぅ、融通の効かないこの頭が嘆かわしい!風紀委員長のような臨機応変さに憧れて副委員長になったというのに全く成長してないではないか……くっ」


 この人あれか、堅物か。真面目か。


 と、脳内で分析してたらなにやら野田君の表情に変化が。

 なにを考えてる?なんのために野田君を観察してきたんだ俺。表情から読み取れるだろ、その程度のものなのか!なんのために目が付いてんだ!



 はっ!読み取れましたよ野田君。


 なるほど、そういうことなら俺にしかできないな。野田君の役に立てるなら俺はなんだってするよ。


 手持ちのビニール袋から中身を取り出して空のビニール袋を膨らませる。

 空気が漏れないようにビニール袋の口を絞って……叩く!


(パァァァンっ!!)


「「!?」」


 もちろんこれに反応する2人を他所に俺は物陰から走り出す。しっかりと風紀委員の視界に入るように、追いつけそうな速度で。


 少し振り返ってみれば、風紀委員は虎のようなするどい眼光で俺を睨みつけて気持ちのいいスタートを決める。

 さすがだ、綺麗なフォーム?正確なフォーム?

 腕の角度はビシッと90度、膝はへその位置まで上げて走る、見事なフォームだ。

 動きの硬さは性格に比例してるのかね。


 その堅物フォームは予想外に速い。運動不足の俺には荷が重かったか、それでも昇降口まで来れればいいだろうか。


(ズザッ)

「うぉっとぉ〜!すまないっ!でぶへっ」


 風紀委員に背中を捕まれたがバランスを崩したのかステンっと俺を下敷きにして転んだ。


「つっ、かまえたっ。

 なんなんだお前はっ!って…誰だ」


 いてて。

(タラリ)


 うおっ、おでこから血が…擦りむいちゃったか。



「ち、血が出ているじゃないか!頭部出血だとぉ!?大変だ、救急車!いや、保健体育の授業を思い出せ、応急処置として回復体位を!待て待て本職の人に頼もう!保健室の先生ぃぃ!!今から患者を運びま〜す!!」


 そんな大袈裟な。


 そのまま俺は抱き抱えられて保健室に連れていかれた。決して廊下を歩かない風紀委員、ここまで徹底してるとなると尊敬ですよ。


 まぁでも、役目は終えたよね。

 そうでしょ野田君。回復スキル使いたかったんだよね。俺には伝わった。



(ガラガラっバタンっ!)


「先生がいない!どう処置をすれば…」


 ブォンブォンと抱えられながら右往左往する。


 なんか、気持ち悪くなってきた。うへぇ。





 ん、んむぁ…なにか体全体が暖かい。寝てたのか。


 光が眩しくて良く見えないけど誰だろう。誰かの後ろ姿が、あ〜、ぼやけててよく分からない。

 あ、行っちゃった。


 野田君だと嬉しいな、ありえないけど。そう思っておこう、その方が健康に良い。



 って、異様に左手が暖かいと思ったらあんたかい!


 風紀委員が俺の左手を握りしめてた。結構時間が経ってたのかベッドに頭を預けてぐっすり眠ってる。


「んん〜、風紀委員長…いつも迷惑かけてばかりで…すみません…んん〜」


 真面目か!

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