わたしの異世界お兄ちゃん!

帝国妖異対策局

ラピス

 わたしの名前はラピスだよ。


 わたしを生んでくれたお母さんはラミア族だけど、お父さんは人間だったの。


 本当のお父さんとお母さんは魔族ぐんに殺されちゃったけど、今はごえいかんフワデラで、シンイチパパとライラママと一緒に暮らしてるよ。


「ラピスちゃん、おはよう!」


 わたしが食堂に行くと、タカツカンチョーが笑顔で迎えてくれたの。カンチョーは大人なのに、シンイチパパの力でわたしと同じ子供になってるんだって。


「カンチョー! おはようございます!」


 わたしが元気よく挨拶すると、カンチョーは嬉しそうに頭を撫でてくれたよ。


「おはよう、ラピス! ママは?」


 先に食堂に来ていたシンイチパパが、わたしを抱き上げながら、そう聞いてきたの。ちょうどそのとき、ママが少し疲れた顔で歩いてきてた。


「ごめんなさい、少し寝坊してしまいました」


 近頃ママはとても忙しいみたいなの。


 毎日、おっぱいの大きなヒラノさんから、テイコクという世界について色々と教わっているって言ってた。


「ママ、大丈夫? 今日は休んだら?」


 わたしがそう言うと、ママは首を横に振ったの。


「ラピス、ありがとう。でもママは平気よ。こうしてラピスと一緒にいられるだけで、ママは元気になれるもの」


 そう言うとママがわたしをギュッと抱きしめてくれたの。


 タカツカンチョーと同じく、ママもシンイチパパの不思議な力で子供の姿になってるよ。本当はとっても大きな怪我をしてるから、今は元の姿に戻れないってパパが言ってた。


 わたし、元の姿のママをみたことないの。


 朝食の後は、パパとママと一緒に護衛艦内を散歩します。乗組員のみんなは、いつもラピスに優しく声をかけてくれるよ!


「ラピス、今日もカワイイね!」

「ラピスちゃん、後で一緒に遊ぼうよ!」

「ラピスちゃん! ハスハス!」


 最後の人が声を掛けて来た時は、シンイチパパがわたしをサッと後ろに隠したよ。


 フワーデお姉ちゃんが、わたしって艦内のあいどるなんだよって言ってた。今はフワーデお姉ちゃんのあいどるぐるーぷに、わたしも入ってるよ!


 お昼ご飯の後は、パパに勉強を教えてもらいます。パパは頭がいいから、難しいことでもわかりやすく教えてくれるの。

 

 勉強が終わると、今度はママと一緒にお絵かきタイム。ママは絵がとっても上手なんだよ!


 ママと一緒に絵を描いていると、時間がたつのを忘れちゃうの!


 夜は三人で夕食を食べて、一緒にお風呂に入って、絵本を読んでもらって寝るの。


「おやすみパパ、ママ、大好きだよ」

「おやすみ。わたしもラピスが大好きよ」

「おやすみラピス、愛しているよ」


 パパとママに両側からキスされて、今日もわたしは幸せな気持ちでいっぱいになって、眠っちゃった。


 パパとママと一緒に暮らせて、わたしは世界で一番幸せな子供だと思うの。


 いつまでもこの時間が続けばいいのに。



~ 聞き耳 ~


 わたしは今日もごえいかんの中を一人で探検することにしたよ。


 パパとママはカンチョー室で高津艦長と話しているみたい。


 ふふっ。


 扉に耳を当てて、こっそりと聞いてみるよ。


 タカツカンチョーとおっぱいの大きなヒラノさんの声が聞こえてきたの。


「シンイチもラピスも寂しくなるだろうが、ライラのことは心配しなくていい。私たちが責任をもって彼女の安全を守るから」


「帝国では、ライラさんは私の実家でお預かりすることになっています。ライラさんが安心して帝国での生活を送れるように全力を尽くします」


 いったい何の話をしてるんだろ?


「ライラのことよろしくお願いします」


 二人に言葉に応えるパパの声。


「任された! それにしても三年かぁ、ラピスは寂しがるだろうな」


 タカツカンチョー? 何言ってるんだろ?


「うーん、ライラが異世界に行くっていうのをラピスにどう説明したものか、まだ悩んでるところです」


 異世界? 


 ママが異世界に行っちゃうの?


 その夜、わたしは悪夢を見ました。魔族ぐんに襲われて、大好きなパパを失う夢。目が覚めると、枕がぬれてた。


「ラピス!? どうしたの?」


 隣で眠っていたママが、心配そうに聞いてきたの。


「ママ……わたしを置いていかないで……はなれないで……」


 悲しくなってきて、泣きじゃくりながら、ママにしがみついたよ。


 そんなわたしをママは優しく私を抱きしめて、頭を撫でてくれたの。


「大丈夫よ、ラピス。ママはここにいるからね」


 でもママはもうすぐいなくなっちゃうんでしょ?


 言葉を口にすると、本当にそうなってしまいそうなので、何も言えなかった。


 次の日から、わたしはママの傍から離れられなくなったの。


 ママが少しでも離れようとすると、悲しくなって涙が止まらなくなっちゃうの。


 ママが別の部屋に行こうとすると、思わず必死にママの服をつかんじゃうの。


「やだ! はなれないで! ママ、はなれないで!」


 わたしの泣き叫ぶのを見て、ママは困ったような顔をしながらも、また頭を撫でてくれたの。


 ママはわたしを抱き上げて、頬に涙の跡がついたわたしの顔をぬぐってくれた。


 その日、シンイチパパがラピスにママのことを話をしてくれたよ。


 ママの怪我を治すために、三年間もテーコクっていう遠いところに行かないといけないんだって。


 ママが遠くにいっちゃう!


 それが怖くて怖くて、またわたしは泣いちゃったの。


 ママ、お願い! わたしを置いていかないで!


 喉が痛くなるくらい大声で泣き始めたわたしの頭を、パパが何度か撫でると、わたしはスゥーッと眠ってしまったの。



~ 護衛艦フワデラの帰還 ~


 今日は、ママが異世界に行く日。


 悪魔勇者を倒したことで、護衛艦フワデラはテーコクに帰ることになったの。


 治療のためにママも一緒に帰らなきゃいけないんだって。

 

「ママ、はなれないで! 一緒にいて!」


 わたしは必死でママにしがみついたよ!


 でもママは優しくわたしの手を解いて、シンイチパパがわたしを抱き上げたよ。


「シンイチさま、ラピスをよろしくお願いします」


「任せて! ライラ、必ず帰って来てね」


 パパを見上げるとその目に涙が浮かんでた。


 タカツカンチョーと乗組員のみんなも、わたしたちの周りに集まってきたの。


「ラピスちゃん、寂しくなるけど、元気でいるんだよ!」

「ラピス、ママが戻ってくるまでパパの面倒をしっかり見てあげなよ!」

「ラピスちゃん、ラストハスハス」


 みんなの優しい言葉に、わたしは涙があふれてとまらなかった。


 わたしとパパは、へりこぷたーに乗ってごえいかんから離れていったよ。


「ママ……」


 わたしは、ごえいかんフワデラが目の前から消えて行くのを見てたの。


「ママーーー!!」


 パパに抱きかかえられながら、わたしママが消えていった空に向かって泣き叫んだよ。


 シンイチパパの顔を見ると、パパの顔も涙でぐしゃぐしゃになってた。

 

 パパも寂しいんだ!


 そう思ったわたしは、わたしがパパを守らなきゃって思った。


 ママが戻ってくる日まで、わたしがパパを守るの!



~ 翌日 ~


 ママとのお別れの翌日。

 

 わたし泣き疲れて眠ってしまったみたい。目が覚めると、パパがニコニコしながらわたしを見てた。


「ラピス、良い知らせがあるよ」


「え?」


 わたしはパパに連れられて地下帝国の地下十五階に行ったの。


「皇帝陛下! ラピス皇女殿下! 地下拠点へようこそ!」


 地下にはおっきなゴーレムの青さんがいたよ。


 青さんに挨拶したパパは、わたしを部屋の中央にある台座に手招きしたの。


「ラピス、こっち!」


 台座の前にくると、そこに突然、黒いもやもやが出て来たよ。


 もやもやからは、沢山のダンボールやビニール袋に入った食べ物やお菓子が出てきた。


 出て来た荷物を青さんが次々と倉庫の棚に運んでいったよ。


 色々なものが出て来た後、


 声が聞こえてきたの。


「シンイチさま! ラピス!」


 その声を聴いて、わたしは嬉しくて身体を高く上げちゃった!


 だって!


 だって!


 ママの声だもん!


 黒いもやの向こうから、ママの身体が半分出て来たの!


「ママ!?」

 

 ママの姿を見て、わたしはとても驚いたよ。


 だってママがおっきくなってた。


 ずっと大人になってた。


 パパよりもおっきいかも。 


 でもラピスすぐにわかったよ!

 

 これがパパが言ってた本当のママの姿なんだって!


「ママッ!」


 わたしはママに飛びついたけど、ママの身体をすり抜けちゃった。


 わたしが戸惑っていると、パパが教えてくれました。


「うーんとね。ラピス、今のママはね。フワーデさんみたいになってるんだよ」


 フワーデさんはごえいかんフワデラの精霊さんで、見えるし話せるけど触ることはできないの。


「ママ、精霊さんになっちゃったの?」


 パパが小さく頷いたの。


「三年間だけね。ラピスが3つ大きくなったら、元に戻るから大丈夫だよ」


 それはとってもとっても長いような気がする。


 でも精霊になったママとはこうしていつでも会えるんだって!


 わたしは嬉しくてうれしくて、その日はママと一杯お話をしたよ。


 

~ それから三カ月後 ~


 今日もまた精霊ママとお話することができたの。


「ラピス、今日は貴方に紹介したい人がいるの」


 ママの隣には見たことのない男の人が立ってたよ。


「この人はミウラ……タヌァカ春風。あなたのお兄ちゃんよ!」

 

 そう言ってママは、男の人の背中をポンと叩いてた。


「こ、こんにちはラピス。俺は春風、えっと……君のお兄ちゃんってことらしい」


「え? お兄ちゃん? わたしの?」


 わたしがそう尋ねると、お兄ちゃん?は、頭を掻きながら頷いてたよ。

 

 それを見たママが嬉しそうに


「そうよ! ラピス、 ハルお兄ちゃんって呼んであげて!」


 って言ったので、わたしはママに言われた通りにしてみたよ。


「ハルお兄ちゃん?」


 その瞬間、ハルお兄ちゃんの顔が真っ赤になっちゃった。


 その様子がなんだかシンイチパパに似ていて、わたしはハルお兄ちゃんのことが大好きになったの!


 今でも夜になると、ママがいなくて寂しいけど。


「今は、ママがいなくて寂しいってパパが泣いてるときに、頭をナデナデしてあげてるの!」


 こうしてママやハルお兄ちゃんとお話できるから、ラピスはきっと大丈夫なの!


 お別れのときに、ママとハルお兄ちゃんに触れないキスをしたよ!


 ママはとっても喜んでくれて、ハルお兄ちゃんは真っ赤になってアワアワしてた。


「ママ! 早く帰って来てね!」


 黒いもやもやがかんぜんに消えるまで、わたしは元気に手を振ったよ! 




~ おしまい ~



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