六
春休みが終わった。
高校の入学式、お母さんは嬉しそうに彼氏と出席していた。
あの人が家に来ないように、お母さんの彼氏がお金を渡しているらしかった。
あの人が家に来ないのは嬉しい。
でも、お母さんの彼氏もやっぱり苦手。気持ち悪い。いい大人ぶってる。実際いい人なのかもしれない。最初のころよりなれなれしいとか、そういうのは男の人が苦手だからいやなだけなんだと思う。
入学式が終わって、ホームルームで自己紹介、明日明後日にある実力テストの話をして、高校生活よりよく過ごしましょうという担任からの話を聞いて。
私は、これから始まる高校生活になんの感慨もないのだと気づいた。
一番うしろの席だから、教室にいる同級生を見渡せる。きらきらしているように見えた。
私だけが重たいものを抱えているような気がしてしまって、居心地が悪い。
早く陽太くんと話したい。
校内に陽太くんがいなくても頑張れると思っていた。中学生と高校生では違いすぎるんじゃないかって思う。
高校をやめて、校則や勉強から離れる。アルバイトをしながら、ときどき陽太くんと会う。そのほうが時間に余裕があるんじゃないかと、なんとなく思った。
実際に働き始めたら、勉強とは違うしんどさがあるんだろうけど……
いろいろ考えているとチャイムが鳴り、びくっとしてしまう。
先生の話を聞いていなかった。でも手元にあるプリントや黒板に書かれた内容を話していたようだから、問題ない。
ホームルームが終わり、下校時間になる。
私はいそいで靴箱へ向かった。
学校が終わったら、図書館前で待ち合わせをしている。
何時になるかわからなかった。陽太くんは進級だから、そんなに時間がかからないはず。待たせるのはいやだと思って、私は通学用の自転車で向かった。
図書館前のいくつかある花壇のそばのベンチで、陽太くんは待っていた。
見慣れた制服に安心しながら、陽太くんの隣に座る。髪色が金髪から赤っぽい茶髪に変わっていた。
「髪の色、変えたんだね。金髪、きれいだったのに」
「最近つるんでるヤツの知り合いが美容師らしくて、練習台になったんだよ」
「その色だったら、また先生に怒られたんじゃない?」
「金髪よりマシだって言われた。髪の毛より喧嘩とかの素行のほうで説教くらってきた」
よく見ると、左の頬が少し紅く腫れていた。
「殴られたの?」
「そんなのはたいしたことじゃねー」
「無茶はだめだよ」
「無茶しないとだめなんだよ……」
強くなるのって無茶しなきゃいけないくらい、なんだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます