「誰とそんな話をしたの?」

「西中の二年……いやもう三年か。俺が喧嘩に勝ってからやたら絡んでくるやつらがいる。無視してもついてくるから、しかたなくゲーセンで遊ぶようになった」

「それで、女の子の話になったんだ……」


 私が呆れたような口調だったから、陽太くんは焦っている。


「西中のあいつらが、俺がもてるから羨ましいとか言うから! 俺が好きなのは先輩だけだって言った。先輩の話を噂で聞いたことがあるってヤツに冷やかされたりして」

「陽太くんがモテるって話、それも有名なのね?」

「一方的に告白されるだけ。ちゃんと断ってるって話をしてんだけど……」

「私、噂では陽太くんの彼女ってことになってるの?」

「ごめん、迷惑だった? まだ彼女じゃないのに」

「まだ、だよね。彼女じゃないならどういう関係になるの?」

「……嫁? たぶん、いつか」


 ものすごく陽太くんが照れている。顔を隠して私と目を合わさない。


「陽太くんは、未来の旦那さま?」


 自分で口にしておきながら、私も恥ずかしくなった。

 十代の結婚は親の承諾がいる。女は十六歳だけど、男は十八歳。まだ先の話。陽太くんは中学卒業したあと働くから、あと五年?


「だからそんな目でこっち見んなよ……」

「そんな目って何?」

「覗き込むなってば」

「照れてる?」

「あー、もう……」


 陽太くんは突然立ち上がり、防波堤から下に飛び降りた。ポケットからたばこを取り出して火を点け、たばこを吸い始める。


 今から付き合い始めるのがどうしてだめなのか、私にはわからない。陽太くんのこだわりとかけじめとか、いろいろあるのかもしれない。

 告白されて断ってくれるのは嬉しい。

 将来の話をして、未来に楽しみがあるのは、いやなことがあっても乗り越えられそうだから嬉しい。

 



 この頃の私は、心のどこかにある不安に気づけてなかったかもしれない。

 将来なんていう漠然とした未来を信じすぎていたから。


 

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