爐花
伊島糸雨
爐花
魔術の付された契りの針にふた筋の血が絡み合い、次第に滲んで消えてゆく。司祭はその様を見届けると、誓約の言を閉じて言う。「
やがて、灯火の女王は語り出す。自らと、遺灰の
「耳聡い貴女のこと、近頃の噂は知っているはず。遺灰の后が、かの秘宝に選ばれた、という。一体誰が言い出したのか……彼女が
「秘宝──古き
すべての亡骸の上に在り、過ぎゆく一切を悼む大地にあって、
夜霧と尖塔に沈む王都で
「貴女は、どう考えますか」
問いかける声は霞のようで、捉え難く真意を散逸させた。灯火の魔術は昏きに宿り、翳に滲んで隘路を導く先触れの火。しかし、いかに強大な魔術師であれ、血潮の住処は柔く脆く、霧に隠れては声を潜めた。
問われた司祭は頭を覆う
「天に
そう言って、女王は束の間、遺灰の
玉座と連なる
それでも──。女王は呟き、華奢な手指を握り締めた。「
司祭は答えなかった。紺瓏に灯火は眩く……しかし女王には、それだけで十分だった。
灯火の継承以降、女王は折に触れて暗がりの
「私は巡礼者に過ぎません。いずれは、ここも去るつもりです」拒絶でなく弁明でなく、戯れにも似た声音が落ちる。相合を崩し、刹那の交わりを想うように、女王は呟く。
「そう言って、すべてを見届けてきたのでしょう。
揺らめく炎が瞬き消える。
「
だが、気が変わった、と
「姉上」静謐の玉座で女王は囁く。翼を広げた骨の衣が蠢き、胸の内奥へと潜っていく。
「
燃え尽きるその時まで、どうか、共に。
祝福と呪縛は溶融し、運命は混色の空を照らして霧の塔へと散っていく。
爐花 伊島糸雨 @shiu_itoh
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