お願い、はなさないで

蒼河颯人

お願い、はなさないで

「三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい」


 と、高杉晋作が唄ったとされる都々逸がある。

 誰だって恋しい相手と一緒にいたい。

 わけあって夜しか逢えないのであれば、尚更想いは募るものだ。

 切なく、狂おしい、その想い。

 

 しかし、生きていれば朝は必ずやってくる。

 どんなに来て欲しくないと思っていても、陽は必ず昇るものだから……


 □■□■□■


 早いな……もうこんな時間だ。

 朝だ。

 そろそろ起きないといけない。

 別れの時間がやってきた。


 寝所にて俺が身をゆっくりと起こそうとすると、お前は「お願い、わたしを離さないで」と言わんばかりに、顔を歪めてくる。涙声で訴えたいのを、その胸の内へと必死におさえ込んでいるかのようだ。

 健気な表情をしてくるものだから、俺の胸の奥がきりりと傷んでくる……こんなに苦しいことはない。

 お願いだ。そんな顔をしないでくれ。俺だって、お前を離したくないに決まっている。

 当たり前だろう? 俺だって、出来ればお前の中から出たくない。

 温かくて、柔らかくて、奥まで深く深く入った途端、一気に楽園まで連れて行ってくれる。

 それも、いつだって裏切ることなく、俺に癒やしを与えてくれるのだ。


 それに、常にお前は俺に優しい。

 仕事でつらい思いをしても、人間関係で嫌な思いをしても、

 どんな時でも俺を優しく温かく包み込んでくれる。

 浮世を忘れさせてくれる。

 俺は、そんなお前が大好きだ。

 愛している。

 絶対に手放したくない。

 出来ることなら、お前と四六時中ずっと一緒にいたい。

 離れたくない……許されるなら……


 だけど、現実は非情だ。

 夜明けの訪れは、そんな俺達を強引に引き離そうとするのだから。

 こんなに想い合っているというのに……!

 すまない、こんな罪深い俺を許して欲しい。

 お前を捨てたわけじゃない。

 また、帰ってきたらすぐお前のもとへゆく。

 そして、ずっと抱き締めていよう。

 幸い、明日は休日だ。

 喜べ、ずっと一緒にいられる。

 

 ──寒い時期、俺を温めてくれるおふとんは、俺の最愛の恋人だ。

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お願い、はなさないで 蒼河颯人 @hayato_sm

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