離さないで
板谷空炉
離さないで
放課後の教室。クラスメイトは帰るなり部活に行くなりして、残っていた他の人たちも知らぬ間にどこかへ行っていた。私は部活が休みだったから宿題をしつつ、友人である北浜の、生徒会役員会議が終わるのを待っていた。
北浜は私にどうやら相談があるらしいけれど、その内容は全く分からない。
──少しだけ開いた隣の窓から吹く風が、セーラー襟を通って全身に広がった。
「ごめん、遅くなった……!」
声のする方を向くと、北浜は少しだけ息を切らしてドアの前に立っていた。暑かったらしくワイシャツになっており、学ランは脱いで鞄とともに腕に抱えていた。
「北浜、お疲れ様。見ての通り今誰も教室にいないから、とりあえず入りな?」
「おっけ。じゃあ、失礼します。」
そう言って北浜はこの教室に入り、自分の前の席に座った。他クラスの北浜がここにいるのが、なんだか新鮮だった。
「ところで“相談”って、いったい何があったの?」
私が課題と筆記用具を机の端に寄せながら聞くと、北浜は椅子をこちらに向けて座った。そして、
「福崎ってさ、好きな人いるの?」
と聞かれた。
「──今朝クラスの女子に告られたから返事を保留にしてる!?」
「……うん」
びっくりした、何故なら今までそのような話は一度も聞いたことが無かったから。いや、北浜の性格的に今まで無かった方がおかしいのかもしれない。
「福崎、どうすればいい?」
「え、そんなの北浜が決めなよ。」
「だよねえ……」
バッサリと切ってしまったが事実だ、これは北浜の問題だから。
「で、そのことと私に好きな人の有無を聞くの、何か関係あるの?」
一番はこれだ。関係なかったら、最初の切込みで告白された事実を言うべきだから。
「いやあ、なんというかその……。俺好きな人がいて」
「それをもっと早く言ってよ!」
それなら断ったほうがきっと、北浜にもその女子にもいいと思うから。
「俺さあ、福崎のこと好きなんだよね」
「は?」
衝撃的な言葉が耳を貫いた。そして次の瞬間、
「……!?」
何が起こったか理解するのに、少し時間が掛かった。
今……北浜とキスしてる!?
だけど、とても心地良い。このまま時間が止まって、ずっと離さないでほしいくらいに。
今まで友達だと思っていた、北浜とのキス。
こんなにあたたかくて、満たされるものだって知らなかった。
唇が離れ、彼のことを見る。
夕日よりも真っ赤な顔をしており、とても愛らしく思えた。
「……北浜、あの子の告白断ってよ。そして、私と付き合ってください。」
離さないで 板谷空炉 @Scallops_Itaya
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