若き弟王子の苦悩
高山小石
お題「はなさないで」
「弟王子ぃ、見てみて〜」
「は? なぜ【
十四歳の弟王子と同じくらいの少女の姿になった【唯一無二の魔法の杖】は、くるんとまわってドレスをひるがえした。
元の杖姿と同じ色の髪と目をしている以外に、杖の面影はひとつもない。
「いいでしょ! これなら王太子と結婚できる?」
「あぁユイ、私と病めるときも健やかなるときも一緒にいてくれるの?」
「もっちろん。ずっとず〜っと王太子と一緒だよ♪ 私のことはなさないでね」
「私がユイを手離すわけないよ」
王太子は愛しそうに少女姿の【魔法の杖】抱きしめた。
「いやいやいや! 兄上、なにあっさり受け入れてるんですか! そもそもどうやって人間の姿になった?」
「【変化】したらなれちゃったんだぁ」
「ふふ、ユイとの子供も可愛いだろうね」
「うんうん、王太子に似てる子もいっぱいほしいなぁ」
王太子は【杖】を両腕に閉じ込めたまま、薔薇色の未来予想図を熱心に語り合い始めた。
(いくら【変化】したからといって、【杖】と子供なんてできるのか? いや、この【杖】と兄上の魔力量があれば、不可能も可能にするのか?)
「兄上、【杖】は王妃教育を受けていません」
「大丈夫だよ。私の【唯一無二】になってからは私と一緒に授業を受けてきたんだ。知識量に問題はない。あとは社交術とマナーさえ覚えてもらえれば。ねぇユイ、私のために頑張ってくれる?」
「はぅん。王太子と一緒にいられるなら、なんでも頑張れるよ!」
「ふふ、嬉しいな」
王太子を信頼しきった【杖】の満面の笑みに、弟王子は黙り込んだ。
(私は今なにに衝撃を受けたんだ? 落ち着け。相手は【杖】だぞ!)
「あぁユイ、可愛い」
「もうっ。王太子、大好き♡」
「ねぇユイ、そろそろ私のこと名前で呼んでほしいな」
「う、それ、は。まだ恥ずかしいから無理ぃ」
「ふふ、ユイは照れ屋さんなんだから」
両手で隠す真っ赤に照れた【杖】の顔を、王太子はつんとつつく。
(なんだこれは! いつものやり取りも人間の姿だと、こうもバカップルっぽくなるものなのか! 【杖】の方がまだ良かったぞ!)
戦慄した弟王子は悪夢から目覚めて安堵したが、苦悩する毎日は終わらなかった。
※※※
本物の【杖】には結婚願望も子供うんぬんみたいな欲もありません。これは弟王子の願望からうまれた悪夢です。
若き弟王子の苦悩 高山小石 @takayama_koishi
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