【KAC20245】悲しいすれ違い

きんくま

悲しいすれ違い

「「はなさないでね!」」


声を揃えて訴えたのは顔のそっくりな二人の子供。

どんな物でも揃えている、そんな噂のブラン商会。

その商会長の養子の双子だ。


「もちろんだよ~」


船旅の途中のブラン会長たちはつい先ほどまで釣りをしていた。

釣果は上々、船に備え付けられた生簀いけすに沢山の魚が泳いでいる。


「「はなさないでね!」」


「もちろんだよぅ」


ドワーフの青年も同意する。

彼はブラン会長が立ち寄った街で出会った仲間だ。



双子が何故ここまで”はなすな”と言ったのか。



ブラン会長は分かっている。

会長の相棒の妖精は海産物が大好きだ。

釣果を見せて驚かせたいのだ。

微笑ましい子供たちの計画をんてことは絶対にしない。



ドワーフは分かっている。

双子は妖精を驚かせたいのだ。

だから魚をんてことはしない。



しかし、ドワーフは少しだけ心配だった。

ブラン会長が手にかけているレバー。

そこから手をと生簀の水が放流される。

忠告をしようとしたが、丁度妖精がやってきてしまった。

彼は余計なことを言わないよう口をつぐんだ。



「あ! ちょっとおいでよ~」


ブラン会長は満面の笑みで妖精に手招きをする。

当然、レバーから手を離して…



「「あーー!!!!」」



ザバーと勢いよく生簀の水が海へと流れていく。

ブラン会長は突然の出来事に驚いて固まっている。

双子はプルプル震え、遂には声をあげて泣き出した。


ドワーフの青年は理解した。

双子はレバーから手をと言いたかった。

ブラン会長はそれをと勘違いした。

そして自分もだと思っていた。



「あのね…――」


ただ一人、状況を理解したドワーフの青年がブラン会長に説明する。

会長は顔面蒼白、もうこの世の終わりのような顔だ。



「ごごごごめん!! 僕、取り戻してくるよ!!」


混乱して海に飛び込もうとする会長を妖精は必死で止める。

号泣する双子、今にも入水しそうな会長、慌てる妖精。

船上は混沌とし、収まるまで暫くの時を要した……

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